第16話 久しぶりの再会
二人が案内された部屋は、清潔に掃除されてはいるものの、こじんまりとした客間だった。
夕食は二時間後で、それまではゆっくり過ごしてくれと言われている。
コンラートに関する詳細な話は明日聞かされ、明後日コンラートの魔法人形を生成する予定だ。
「フィーネ。さっき小耳に挟んだんだけど、魔法軍の人達もきているらしいわよ。私達に依頼する一方で、魔法軍へも救援の依頼を出したんだって」
ベッドに寝転がりながら、ユーリアが教えてくれた。
「……それで、魔法軍から兵士が派遣されたんだ?」
「そう。だけど、隊長が若い女で頼りない、なんて言ってたわね」
若い女、という属性で評価されるのであれば、フィーネも頼りなく映っていることだろう。まあ、過度な期待を寄せられるよりはマシなのかもしれない。
魔法軍への派遣依頼は、各地の領主が行う決まりだ。
依頼料はかからないが、依頼が成功した際は、お礼という形で報酬金を払うのが一般的である。
(面倒だけど、魔法軍の人達とも顔を合わせることになりそう)
溜息を吐いた後、フィーネは立ち上がった。
「ユーリア。私、ちょっと散歩してくる」
「了解。夕飯までには戻るのよ」
頷いて、杖だけを持って部屋を出る。なるべく屋敷の人とすれ違わないように外に出た。
民家ばかりで、宿泊施設やレストランはほとんどない。が、皆無というわけでもなさそうだ。
(村長の屋敷に泊まっていないのなら、魔法軍の人達は宿に泊まってるんだろうな)
事前に少しだけ、どういう人がきているのかを確認しておきたい。
宿のある通りにやってくると、フィーネは隠密魔法を使った。隠密魔法は光属性の魔法で、光の屈折を利用し、姿を消す魔法である。
これなら周りに見られることなく、自由に動き回ることができる――と、思っていたのだが。
「久しぶりね。フィーネ・フェルナー」
聞き慣れた声に振り向く。すぐに解除魔法をかけられた。
「……ビアンカ」
「ええ。ビアンカ・フォン・ベーレンドルフよ。覚えてくれていたようでなによりだわ」
「……さすがに、忘れないって」
「どうかしらね」
ふん、と鼻を鳴らしたのはかつての同級生だ。相変わらず、派手な金髪を高い位置でツインテールにしている。
魔法学園時代、彼女は入学当初から目立つ存在だった。
派手な美貌に加え、名門ベーレンドルフ侯爵家の娘という地位。常に多数の取り巻きを従えていた。
しかし彼女の最も印象深かった点は、努力家なところである。魔法の試験、実技の試験、筆記の試験……全てで一番をとりたい、と彼女は熱心に励んでいた。
美しく、家柄もよく、努力家で真面目。
素晴らしい人物だということは分かっている。
(でも私、ちょっと苦手だったんだよね……やたらと突っかかってくるし……)
改めて気まずさを感じていると、ビアンカが話を続けた。
「貴女、今、『魔法人形屋』のオーナーをやってるんですって?」
「……うん」
「どうしてるのかと思ってたけど、民間で戦ってたのね。教官にはちゃんと連絡してるの? 心配してたわよ、貴女のこと」
久しぶりに会ったというのに、ずけずけとこちらの事情に踏み込もうとしてくるところは変わらない。
「その、とりあえず、一つ……」
「なによ?」
「魔法人形屋は、戦う仕事じゃないの。一日だけ、死者を復活させてあげるだけで……今回はたまたま、その、戦闘付きの依頼になっちゃったけど、イレギュラーな案件というか」
「はあ⁉ 戦わない⁉ フィーネ・フェルナーが⁉」
「こ、声、大きい……」
「誰のせいよ‼」
まったく……と頭を抱えたビアンカは、溜息を吐いた後にフィーネを睨みつけた。
「とにかく、今回の件に関しては協力してやるわよ。むかつくけど、貴女がいると安心ね。こっちはこっちで、魔法具の手配とか、継続的にできる対処法を考えるから。もちろん、戦闘も貴女にだけ任せたりはしないけれど」
腕を組むと、ビアンカは挑発するように笑った。
「わたくし、あの頃よりずっと強くなったのよ。貴女もびっくりするはずだわ」
ああ、変わってないな、と思った。
堂々と言えるほど努力をして、しっかりと成長して、それでも満足することなく励み続ける。
数年の時を経ても、目の前にいるのは間違いなくあの頃のビアンカだ。
――でも、同時に時が流れたことを強く実感する。
あの頃より伸びた髪、少しおとなびた顔。あの時のままの彼女ではない。
「ねえ、フィーネ。わたくし、貴女に一つ、確認したいことがあるのだけれど」
「……なに?」
「今回、貴女は助手を一人連れてきたのでしょう? 助手の名前は『ユーリア・フォン・コルネリウス』じゃなくって?」
勝ち気な紫の瞳が、まっすぐにフィーネを見つめている。
そういえば昔、三人で一緒に食事をしたことがあった。
ビアンカがフィーネに絡んできて、ユーリアが間に入ってとりもってくれて。
初めて庶民の店に行ったわ、なんて言いながら、ビアンカは安いレストランの食事を平らげていた。
「ねえ」
彼女の長い睫毛が震える。
「……そうだよ」
フィーネの答えを、きっとビアンカも知っていたのだろう。
彼女はなにも言わずに、ただ、じっと、フィーネの瞳を見つめ続けた。




