第29話 私にはもう
「お疲れ様」
はい、とビアンカに渡されたグラスには、ビールがたっぷりと注がれていた。
仕事中に酒を飲むのは気が引けるが、村人達の好意を無駄にするわけにはいかない。
村を助けてくれたお礼に、村人達が宴を開いてくれた。
飲み食いはできないが、コンラートも楽しそうにマックスとはしゃいでいる。
明日の朝、コンラートを連れて村を出発する。
山中で彼を土に還し、そのまま帰宅する流れだ。
(疲れたな……)
大量の魔力を消費したし、なんだか、気持ち的にも疲れた気がする。
ビアンカはフィーネの隣に腰を下ろした。
彼女の視線の先にいるのは、村の子供達と一緒に遊ぶユーリアだ。
この短期間の間に、ユーリアは子供達にずいぶんと懐かれたらしい。
「わたくし、軍に入っていろいろな依頼に対応してきたけれど……こんなに清々しい気持ちで終わる依頼は初めてだわ」
「どうして?」
「助けを求める人々が、助けたい人々だったんだもの」
村人達を眺めながら、ビアンカは微笑んで酒を飲んだ。
人に助けを求める人の中には、助けられて当然だと考えている者や、何の努力もしない人間も多い。
特に魔法軍に依頼するような人々の大半はそうだろう。
自分達はただの凡人でなにもできない。
そんな自分達を助けてくれるのは、才能ある魔法軍の人々だ。そんな風に考えている人は多い。
シュネー村の人々のように、今後のことを見据え、自分達でできることをしながら、頼るべき時に他人を頼れる集団は極めて少ない。
(……誰かを助けてあげたい、なんて理想を掲げるのは簡単だ)
かつてはフィーネも、心の底からそう思っていた。
魔物のせいで大切な人を失い、苦しんでしまう人をなくしたい。
本気で、ユーリアとそんな夢を語り合っていた。
けれど現実は、フィーネの理想よりずっと汚かった。
「ねえ、フィーネ」
「なに?」
「貴女ならきっと、正真正銘、本物の勇者になれるわよ」
「……無理だよ」
勇者に必要なのは、きっと純粋な戦闘力じゃない。『勇者』として生きていく覚悟だ。
「私にはもう、無理……」
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
このたび、本作が10月23日(金)にグラストNOVELS(スターツ出版)様より書籍化されることになりました。
詳細等は、今後、近況ノートなどでもお知らせしていきます!
引き続きこちらでも連載してまいりますので、お楽しみいただければ幸いです。
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