第42話 ユーリアと一緒に
「貴女って、本当に強いのね」
学校からの帰り道。夕陽を見上げながら、ユーリアがしみじみと呟いた。
「そんなことないよ。昔から訓練してるから、みんなより早く覚えてるだけ」
「過度な謙遜は嫌味になるわよ?」
呆れたように言うと、ユーリアは少し緊張したような顔になった。
「……ユーリア?」
「私ね、貴女となら、一緒に夢を叶えられるんじゃないかって思うの」
「……魔物に殺されて孤児院に入る子供をなくす、って夢だよね」
レストランでユーリアが教えてくれたことだ。
ええ、とユーリアは元気よく頷いた。
「でも、それだけじゃないの。私の夢には続きがあるのよ」
「続き?」
「そう! 全ての人が、平和に、平等に暮らせる世界。貴族だとか平民だとか、魔法が使えるとか使えないとか……そういうの関係なく、誰もが尊重される世界を作るのが夢なの」
「誰もが……」
「そのためにはまず、魔物のいない平和な世界を作らなきゃ。魔物がいたら、命を懸けて魔物と戦える人が力を持つのは当然だもの」
ユーリアが語る世界は理想的過ぎる。
もしこの世に魔物がいなくなれば、きっと人間同士でより争うようになるだろう。それは歴史が証明してくれる。
物理的な戦いがなくなったとしても、今度は他の価値基準で階層が生まれるだけだ。
ただでさえ今も貴族と平民という身分の差があるのだから。
(ユーリアが望む世界を実現するのは、すごく、すごく難しい)
でもそれは、ユーリアにとって夢を諦める理由にはならないのだろう。
「私、私は……」
誰かを救いたいとか、世界を変えたいとか、そんな大それた望みを持ったことなんてない。
魔法軍に入ったフィーネが強大な魔物を倒しても、フィーネの過去は変わらない。
死んだ両親が生き返ることはないし、目の前で両親が死んだ記憶がなくなることもない。
(――だけど、私と同じような目に遭う子を、私は救えるかもしれない)
それだけじゃない。
ブルクハルトがフィーネを救ってくれたように。
フィーネも誰かを救うことができるのだ。
そんな希望を、夢と呼んでしまうのはどうだろう。
「……も、もしかしたら、だけど、私と同じ目に遭う子をなくすことが、夢なのかも」
口にした瞬間に、不思議と身体が軽くなった。
走り出したいような、叫び出したいような、そわそわした気持ちで胸がいっぱいになる。
「素敵な夢ね‼」
満面の笑みを浮かべたユーリアが、勢いよくフィーネに抱き着いてきた。
「わっ……!」
バランスを崩しかけたフィーネが声を出すと、ユーリアが声を上げて笑う。
「ねえ、フィーネ。私達、きっとずっと、一緒に頑張れるわよ!」
「……そう、かな」
「かな、じゃなくて、そうなの! 一緒に頑張りましょうよ!」
なにかを頑張るということは、フィーネにとって大変なことを耐えることと似ていた。
体力の限界まで走り込みをしたり、魔力が尽きるまで魔法を使ったり。
けれどユーリアが口にした『頑張る』という言葉は、すごく素敵な響きを帯びている。
「……うん。私、頑張りたい。その、ユーリアと一緒に」
口にした瞬間、フィーネ自身まできらきらと輝いたような、そんな気がした。




