第7章 — ライバルの猟犬
金曜の朝までに、ルーズベルト高校の空気は一変していた。
見た目に大きな変化があるわけではない。
相変わらずひび割れた歩道。疲れ果てた教師たち。ヘッドホンを耳に張り付け、金属探知機を通り抜ける十代の若者たち。
だが、校舎の中には目に見えない煙のように、緊張が立ち込めていた。
教師が通り過ぎると生徒たちは声を潜める。
保護者からの電話は鳴り止まない。
キャンパスの近くには、パトロールではないふりをした警官が時折姿を見せる。
そして、レナ・トレスの席は空席のままだ。
イーサンは214号室の教壇に立ち、集中力を欠いた生徒たちを見つめていた。
今日、象徴のことなど誰も気にかけていない。
「恐怖は、」イーサンはボードにその言葉を書き込んだ。「人間の行動を変える」
沈黙。
今朝はマーカスでさえ、皮肉を言う元気がないようだった。
「人は恐怖を感じると、」イーサンは続けた。「パターンを探し、説明を求め、誰か責めるべき相手を探すものだ」
デヴォンがわずかに眉を寄せた。
「それ、行方不明の生徒の話をしてるんですか?」
教室が即座に静まり返った。
数人の生徒が、レナの空席を不安そうに一瞥するのが分かった。
イーサンは慎重に答えた。
「私は、人間性について話しているんだ」
マーカスが椅子にふんぞり返った。
「……それは先生特有の、『イエス』っていう暗号だな」
数人の生徒が力なく笑った。
イーサンは微笑みかけた。
――が、その時。
教室の窓の外、ある動きが目に留まった。
教職員用駐車場の向かい側に、一人の男が立っていた。
背が高い。
ダークコート。
校舎を見上げている。
……イーサンを見ている。
視線が合うと、男はわずかに首を傾けた。
そして、笑った。
親好的ではない。
捕食者の笑みだ。
イーサンの本能が即座に研ぎ澄まされた。
その眼差しを知っているからだ。
「猟犬」の目だ。
イーサンが反応する前に、男は身を翻すと朝の雑踏の中へ消えていった。
マーカスがイーサンの動揺に気づいた。
「先生、大丈夫か?」
「ああ、何でもない」イーサンは機械的に答えた。
マーカスは鼻を鳴らした。
「また出た。その嘘をつく時の顔」
昼休み。
教職員用駐車場から校外へ出たイーサンは、通りを挟んだ向かい側に停められた一台の黒いバイクをすぐに見つけた。
マットブラック。
ナンバープレートはない。
プロの持ち物だ。
イーサンの車のワイパーには、折りたたまれた紙切れが挟まっていた。
彼はそれを慎重に広げた。
「ランタン・ルーム。正午。
一人で来い」
署名はない。
その必要もなかった。
雨がダウンタウンの路地を静かに濡らす中、イーサンは再び「ランタン・ルーム」の扉をくぐった。
日中のビリヤード場は、ほとんど空席だった。
古いスピーカーからは、相変わらずジャズが低く流れている。
ギデオン・クロスは以前と同じ角のボックス席に座っていた。
だが、彼は一人ではなかった。
学校の外にいたあの男が、ボックス席の反対側に無造作に寄りかかり、指先でコインをゆっくりと回転させていた。
30代半ば。
鋭い顔立ち。
高価そうな黒のコート。
口角を横切る細い傷跡が、消えない冷笑のように刻まれている。
男からは、抗いがたい危険なオーラが放たれていた。
ギデオンはひどく不機嫌そうな顔をしていた。
「思ったより時間がかかったな」
見知らぬ男が、顔を上げずに言った。
イーサンはテーブルの脇で足を止めた。
「こいつは誰だ?」
男はようやく顔を上げた。
冷ややかな灰色の瞳。
観察する目。
相手の弱点を無意識に測定する種類の目だ。
「サイラス・クリードだ」彼は冷静に言った。
そして、わずかに口角を上げた。
「あんたが『先生』か」
イーサンは立ったまま言った。
「君は、ずいぶんと演出家気取りらしいな」
サイラスは短く笑った。
「ほら見ろ。俺はもうこいつが気に入ったよ」
「よせ」ギデオンが毒づいた。「お前はただ混沌が好きなだけだ」
「それも事実だな」
サイラスが向かいの席を指し示した。
イーサンは警戒を解かずに、慎重に腰を下ろした。
サイラス・クリードは、娯楽として暴力を楽しむ類の人間だと直感が告げていた。
「なぜ私を呼んだ?」イーサンが尋ねた。
サイラスは一冊のファイルをテーブル越しに滑らせた。
中には写真が入っていた。
事件現場の写真。行方不明者の記録。生徒たちのファイル。
その中に、レナのものもあった。
イーサンの表情が即座に険しくなった。
「ずいぶん忙しく動いているようだな」サイラスが指摘した。
「本題を話せ」
サイラスはゆったりと背もたれに体を預けた。
「ヴァンガード・サークルが、あんたの生徒に非公式の懸賞金を懸けた」
イーサンの動きが止まった。
「……どういう種類の懸賞金だ?」
「回収。保護。輸送」サイラスは軽く肩をすくめた。「誰が金を払うかによって変わるがな」
「なぜそれを知っている?」
サイラスの笑みが深まった。
「俺が最初にその依頼を受けたからだ」
銃声が響いたかのような沈黙がテーブルを支配した。
ギデオンが低く呪いの言葉を吐いた。
イーサンはサイラスを凝視した。
「奴らと繋がっているのか?」
「いやいや」サイラスは事も無げに言った。「俺が繋がっているのは『金』だ」
その答えは、ある意味で最悪だった。
サイラスは指の間でコインを回し続けた。
「問題は……事態がエスカレートしたことだ」
「どういう意味だ?」
「ヴァンガードの内部で、下請けを殺し始める奴が出てきた。失礼な話だろ?」
イーサンの顎に力がこもった。
「……スクールカウンセラーか」
「付随的な掃除だ」
サイラスは恐ろしいほど平然と言ってのけた。
イーサンはわずかに身を乗り出した。
「レナの居場所を知っているんだな」
「彼女が『どこにいたか』なら知っている」
それだけでは不十分だ。
サイラスはイーサンの瞳の奥に燃える怒りに気づいた。
「気をつけろよ、先生。感情的な人間ほど、予測しやすい獲物はない」
イーサンの声が低くなった。
「君はさっきから、それを侮辱として使っているようだが」
サイラスは数秒間、彼を観察した。
やがて、意外な言葉を口にした。
「いや」彼は静かに言った。
「それが、あんたを『危険』にしている理由だ」
一瞬にして空気が変わった。
ギデオンでさえ驚いた表情を見せた。
サイラスはイーサンの胸を無造作に指差した。
「あんたは詳細を見逃さない。パターン、弱点。俺たちと同じスキルセットだ。ただ、使っている教室が違うだけ。……だがな、大抵の賞金稼ぎは、最後には相手を『人間』として見なくなる」
彼の目がわずかに細められた。
「だがあんたは、まだ見ている」
その指摘があまりに的を射ていることが、イーサンには忌々しかった。
「なぜ私を助ける?」彼は尋ねた。
サイラスは再び背もたれに寄りかかった。
「ヴァンガードがルールを変えたからだ」
「ルール?」
「奴らはもう、そこら辺の家出少女を捌いているわけじゃない」
サイラスがレナの写真を叩いた。
「奴らは生徒を『選別』している」
賢い生徒。才能のある生徒。特定の条件を満たす生徒。
冷たい事実が、ゆっくりとイーサンの内側を這い回った。
レナは偶然選ばれたのではない。他の生徒たちも。
「勧誘、か」イーサンが呟いた。
「その通り」
ようやくギデオンが口を開いた。
「まだある」
サイラスの表情がわずかに暗くなった。
「ルーズベルト高校の内部に、心理プロファイルを提供している奴がいる」
イーサンが鋭く顔を上げた。
「生徒の評価。素行調査。家庭環境」サイラスは続けた。「勧誘を始める前に、心の脆い子供を特定しているんだ」
危うい一瞬、イーサンは犯人が誰であれ殺してやろうかと本気で考えた。
これは単なる犯罪ではない。教育を隠れ蓑にした搾取だ。
サイラスはその衝撃がイーサンを打つのを見守っていた。
「これで、俺が不愉快に思っている理由が分かったろ」
「金にしか興味がないと言っていたはずだが」
「ああ、そうだな」
サイラスの笑みが完全に消えた。
「だが、ガキを売り飛ばすってのは、商売の空気を台無しにするんだよ」
ウェイトレスが近づいてきたが、三人のうち誰一人として彼女に目を向けなかった。
やがて、イーサンが最も重要な問いを発した。
「レナはどこだ?」
出会ってから初めて、サイラスが沈黙した。
そして答えた。
「生きてる」
その一言による安堵感は、痛みを感じるほどに強烈だった。
サイラスはそれを見逃さなかった。
「……ほらな」彼は優しく言った。
「だから、あんたは危ないんだ」
イーサンはそれを無視した。
「場所を教えろ」
「今夜、移送される」
「どこへ?」
サイラスは別の写真をテーブルに滑らせた。
川沿いの船積みターミナル。
「18番倉庫」。
「ヴァンガードの輸送拠点だ」サイラスが言った。「移送前の、一時的な収容所だな」
イーサンは即座に立ち上がった。
ギデオンがその手首を強く掴んだ。
「待て」
イーサンが彼を見下ろす。
「どいてくれ」
「感情に振り回されたままあそこへ踏み込めば、」ギデオンが警告した。「死ぬぞ」
サイラスは最後にもう一度、コインを弾いた。
「おそらくそうだろうな」彼は同意した。
そして、イーサンに向かって微かに笑った。
「だが、興味が湧いてきた」
「何にだ?」
サイラスの灰色の瞳が鋭く光った。
「昼間は文学を教え……」
コインがテーブルの上にパタリと倒れた。
「……夜には化け物を狩りに行く男が、一体どんな結末を迎えるのかにな」




