第6章 — 刑事
倉庫が闇に包まれた。
アラームの絶叫は止まらない。
銃弾が事務室の壁を切り裂く中、イーサンは怯える少女の手首を掴み、ひっくり返った机の影に引き寄せた。
空中に木片が飛び散る。
「……私たち、殺されるの?」少女がパニック状態で囁いた。
「ああ」イーサンは冷静に答えた。
奇妙なことに、人間は恐怖を露わにする者よりも、あまりに冷静な者に対してより強い恐怖を抱くものだ。
狙撃銃の別の弾丸がドアを貫通した。
正確すぎる。
訓練された動きだ。
これはもう、無造作な証拠隠滅ではない。
明確な「処刑」だった。
イーサンは身を低くし、死んだカウンセラーのデスクを素早く調べた。
コンピューターにはロックがかかっている。
シュレッダーにかけられた書類の山。
だが、ミリアム・ヘラーの遺体の下に、一枚だけ部分的に無事な書類が残されていた。
生徒の転入手続きの書類だ。
いくつかの名前は黒塗りにされている。
だが、一つの名前だけが判読可能だった。
トレス、レナ
その横には、
転入ステータス:保留中(PENDING)
無差別に誘拐されたのではない。
「処理」され、
「目録」に加えられていたのだ。
まるで在庫品のように。
廊下から足音が近づくのと同時に、イーサンは書類をコートの中に押し込んだ。
重いブーツの音。
3人。
急速に距離を詰めてきている。
イーサンは懐中電灯を完全に消した。
暗闇の中、隣で少女が震えている。
「よく聞け」彼は囁いた。「私が動いたら、西側の出口階段へ走れ。立ち止まるな」
「あなたは?」
「文句なら後でいくらでも聞いてやる」
事務室のドアが蹴破られた。
懐中電灯の光が室内をなぞる。
イーサンは即座に動いた。
一撃。
悲鳴。
一番近くにいた襲撃者をドア枠に叩きつけ、ライフルを奪い取ると、そのままもう一人の銃持ちに向かって突き飛ばした。
混沌が爆発する。
3人目の襲撃者が盲目的に発砲した。
弾丸が机とガラスを粉砕する。
イーサンは身を屈めて2発撃ち返し、少女を掴んだ。
「走れ!」
二人は暗い廊下へと飛び出した。
非常用発電機が作動し、倉庫の明かりが弱々しく点滅し始める。
背後で怒号が響いた。
「2階だ!」
「逃がすな!」
鉄の階段がイーサンのブーツの下で軋み、彼は迷路のような工業施設の中を、少女を誘導しながら駆け下りた。
そこで、彼は唐突に足を止めた。
パトカーのサイレン。
外だ。
急速に近づいてくる。
早すぎる。
何者かが即座に通報したのだ。
それは二つの可能性を意味していた。
ヴァンガードが、警察が来る前に目撃者を消したがっているか。
あるいは、法執行機関の中にすでに内通者がいるか。
どちらにせよ、安心できる材料ではなかった。
イーサンは非常出口をこじ開け、倉庫の裏にある雨に濡れた路地へと飛び出した。
数ブロック先で、赤と青の光が明滅している。
近い。
だが、まだ間に合う距離だ。
助け出した少女が彼の袖を掴んだ。
「お姉ちゃんが、」彼女は必死に言った。「まだあいつらに捕まったままなの」
イーサンは彼女を注意深く見た。
「名前は?」
「ソフィア」
「いつからここにいた?」
「わからない……何日も……」
「レナ・トレスを見たか?」
ソフィアは激しく頷いた。
「あの子、あいつらに抵抗してた」
イーサンの胸の中で、鋭い何かが疼いた。
いかにもレナらしい。
「彼女がどこへ移されたか、わかるか?」
ソフィアはためらった。
やがて、静かに答えた。
「……偉そうな人が、あの子を連れて行ったわ」
イーサンがさらに問い詰めようとした時、近くでタイヤの軋む音がした。
黒いセダン。
覆面。
プロの動きだ。
バッジを掲げた一人の女性が車から降りてきた。
「LAPDよ!」彼女が叫んだ。「手を上げろ! 見える位置に出せ!」
イーサンはその構えを即座に認識した。
刑事。
経験豊富。
銃身はぶれず、その瞳は普通の警官よりもずっと鋭い。
ナオミ・レイエス刑事。
40代前半。黒髪をきつく後ろにまとめ、表情には消えない猜疑心が刻まれている。
イーサンはゆっくりと両手を上げた。
ソフィアが彼の背後に隠れる。
レイエスは警戒しながら近づいてきた。
やがて、彼女は目を細めた。
「あんたか」
まずい展開だ。
「……知り合いなの?」ソフィアが囁いた。
「ええ、よく知っているわ」レイエスは冷たく言い放った。
イーサンは心の中でため息をついた。
最悪だ。
20分後。パトカーのフロントガラスを雨が叩く中、イーサンは後部座席で苛立ちを押し殺して座っていた。
ソフィアはすでに救急隊に引き渡された。
ひとまずは安全だ。
レイエスは無線を一言も発することなく、ダウンタウンを走っていた。
「沈黙」を尋問の戦術として使っている。
典型的な手法だ。
ようやく、彼女が口を開いた。
「公立学校の教師が、なぜ人身売買の現場で未登録の銃を持って暴れ回っていたのか、説明してくれる?」
イーサンはわずかに背もたれに体を預けた。
「課外活動ですよ」
レイエスは笑わなかった。
「気の利いた答えね」
「どうも」
「武装した男が3人、意識不明で見つかったわ」
「少し休ませてやるべきでしょうな」
「一人は腕を折っていた」
「転び方が悪かったんでしょう」
レイエスがハンドルを握る手に力を込めた。
「行方不明の生徒の捜査中に学校から姿を消し、」
バックミラー越しに彼女の目がイーサンを捉えた。
「――その生徒に関係する人身売買の現場に、魔法のように現れる」
イーサンは沈黙を守った。
使えるような「嘘」など一つもなかったからだ。
レイエスは続けた。
「何が一番気になると思う?」
「リストがあるんでしょう?」
「あんたの動きよ。民間人のそれじゃない」
その指摘は、イーサンが望むよりもずっと深くまで踏み込んできた。
レイエスは分署の前に車を停めたが、すぐには降りようとしなかった。
窓を雨粒がなぞっていく。
「軍にいたの?」彼女が尋ねた。
「いいえ」
「民間警備会社か?」
「いいえ」
「じゃあ、どこでそんな動きを学んだのよ」
イーサンは街の明かりに目を向けた。
「教職課程ですよ」
レイエスは数秒間、彼を凝視した。
「冗談のつもり?」
「いいえ」イーサンは静かに言った。「少しも」
彼のトーンが、室内の空気をわずかに変えた。
レイエスの表情から苛立ちが消え、初めて好奇心のようなものが浮かんだ。
その時、彼女の携帯電話が振動した。
画面を確認した彼女の表情が、即座に険しくなった。
「最高だわ」彼女は毒づいた。
「何があった?」
「例のスクールカウンセラーよ」
イーサンは身動き一つしなかった。
「彼女、ルーズベルト高校の職員だった」レイエスが続けた。「それが今、売買組織の倉庫で死体で見つかった」
偶然にしては、あまりに重なりすぎている。
繋がりが多すぎる。
レイエスはゆっくりと彼の方を向いた。
「そしてどういうわけか、」彼女は言った。「あんたが常にその中心に立っている」
イーサンがようやく自宅に戻ったのは、午前3時を回った頃だった。
彼のアパートは、コリアタウンにある閉鎖されたコインランドリーの2階にあった。
狭く、
静かで、
人目に付かない。
それは意図的な選択だった。
彼は慎重に鍵を開け、中へ足を踏み入れた。
次の瞬間、全身が凍りついた。
誰かがいた。
一見、荒らされた様子はない。
だが、イーサンは普通の人間が見落とす詳細に気づいた。
わずかに傾いた本棚。
半インチほど動かされたキッチンの椅子。
窓のラッチについた擦り傷。
プロによる捜索だ。
彼のアパートは、徹底的に調べられていた。
イーサンはコートの下の拳銃に手をかけ、各部屋を組織的にクリアしていった。
もぬけの殻だ。
侵入者はもういない。
だが、キッチンのテーブルの上に、あるものが置かれていた。
一枚のルーズベルト高校の生徒証。
レナ・トレスのものだ。
イーサンはそれを慎重に拾い上げた。
裏面には、黒のマーカーでこう書かれていた。
「時間は残りわずかだ(YOU ARE RUNNING OUT OF TIME)」
その時、再びスマートフォンが振動した。
「非通知」。
イーサンは即座に出た。
歪んだ声は、今やどこか楽しげですらあった。
『レイエス刑事を不安にさせているようだな』
イーサンの背筋を氷が滑り落ちた。
奴らは警察までも監視している。
「目的は何だ?」
沈黙。
やがて、声が答えた。
『君が、本当はどんな「教師」なのかを見極めることだ』
通話が切れた。
イーサンは暗いアパートの中で、静かに佇んでいた。
外では、眠りについた街の彼方で遠雷が響いていた。
そして恐怖と疲弊の底で、もう一つの事実がゆっくりと浮上してきた。
これはもう、レナだけの問題ではない。
何者かがルーズベルト高校を中心に、巨大な「システム」を構築している。
生徒の消失。
ファイルの転送。
職員の関与。
若者の勧誘。
そして今、法執行機関がその外縁に迫りつつある。
それは、イーサンの二つの生活が、もはや制御不能な形で衝突しようとしていることを意味していた。




