第40話 フィーネの得意魔法
瞬間、アンドレアが大きく後ろに跳躍した。魔法発動のために魔法陣を描くつもりなのだろう。
(今回の決闘の目的は、これ以上周りに絡まれないようにすること。だから必要なのは、素早く、圧倒的に勝つことだ)
頷いて、フィーネは前方に跳んだ。アンドレアは逃げるつもりだろうが、フィーネとしては逃がすつもりはない。
アンドレアに蹴りを放ちながら、空中で魔法陣を描く。
彼女が慌てて杖でフィーネの蹴りを受け止めた瞬間にはもう、巨大な水の竜が上空に出現していた。
「竜……⁉」
「得意なんです、なにかの形を作るのは」
杖を振り下ろすと、水の竜がアンドレアめがけて下りてくる。
とっさにアンドレアが火魔法を放とうとしたが、蹴り技を続けざまに放つことで彼女が魔法陣を描くのを防いだ。
「……っ!」
力任せにアンドレアが杖を振り下ろしてくる。
素早く杖を躱し、その場から離れたのと同時に、水の竜が彼女を丸呑みにした。
「うっ、くっ……い、息が……っ!」
窒息死させるわけにはいかない。適度なところで、竜にアンドレアを吐き出せる。
しかし、彼女を休ませるつもりはない。
(止められないってことは、まだやっていいってことだもんね)
水の竜ではなく火の竜で攻撃しようとしていたら、とっくにブルクハルトに止められていただろう。
だが、火属性魔法は手加減がしづらく、決闘には向いていない。
「なっ、舐めないで……! 貴女なんかに負けないんだから!」
びしょ濡れになったアンドレアが素早く魔法陣を地面に描く。
魔法陣から眩しい光が放たれ、彼女の周囲を包んだ。
結界魔法だ。光属性魔法の一種で、防御の役割がある。
物理攻撃を防ぐもの、魔法攻撃を防ぐもの、その両方を防ぐもの……結界の種類は様々だが、攻撃してみないことには分からない。
結界の中でアンドレアは深呼吸を繰り返している。体力を回復しようとしているのだろう。
試しに石を投げてみるとはじき返された。水の竜で攻撃しても効かない。
どうやら、物理攻撃も魔法攻撃も防ぐタイプの結界のようだ。
(見たところ、結界強度も高い。やっぱり、実力はちゃんとある人なんだ)
ちら、とブルクハルトの様子を見ると、落ち着いた様子でフィーネを見つめていた。
(ブルクハルトさんに、情けないところなんて見せられない)
おそらく、フィーネとブルクハルトの関係はもう多くの生徒にバレてしまっている。
だとすれば、フィーネが負ければ彼が恥をかく。
それだけは、絶対に避けなければならない。
(よし……‼)
ここ最近、一番練習している魔法を使ってみよう。
深呼吸をして、フィーネは地面に大きく魔法陣を描いた。
少々時間はかかるが、アンドレアも結界の中に閉じこもっている。こちらの攻撃は届かないが、向こうの攻撃も届かない。
フィーネは全ての属性の魔法を使うことができるが、最も得意なのは創造魔法だ。
そして今回使うのは、創造魔法と土属性魔法を組み合わせたもの。
「土人形、召喚……‼」
ゴゴゴ……! と大きく地面が揺れ、ぐにゃりと土が歪む。
観客達がきゃあっ! と大きく悲鳴を上げた。
ぐにゃりと歪んだ地面から、大きな土人形が出てくる。
その数は五体で、背丈はフィーネの十倍はある。
創造魔法は、昔からフィーネが得意とする魔法だった。
「結界を張ってるのは地上だけ。だったら、全部ひっくり返せばいい」
結界魔法を解除する方法もいくつかあるが、今大事なのは派手に勝つことだ。
だから、土人形を使うことにした。
フィーネが腕を下ろすと、五体の土人形がアンドレアめがけて歩き出す。
彼らが一歩踏み出すたびに、盛大に地面が揺れた。
アンドレアは結界を強化するために、結界内で再び魔法陣を描いている。
(でも私、結界なんて狙ってないから)
五体の土人形は結界を攻撃するのではなく、結界周りの地面をえぐるように両手を地面に振り下ろした。
地面が割れ、結界ごとアンドレアは掘り出されてしまう。
「はっ……⁉」
下からの攻撃に備えはなく、土人形の一体がアンドレアの身体を掴んだ。
(あとはただ握り潰せば私の勝ち。だけど……)
ちら、とブルクハルトへ視線を向ける。
「試合終了! フィーネ・フェルナー、彼女を離してやれ」
「はい」
これ以上やれば、アンドレアを潰すしかなくなる。
ブルクハルトもそう判断したのだろう。
ゆっくりとアンドレアを地面に下ろす。彼女は顔を真っ青にし、ぷるぷると震えていた。
観客席に視線を向けると、ひぃっ! と怯えたような悲鳴を上げられる。
「勝者、フィーネ・フェルナー!」
拍手はまばらだった。けれど、ユーリア以外にも拍手をしてくれた人がいる。
(誰だろう、あの金髪の女の子……)
胸元にペンダントをつけている。入学式で見たような気がするから、たぶん他のクラスの生徒だろう。
知り合いでなくとも、決闘を見てきちんと拍手をしてくれた人がいる。
その事実に、フィーネは少しほっとした。




