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第23話 作戦開始

 マックスを含めた村の住民達は、窓に顔を寄せてなんとか外の様子を見ようとしている。


「フィーネ。村人全員、屋敷の中に入れてきたわよ」

「ありがとう、ビアンカ。畑に結界を張ってくれる? 畑が燃えたり、魔物の血が飛んだりしたら大変だから」

「……人使いが荒いわね」


 文句を言いながらも、ビアンカは複雑な魔法陣を地面に描き、結界魔法を唱え始めた。

 結界から放たれた白い光がドーム状に畑全体を包む。

 光が消えると、ビアンカが息を乱しながらフィーネを見つめた。


「できたわよ」


 結界魔法は、光属性魔法の一種だ。発動までに時間がかかるし、膨大な魔力を消費する。

 そのため、戦闘中に使うのは向いていない。しかし今回のように、事前に使用準備として使用するのには最適だ。


(本人の性格に反して、ビアンカはこういう補助魔法が得意なんだよね)


 ビアンカ自身は己の特性に不満があるようだったが、彼女がいるのといないのとでは戦いの難易度が変わってくる。


「じゃあ、次は……ユーリア」

「はーい。ようやく私の出番ね?」


 待ちくたびれたわ、と言いながらユーリアが前に出てくる。


「ユーリアにはちょっと、体力のいる作業をお願いしたいんだけど」

「私にぴったりね」


 フィーネは鞄を開けると、中から石を十個ほど取り出した。いずれも、大きさは手のひらサイズの丸い物だ。

 そして石には、魔法陣が彫られている。


「なによ、これ?」


 石を覗き込んできたビアンカが首を傾げた。


「即席の魔法具だよ。一回しか使えないし、遠隔で魔法を発動するだけだけど」

「だけって……これ、いつ作ったのよ?」

「さっき、山の中で、コンラートさんを作った後」


 ちら、とコンラートへ視線を向ける。彼には、ちょうどいいサイズの石を探すのを手伝ってもらったのだ。


「ああ。それにしても、魔法具ってあんなにすぐ作れる物なんだな」

「……この化け物だけよ。で、いったいこれをどうする気なの?」

「森の中を光らせるんだ」


 魔物は普段、基本的に森の中に生息している。

 種族によって住処は様々だが、人里に近い場所にいるのは低級の魔物ばかりだ。

 シュネー村を襲ってくるようになった魔物も、目撃情報によると北の森に帰っていったらしい。


 彼らを森の外に出すために最も効果的な手段は、森そのものを焼くことである。しかし、今回この手段をとることはできない。

 森を焼けば、魔物だけでなく動植物にも影響がある。そうなれば、シュネー村の人々も困ってしまうからだ。


「光らせるって……」

「魔物は嫌いでしょ、光属性の魔法」


 光属性は唯一、魔物には使えない属性だ。そのため、魔物は光属性の魔法を嫌う。


「一斉に光属性魔法で森を光らせれば、森の中の魔物が出てくるはず」

「……理屈は分かったわ、理屈はね」


 ビアンカが納得したところで、ユーリアに石を渡した。


「この石を、森のいろんなところに置いてきてほしい。私も行きたいんだけど、魔物に反応されちゃうと面倒だから」


 魔物の中には、魔力感知を行うものも存在する。

 魔物が多く存在している森の中にフィーネが入れば、魔力を感知されてしまう可能性が高い。


 今回の目的は、魔物に『シュネー村を襲うと危ない』と思わせること。

 だから、戦闘は森の中ではなく、なるべく村の近くで行う必要がある。


「了解。じゃあちょっと、ひとっ走りしてくる」

「うん」


 石を自分の鞄に入れると、ユーリアは勢いよく村を出ていった。相変わらずの俊足ぶりである。


「期待してるわよ、フィーネ」


 ビアンカに背中を叩かれた。

 ここまできたらもう、フィーネも全力で頑張るしかない。



◆



「コンラートさん。打ち合わせ通りに。細かい部分は私が調整するので、気負い過ぎないでください」

「ああ」


 ユーリアが森の中に石を置いてきてくれた。

 ビアンカが村人達を家の中に誘導し、畑に結界を張ってくれた。

 準備は整っている。あとはもう、実行あるのみ。


 コンラートが剣を持った右手を高らかに上げる。

 勢いよくその手を下ろした瞬間、森の中に十本の光の柱が生まれた。

 光は瞬く間に広がり、森全体を覆い尽くす。あまりの眩しさに、ビアンカもユーリアも目を閉じていた。

 けれど、コンラートはまっすぐに光を見つめている。


(魔法人形を通じて魔法を使うのは、魔力効率が悪くなるだけ。家の中からじゃ村の人にはたいして見えないだろうし、見えたとしても、私が直接魔法を使っているのと区別はつかない)


 分かっている。分かっているのに、フィーネは面倒なやり方を選んだ。

 森の中から、魔物達がわらわらと出てくる。巨大な虫のような形をした低級の魔物にまぎれて、上級の魔物が一体いた。


 コカトリス――上半身は鶏、下半身は蛇の姿をした巨大な魔物だ。

 翼が生えているから空を飛ぶこともできるし、蛇のように這いずり回ることもできる。なにより脅威なのは、口から放たれる熱い炎だ。


「……こんなに大量の魔物、見たことないぞ」

「大丈夫です。貴方は勇者なんですから」


 おそらくコカトリスが北の森のボス的存在だ。

 きちんと魔物達の統率をとっているわけではないだろうが、影響力はかなり持っているはずである。

 コカトリスを倒せば、他の魔物達にとってもコンラートは脅威になるだろう。


「まずは雑魚を一掃しましょう」

「……ああ」


 緊張した顔のコンラートは、何度も作戦内容を確認するように呟いた。

 ちら、とユーリア達に視線を向ける。

 この戦闘において、フィーネを含めた三人の役割はコンラートの補助だ。ビアンカには戦闘の間中、畑を守る結界魔法を維持し続けてもらう。

 ユーリアにはもしもの時に備えてコンラートの近くにいてもらう。後方の備えだ。


(厄介なのは、私があんまりコンラートさんから離れられないこと)


 魔物のいない場所で落ち着いて魔法人形に集中したいが、そうするわけにはいかない。

 つまりフィーネは戦場の真っただ中で、自分を守りつつ魔法人形を操作しなくてはならないのである。

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