第37話 宣戦布告
「って、フィーネ、貴女食べすぎじゃない⁉」
「そうかな? あ、さっきのポテトとソーセージの盛り合わせおかわりしたい。あと、このチーズ乗せシーフードリゾットと、イカ墨のパスタと……」
こういう店にくるのは初めてだったけれど、ユーリアが言っていた通り安いわりにかなり美味しい。
どうせ自分ではこんなに凝った料理なんてしないんだから、この機会にいっぱい食べておけばいい。
「あ、パンも頼もうかな。ユーリアも食べる?」
「これ以上食べたらお腹が破裂するわよ」
はあ、と呆れたようにユーリアが溜息を吐いた。
けれど、フィーネを見つめる眼差しはとても甘い。
「でも、デザートは貴女と一緒に食べようかしら」
「分かった。じゃあ、他に牛肉のシチューときのことチーズのピザを頼んだら、私もデザートにする」
「さらに食べるのっ⁉」
「い、いっぱい食べた方がいいって、よく言われてて……」
「……それが魔力量の秘訣なのかしら?」
◆
「「ごちそうさまでした」」
二人そろって手を合わせる。
満足いくまで注文を繰り返したおかげでフィーネも満腹だ。
(今日は気持ちよく寝られそう。あ、でも、お風呂入るのちょっと面倒臭いなあ)
とはいえ、魔法学園の授業では身体を動かしてたっぷり汗もかいている。風呂に入らずに眠るのはまずいだろう。
「ねえ、ユーリアの家は……」
どこ? と聞こうとして途中でやめたのは、店を出た瞬間に複数の人間に囲まれたからだ。
全員が魔法学園の制服に身を包んでいるが、見覚えがない人間もいる。
(クラスメートの人達……だけじゃ、ないよね?)
まだクラス全員の顔を覚えているわけではないため自信はないが、おそらくそうだろう。
「貴女がフィーネ・フェルナーね?」
中央にいた女生徒が歩み出てくる。
その胸元には、ブラックオニキスの埋め込まれたペンダントがあった。
(確か、ブラックオニキスのペンダントは、四位の成績の人に贈られるんだよね。ただ、学年が分からないな……)
魔法学園は四年制で、同じ宝石のペンダントを持つ者は四人いる。
そのため、ペンダントだけで個人を識別はできない。
しかしフィーネの疑問を見透かしたように、女生徒が自ら名乗ってくれた。
「わたくしはアンドレア・フォン・バルシュミーデ。魔法学園三年の生徒よ」
「……はあ……」
彼女の名前と学年は分かったが、いったい何の用なのだろう。顔見知りのクラスメート達はにやにやとした表情を浮かべ、彼女の後ろに控えている。
「貴女が一年生のトップなんですってね。聞いたわよ。ずいぶんと調子に乗った振る舞いをしているって」
「……いや、別に……」
調子に乗るどころか、ユーリア以外とはろくに会話すらしていないのに。
「貴女の意見は聞いてないわ」
横暴なことを言うと、アンドレアは懐から杖を取り出した。そして、フィーネの胸元に突き付けてくる。
「フィーネ・フェルナー。貴女に決闘を申し込みます」
「……えっ⁉」
魔法学園では私的な決闘は認められていない。
しかし、公的な決闘は認められている。
両者合意の上で学園に決闘申請書を提出し、一名以上の教師の管理下のもと、校庭で行われるのが公的決闘だ。
決闘というより実践的な対戦訓練であり、金銭やその他の物を賭けるのは禁止されている。
一方で見学は推奨されており、多くの生徒が見にくる行事でもある。
「あの……断ってもいいですか?」
決闘に応じるメリットを感じられない。フィーネはそう判断したのだが、アンドレアは勝ち誇ったように笑った。
「あら。自信がないのね。そうよね、いくらルビーのペンダントの持ち主とはいえ、入学したばかりの一年生ですもの」
アンドレアにどう思われても構わない。
無視してユーリアと共に立ち去ろうとすると、待ちなさい、と背中から声をかけられた。
「わたくしの叔父は魔法軍で働いているの。叔父から聞いたわ。貴女、ブルクハルト教官の養子なんですって?」
学園では通称を使っているし、自分から事実を口にしたことはない。
しかしブルクハルトが任務中に救出した『フィーネ・フェルナー』という子供を引き取ったことは軍の記録にも記されている。
知っている人がいてもおかしくはない。
「どうせそのペンダントも、教官に贔屓してもらったんでしょ」
無視をすればいい。
ブルクハルトが子供への愛情から不正を働くような人物でないことは、生徒も教師も分かっているだろう。
そう思うのに、フィーネは無視することができなかった。
「……ブルクハルトさんは、そのようなことをする人ではありません」
振り向くと、アンドレアが挑発するように口角を上げる。
「なら、それを証明するために決闘に応じてくれるわよね?」
フィーネ、と不安そうな声でユーリアに名を呼ばれた。
安心させるように笑ってみせたが、ぎこちない笑みになっていたに違いない。
「分かりました。……その、決闘にあたって、一つお願いがあります」
「なにかしら?」
「できる限り観客を集めてください。こうやって難癖をつけられるのは、一度で済ませてしまいたいので」
怒鳴ろうとしたアンドレアを無視し、ユーリアの手を引いて走るように逃げ出した。




