第27話(マックス視点)一番の願い
「コンラート様、万歳‼」
「辺境の勇者・コンラート、万歳‼」
皆が口々に幼馴染を褒め称える声を上げている。彼を知っている者も、噂でしか彼を知らない者も。
三十年もの月日が流れた。世の中は変わり、平和が訪れ、マックスは結婚して子供が生まれた。
だが目の前の幼馴染は、あの日からなにも変わっていない。
魔物に襲われ、動けなくなったマックスのもとへきて『安心しろ』と言ってくれたあの日から。
何度、引きとめるべきだったと後悔したか分からない。
村が大事だった。村のみんなが大事だった。
でも本当は、幼馴染が一番大事だった。
けれどあの日、彼が覚悟を決めた目をしていたから。
彼は昔から、マックスにとっては一番の勇者だったから。
――だから、コンラートを引きとめることはできなかった。
「……コンラート……」
声が震える。皆に求められる英雄は、真っ直ぐにマックスのもとへ歩いてきた。
彼の目に映る自分は、ずいぶんと年をとってしまっている。
「マックス‼」
太い腕を肩に回される。意志の強そうな瞳と太い眉、大きい口。
毎日、村中の銅像を見て回っている。でも、どうしたって記憶は薄れてしまう。
(ずっと……ずっと会いたかったんだ、俺は……)
コンラートとの約束を果たすため、彼を『辺境の勇者』として広めた。本を書き、銅像を建て、噂を広げた。
彼が守ってくれた村を守るために、自治会を立ち上げ、村人達に防衛手段を学ばせ、もしもの時のための金を積み立てた。
コンラートの親戚にあたる、身寄りのない子供を引き取って養子にした。
畑に少し被害が出た時点で、伝手を使って領主に救援を求めた。
幼馴染が死んでからの間、それなりに忙しく過ごしていたのだ。
自分ができることを必死に考えて頑張ってきた。これからも、やるべきことは山積みだった。
――でも、一番の願いは、あの日から、一度だって変わっていなかったのだろう。
「……会いたかった……‼」
声が聴きたかった。顔が見たかった。笑ってほしかった。ただ、それだけ。
誰より『辺境の勇者』を愛している自信はある。
けれどそれ以上に、ただのコンラートが愛しかったのだ。
「お前なあ……」
困ったように笑って、コンラートはマックスの頭を乱暴に撫でた。
「本当、変わってねえな、マックスは」
三十歳も年を重ね、老いた彼を見て、コンラートは笑った。
「昔からお前は泣き過ぎだ。そんなんで、立派に村を守れてんのか?」
「……うるさい」
涙が止まらなくなったマックスを抱き締め、コンラートは彼の背中をそっと撫でる。
「俺も、ずっとお前に会いたかったよ」




