第22話 勇者として
「行ってらっしゃい、フィーネ」
「うん、行ってきます」
翌朝、フィーネはユーリアに見送られ、朝早くに屋敷を出発した。人気のない山奥へ行き、魔法人形を作成するためである。
前回は魔法人形作成時の核として、遺品のペンダントを使った。
だが、今回は……。
「……重すぎる」
身長の半分はありそうな大きさの盾を背負って、フィーネは山を登っていた。
魔法人形の核にするための遺品は、生前本人が大事にしていた物ほどいい。
というわけで今回、村長から渡されたのはこの盾だった。
マックスが作ったという盾。やたらと大きく持ち運びにくいが、仕方ない。
「……このくらいでいいよね」
山の中腹まで登ったところで、フィーネは盾を地面に下ろした。
懐から杖を取り出し、空中に魔法陣を描く。
地面から浮かび上がった土の真ん中に、えいっ、と重たい盾を投げつけた。
盾を中心に土が丸くなる。その球体から七色の光が放たれ、巨大な光の花が生まれた。
核とする遺品が大きい分、今回は光の花も大きい。
「辺境の勇者、コンラート。貴方は死してなお、多くの人に望まれている。だから……」
再び魔法陣を描く。光の花弁が散ると、眩い光の中から一人の青年が現れた。
「――もう一度、皆に勇気を」
見上げるほど高い身長、筋骨隆々の逞しい身体つき。
鍛え上げられた肉体は、まさに勇者と呼ぶに相応しい。
膨大な魔力や天賦の才がなくとも、彼は立派に勇者として生きたのだ。
「……君は」
戸惑ったように、コンラートはまばたきを繰り返した。
「私はフィーネ・フェルナー、魔法人形屋です。貴方に、最後の一日を届けにきました」
「……最後の……」
「貴方が死んで、約三十年。魔王は死に、平和は訪れ……そしてまた、平和が翳ろうとしています」
手を差し出す。
「シュネー村の人々は貴方を待っています」
死んでなお、勇者であることを求められた平凡な青年は困ったように笑った。
「……俺に、できることなんてあるんだろうか」
「貴方がそのつもりなら、私が全力でサポートします。幸福な別れのために。それが、私の仕事ですから」
フィーネの手を、コンラートはぎゅっと握った。
「頼む。俺はやっぱり、勇者として死にたい」
◆
コンラートを連れて村へ戻ると、村民全員が集まっていた。
彼を知らない若者達は無邪気に歓声を上げ、彼を知る者達は驚きと恐怖、そして喜びの混ざった顔をしていた。
「コンラート様。本日の作戦を、皆に教えてあげてください」
恭しく頭を下げる。ここに戻るまでの間、今日の作戦について彼にはしっかりと伝えてあるのだ。
魔法人形は魔法を使えない。
だから今日彼が使ってみせる魔法は、全てフィーネのものだ。
けれど、それを皆に教える必要はない。
「この村に手を出せば痛い思いをする、と魔物達に教えるのが今日の目的だ。だから、魔物を呼び寄せて派手に戦う。危ないから、みんなは家に隠れていてくれ」
村人達は拍手と共に頷いた。
自衛の手段として一応剣術や体術の訓練をしているようだが、『避けられる戦闘は避ける』というのが自治会の方針なのだ。
「村に被害が出ないように、わたくし達もサポートするわ」
歩み出たのはビアンカである。彼女には部下と共に、魔物が村へ侵入するのを防いでもらうつもりだ。
「村人の皆様、今から我々が連絡するまでの間、家にこもっていてください!」
ビアンカが村人達を誘導し、外に出ていた人々を家の中へ入れる。
最後まで外に残っていたのは、コンラートの友人であるマックスだった。
「コンラート」
マックスは一歩進み出ると、友人を見つめて固まった。
そして、コンラートが一気に距離を詰める。
「久しぶりだな、マックス」
マックスの肩に腕を回し、コンラートが口を大きく開けて笑う。
満面の笑みを浮かべた彼とは対照的に、マックスは体を震わせて泣き始めた。
「……コンラート、俺は……」
コンラートはマックスを襲った魔物と戦いに行き、死んだ。
もちろんマックスのせいではないが、彼がなんらかの責任を感じていてもおかしくない。
「マックス。話は後でたっぷり聞かせてくれ。俺は、お前が幸せだという話を聞きたい」
「……分かった」
頷いたマックスの背中を押し、コンラートは彼を家に戻した。




