第20話 自治会
ビアンカが剣を構える。フィーネは懐から杖を取り出し、素早く魔法陣を描いた。
地面が盛り上がり、地中から現れたのは土でできた剣である。
「お姉ちゃん、すご……っ‼」
「ただの土属性魔法だよ」
「でも、本で読んだことある‼ なにかを作る魔法って、大変なんでしょ! 特に、剣みたいに硬いやつは、強化魔法も必要だって書いてた!」
どうやらこの子供達は、それなりに魔法に関する知識があるらしい。
「相変わらずの腕前ね」
「……ビアンカまでやめてよ」
「むかつくけど本音よ。貴女、創造魔法が昔から上手かったじゃない」
創造魔法とは、その名の通りなにかを創造する魔法である。魔法人形の作成も創造魔法の一種だ。
「じゃあ、行くわよ!」
勢いよく地面を蹴り、ビアンカが飛びかかってくる。
動きに磨きはかかっているが、戦闘スタイル自体は変わっていない。
軽い身体を活かした速攻型。剣も軽めの物で、素早く突きを繰り出してくるのが特徴的だ。
(前よりずいぶん速くなったけど、基本の動きは変わってない)
ビアンカは名門貴族の家に生まれ、幼い頃から家庭教師をつけて剣術を学んだのだという。
それゆえ基礎が完璧だが、いかんせん、教科書通りの動きをしがちでもある。
土で作った剣で一度、ビアンカの攻撃を受け止める。素早く次の突きを繰り出そうと彼女が一度身を引いたところで、地面を蹴って上に飛ぶ。
「フィーネ⁉」
慌ててビアンカが剣を上に向けても、空中のフィーネには届かない。
だが。
「終わりだよ、ビアンカ」
フィーネの剣が真っ直ぐに伸び、ビアンカの剣を地面に落とした。
ビアンカが剣を拾うよりも先に、地面に下りたって彼女の首筋に剣先を向ける。
「私の勝ちだね」
「貴女ねえ……‼ 剣の勝負でしょ⁉ 魔法使うのやめなさいよ!」
「剣だよ。ちょっと変わった剣だけど」
「それを魔法って言うの‼」
ぎゃあぎゃあと騒ぐビアンカに背を向け、呆然とした顔でフィーネを見つめている子供達へ視線を向ける。
「もし相手が剣を使う魔物でも、相手の剣がただの剣だと思わない方がいいよ」
今回フィーネが創造魔法で生み出した剣は、やり方次第でいくらでも加工できる。
先程のように長さを変えることはもちろん、炎を纏わせることも、電気を纏わせることも。
「魔物との戦いはルールのある決闘じゃない。訓練とは違うから、気をつけて」
指を鳴らすと、剣が一瞬で消えた。
立ち去ろうとすると、待ってください! と剣術の指導をしていた青年に慌てて呼び止められた。
「ありがとうございます。その、私達では気づきにくいことを教えていただいて」
「……別に」
ビアンカの後ろに隠れながら返事をすると、呆れたようにビアンカが溜息を吐いた。
「気にしないで。この子、昔からこうだから。それより教えてあげて。どうして貴方達が、こうして子供達に剣術を教えているのかを」
ちゃんと聞きなさい、と手を引っ張られる。
「シュネー村には自治会があって、そこで、十六歳を越えた人は村のためになにかしらの役割をもらうんです。私達は、子供達に剣術を教える役目についています」
「……自治会?」
驚いて聞き返すと、青年は誇らしげに頷いた。
「はい。他には農作物の改良について研究する係や、他の村との連絡係、商人との連絡係、備品の管理係等、色々な役割があります。うちの村は住民が少ないので、一人ひとりが協力して村を守ろうとしているんです」
「村を守る?」
「はい。この村はそうやってずっと守られてきたのだと、父からも聞いています」
青年は一度息を吸うと、近くにある『辺境の勇者』像を指差した。大きな盾を持っている銅像だ。
「辺境の勇者コンラート様は、父の幼馴染でした。あの盾は、父が作った物なんですよ」
「盾を……?」
「はい。当時、武器を都会に買いに行くことなんてできなくて、コンラート様の武器や防具は全て村で作っていたんです」
知らなかった。そんなこと、日記帳には書いていなかったから。
「コンラート様が生きていた頃は、今のような自治会がなくて……コンラート様が亡くなった後、父が村長に働きかけて自治会を作ったそうです」
「……『辺境の勇者』は、強くて、勇気ある若者だった……んだよね」
「はい。でも同時に、すごく怖がりで、臆病な人だったとも聞いています」
「それは初めて聞いたわ」
ビアンカが驚くと、青年は少しだけ気まずそうに笑った。
「あまり、外の人には言わないでください。『お前を世界一の勇者にしてやる』って、父は昔コンラート様と約束したみたいなので」




