第28話(マックス視点)俺の勇者
「へえ。ここが俺の墓なんだな」
村のはずれにある墓地の中央に、コンラートの墓がある。
大きな墓石には『辺境の勇者・コンラート ここに眠る』と刻まれ、墓の横には銅像が建っている。
コンラートが魔物達を倒した後、村人達は役割ごとに動き始めた。
コカトリスの首を村の入り口に飾るにあたって、魔法軍の隊員達が防腐処理等を行ってくれる。
その様子を見学しつつ、手伝えることをするのが若い男達の仕事だ。
また、若い女達は魔法軍から派遣されてきた軍人達や魔法人形屋へ感謝の気持ちを伝えるために宴の準備をしている。
年寄り達は今後の村の運営についての話し合いだ。
ビアンカを相談役にし、今後、魔法具の購入や定期的な魔法軍のパトロールを依頼するために必要な金額を計算している。
そんな中で、マックスはコンラートと二人で過ごす時間をもらった。
正確に言えば、魔法人形屋を含めた三人だが。
魔法人形屋のフィーネは魔法人形から離れることができないらしい。
二人の会話を見守るように、彼女は少し離れた場所に立ってくれている。
「この墓はお前が作ったのか?」
「ああ。……もっと立派な方がよかったか?」
「十分過ぎる。それに、毎日きてくれてるんだろう」
ピカピカに磨かれた墓石を前にしたら、誤魔化すことはできない。
なにより、残された時間は少ないのだ。変な意地を張っている場合じゃない。
「……ああ。毎日、朝と夜にきている」
「三十年も?」
「これから先、何十年でも」
コンラートは照れたように頬を赤くすると、そうか、と顔を逸らした。
彼とは親同士の仲が良く、産まれた月も一緒で、物心がついた時から共に過ごした。
小柄で細身、女みたいだと揶揄われることの多かったマックスにとって、コンラートは小さい時から憧れの存在だった。
運動神経がよく力持ちで、年上と喧嘩をしても負けない。
そんな彼が魔法まで使えるのだと知った時は、自分のことのように誇らしかった。
――でもそのせいで、彼は『勇者』にされてしまった。
「なあ、コンラート。後悔はしていないのか?」
聞いたって仕方ない。聞かない方がいい。分かっているのに、聞かずにはいられなかった。
「ああ。もし時を戻せても、俺は同じ道を選ぶ」
自分はどうだろう。時を巻き戻せたら、村を捨てて一緒に逃げようとコンラートを誘ってしまうかもしれない。
「今日、村のみんなを見て改めて確信した。俺が守った村は、守るべき価値があるものだった」
「……コンラート」
「後悔があるとすれば、自分の弱さだ。俺が本物の勇者なら、俺は死ななかったし、もっとみんなを守ってやれただろうな」
そっと息を吐くと、コンラートは振り返ってフィーネを見つめた。
「お前は分かってるだろう。今日の俺は、俺の力で戦ったわけじゃない」
窓に張り付いてコンラートの戦いぶりをじっと見ていたから、もちろん分かっている。
本来コンラートが使えた魔法は簡単な火属性の魔法ばかりで、あくまでも戦闘の主体は剣術だった。
今回のように派手な魔法は使えなかったし、戦いの前はいつも身体が震えていた。
「それでも俺にとって、勇者はお前だけだ」
怖くても、不安でも、村のために戦うことを選んでくれた。
力量不足を実感しながら戦うことを決めるなんて、並大抵の人間にできることじゃない。
「お前は世界一格好いい、俺の勇者だ」
「……お前は昔から恥ずかしい奴だったな」
照れた時、目を逸らして頭をかく癖は変わっていない。
(会えてよかった)
きっと明日からもまた、毎日会いたいと思いながら過ごすのだろう。
たった一日で割り切れるほど立派な人間ではないし、忘れたいなんて思ったことはないから。
けれど今日、こうして、改めて別れの一日をもらえてよかった。
「……フィーネさん」
極限まで存在感を消してくれていた彼女に近づき、深く頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「いえ、その……仕事をしたまでですし」
「貴方のおかげで村も、私も救われました」
「……その、一つだけ、聞いてもいいですか?」
「なんでも聞いてください」
躊躇いがちにフィーネが口を開いた。
「どうして、貴方は……いや、村の皆さんは、こんな風に、村のために力を合わせることができるのですか?」
天才的な魔法使いが口にしたのは子供のような質問で、マックスは少し驚いてしまった。
「小さな村ですから。生きるためには、そうするしかないんですよ」
コンラートに頼ってしまうことは多かったが、当時も、彼にばかり頼ることはできなかった。
彼は少し戦闘能力のあるだけの若者で、彼を支えるのはみんなの役目だった。
それに、魔物と戦っていればいいわけでもない。
魔物が襲ってくるせいで荒れがちな畑のことも考えなくてはいけなかったし、外部と連絡を取るのも一苦労だったし、日々の食事を用意するのも大変だった。
一人ひとりが生き抜くためには、一人ひとりが力を合わせるしかなかったのだ。
そしてそれは、今も変わっていない。
「……そう、なんですね」
深く頷いたきり、彼女は黙り込んでしまった。
――もしかしたら。
彼女は、人からなにかを押しつけられるような生き方をしてきたのかもしれない。




