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3/5

元カノと、私の場所


元カノは、私よりずっと綺麗だった。


それだけで、負けた気がした。


悠真の元カノ・美月は、学内でも目立つ存在だった。

明るい髪色も、細い手首も、まっすぐ相手を見る目も、全部が映画の中の人みたいだった。


そんな美月が、悠真の前で泣きそうな顔をしている。


私は少し離れた場所で、二人を見ていた。

本当は通り過ぎるつもりだった。

でも足が動かなかった。


「まだ私のこと好きでしょ?」


美月の声は震えていた。


悠真は何も言わなかった。

その沈黙が、答えみたいに見えた。


胸が痛い。

でも、私は何も言える立場じゃない。


だって私は本物の彼女じゃない。

半年限定の、偽物だから。


その日のゼミで、悠真はいつも通り私の隣に座った。


「朝、見てた?」


小さな声で聞かれ、私はノートを見たまま答えた。


「見てない」


「嘘下手だな」


「悠真ほどじゃないよ」


言った瞬間、自分でも驚いた。

声が少しだけ冷たかった。


悠真はしばらく黙っていた。


「ごめん」


「何に謝ってるの?」


「分からないけど、紗良が傷ついた顔してるから」


その言葉に、余計に傷ついた。


分からないなら、優しくしないでほしい。

気づかないなら、手を伸ばさないでほしい。


数日後、美月から私にメッセージが届いた。


> 少し話せますか?


断る理由はいくらでもあった。

でも私は、指定されたカフェに行った。


美月は先に来ていた。

私を見ると、静かに頭を下げた。


「ごめんね。急に呼び出して」


「何の話ですか?」


「悠真のこと」


その名前を聞くだけで、心臓が苦しくなる。


美月はカップを見つめながら言った。


「あなたたち、本当に付き合ってるの?」


私は一瞬、答えに詰まった。


「……付き合ってます」


嘘をついた。

初めて、自分のために嘘をついた気がした。


美月は私をじっと見た。


「そっか」


その表情は、怒っているようにも、安心しているようにも見えなかった。


「私、悠真と別れたの、自分からなの」


「そうなんですか」


「でも、離れてみたら分かった。やっぱり悠真じゃなきゃだめだった」


言葉が喉に刺さる。


美月は続けた。


「悠真、優しいでしょ。誰にでも優しい。でも本当に苦しい時、絶対に言わないの。だからそばにいる人が気づいてあげなきゃいけない」


その言い方が、まるで自分だけが悠真を分かっているみたいで、悔しかった。


「私には、関係ないです」


「本当に?」


私は答えられなかった。


その夜、悠真と帰る途中、私はつい聞いてしまった。


「美月さんのこと、まだ好きなの?」


悠真は足を止めた。


「急に何?」


「聞きたいから」


「……分からない」


その答えが、一番聞きたくなかった。


分からない。

つまり、否定できないということ。


「そっか」


私は笑おうとした。

でもうまく笑えなかった。


「紗良」


悠真が私の腕を掴んだ。


「でも今、一緒にいたいのは紗良だよ」


ずるい。

そんな言葉、信じたくなるに決まってる。


「それは、元カノを忘れられるから?」


悠真の手が緩んだ。


その沈黙で、私は十分だった。


「ごめん。今日は一人で帰る」


私は悠真に背を向けた。


駅まで歩きながら、涙が出そうだった。

でも泣かなかった。

泣いたら、本当に好きだと認めることになる気がした。


家に着くと、スマホに美月からメッセージが届いていた。


> 悠真を返してほしい。


その直後、悠真からもメッセージが来た。


> 明日、ちゃんと話したい。


私はどちらにも返信できなかった。


そして翌日。


大学に行くと、ゼミのグループチャットが騒がしくなっていた。


誰かが一枚の写真を送っていた。


悠真と美月が、夜の駅前で抱き合っている写真だった。


コメントには、こう書かれていた。


> やっぱり元サヤ?


私はスマホを握ったまま、息ができなくなった。


その時、悠真が教室に入ってきた。


目が合った瞬間、彼は私に向かって歩いてきた。


「違う、紗良」


でも私は、その言葉を聞く前に立ち上がった。


「もういいよ」


私の声は、自分でも驚くくらい震えていた。


「半年契約、終わりにしよう」



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