第25話(コンラート視点)こんな風に
「コンラートさん。コカトリスの首を」
再びフィーネはそう口にした。
相変わらず、迫りくる魔物達に視線すら向けずに倒し続けている。
一般的な魔法使いといえば近接戦闘はしないイメージだが、彼女は拳や足に魔法を纏い、物理的に魔物を攻撃していた。
「思ったより雑魚が出てきますが、コカトリスを倒せば落ち着くでしょうから、後でまとめて対処しましょう」
炎の竜で雑魚の大半を焼き払ったはずだが、森から新しい魔物達が続々と現れている。
彼女の言う通り、先にコカトリスを仕留めるのが効率的なのだろう。
(だが……)
コカトリスの身体は大きく、首はかなり太い。おまけに、巨大な口から威嚇するように青い炎を吐き出している。
首を落とすどころか、近づくことすら困難に見えた。
「大丈夫です。できますから」
風が吹いて、隠れていた彼女の右目が露になる。
(左右で目の色が、違う……)
金色の右目と、桃色の左目。
色は分からないが、魔王を倒した勇者も左右で目の色が違う金銀妖瞳の持ち主だったと聞いたことがある。
「コンラートさん。村の人達は、貴方の活躍を待っています」
もし単純に魔物討伐だけを望んでいるのなら、わざわざ『コンラートを復活させてほしい』なんて依頼はしなかっただろう。
だが、村長の希望を受け、領主が直々にフィーネに依頼をしたと聞いている。
(俺の死後、みんなが俺を勇者にしてくれたからだ)
人の心を支えるものは結果だけではない。だからこそ、勇者という存在そのものが求められている。
復活した『辺境の勇者』が、故郷のために再び魔物に立ち向かった。
その事実はきっと、これから先何年、何十年と村人達を支える力になる。
「貴方なら――いえ。貴方にしか、できないことなんです」
剣を握る手に力を込める。今の自分は昔の自分ではないと分かっていても、コカトリスに挑むのは怖い。だが、怯えているわけにはいかない。
「……俺がやる」
村のために。村人達のために。なにより、自分自身のために。
コカトリスめがけて走り出す。フィーネも並走してくれるのが心強い。
近くで見ると、コカトリスは想像以上に恐ろしかった。大きな口の中には鋭い牙があり、骨までかみ砕かれてしまいそうだ。
目が合うと、コンラートを威嚇するように炎を吐き出す。
だが次の瞬間、青い炎が消滅した。
「安心してください。炎は私が対処しておきますから」
「対処って、なにをしてるんだ……?」
「風属性魔法と水属性魔法を組み合わせて、炎を相殺しているだけです」
さらっと口にしたが、複数属性の魔法を組み合わせ、しかも他の魔物を相手しながら使うなんてあり得ない。
天才というのは、彼女のような人物を表すための言葉なのだろう。
(俺は、俺の役割を全うするだけだ)
コンラートは勇者ではなく、少し魔法が使えて、少し腕っぷしが強いだけの若者だった。村の連中はそれを知っているはずだ。
けれど死後も、村人達は勇者としてコンラートを求めてくれた。
(だったら俺は期待に応えるだけだ)
大きく剣を振り上げ、まずはコカトリスの足を切る。
固いはずの足をあっさり切断することができた。悲鳴を上げたコカトリスの身体に飛び乗って首を狙う。
コカトリスの上半身は羽毛のような毛と固い皮膚で覆われており、通常であれば切り落とすのは困難だ。
なにより、コカトリスには火属性の魔法が効かない。つまり、昔のコンラートであれば、魔法を使った攻撃はできなかった。
(でも、今の俺ならできる)
剣を振り下ろす寸前、刃が白く発光した。目を塞ぎたくなるのを我慢しながら力いっぱい腕を下ろした。
音を立てて、コカトリスの首が地面に落ちる。断面から、ブシャッ‼ と紫色の血が弾け飛ぶ。
大量の血を浴びたコンラートは高らかに剣を掲げた。太陽の光を反射して剣が煌めく。
家に隠れている村人達に、コンラートの姿は見えているだろうか。
頭の中に浮かぶのは親友の顔だ。
コンラートが勇者として生きることを決意したのは彼のせいでもあり、彼のおかげでもあった。
(なあ、マックス。見てるか、今の俺を)
地面に飛び降り、息を整えるために深呼吸を繰り返す。
コカトリスを倒したおかげで森から出てくる魔物はいなくなったが、まだ周囲には魔物が残っていた。
「コンラートさん、あと少しです」
「最初と同じようにするのか?」
「いえ、少しだけ、趣向を変えようかと」
彼女がなにを考えているのかは分からない。だが、信じられるのは確かだ。
コンラートは剣を上空に掲げた。
空にできた魔法陣はゆっくりと広がっていき、やがて空全体に広がっていく。
そして、光の雨が地上に降り注いだ。
光の雨を浴びた魔物達は、悲鳴を上げながら消滅していく。おそらく雨粒の一つ一つが、光属性の魔法を帯びているのだろう。
(まるで神話だな)
雨はコカトリスの死骸だけを避けて地上に降り注いだ。
おそらく、死骸の周りに結界を張っているのだろう。
圧倒的な才能。努力でどうにかなる範囲を越えた神の技。
かつて、コンラートが苦しいほどに焦がれたものを彼女は持っている。
(……俺は、こんな風に戦ってみたかったんだな)
雨が止んだ時には、地上はすっかり綺麗になっていた。




