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第5章 — 初の流血

黒のエスカレードは、イーサンが校舎の外へ足を踏み出した瞬間に路肩から滑り出した。

タイヤが雨水を跳ね上げ、SUVは校門の先、夜の交通網の中へと消えていく。

イーサンは走り出した。

「ヴェイル先生?」

背後の玄関から、戸惑いに満ちたクレアの声が遠く響いた。

彼はそれを無視した。

冷たい夜気が肌を刺す中、駐車場を横切り、自分の車へと全力で走る。スマートフォンを耳に押し当てたまま。

歪んだ声が、低く笑った。

「君は予測しやすい男だ」

イーサンは車のドアを荒々しく開けた。

「彼女はどこだ?」

「質問が間違っているな」

エンジンが咆哮を上げた。

「君が問うべきは、『なぜ』だ」

通話が切れた。

イーサンは苛立ちをぶつけるようにハンドルを一度叩くと、急発進して駐車場を飛び出した。

前方、2ブロック先。

ひび割れたヘッドライトの光が、車群の合間に一瞬だけ見えた。

標的、捕捉。

ロサンゼルスのダウンタウンは、ネオンと雨に濡れた路地の残像へと変わった。

イーサンはエスカレードの3台後ろをキープした。

近すぎず。

遠すぎず。

プロの追跡に必要なのは、アドレナリンではなく忍耐だ。

SUVは迷いのない足取りで街を抜けていく。

回避行動も。

疑心暗鬼な様子もない。

それは、一つの事実を意味していた。

――奴らは、追わせたがっている。

イーサンはそれを忌々しく思った。

罠というものは、双方がその存在を理解している時こそが最も危険だからだ。

エスカレードはやがて、川沿いの工業地帯へと入り込んだ。

倉庫群。

貨物操車場。

悲鳴がコンクリートと錆の中に吸い込まれて消える、デッドゾーンだ。

SUVは金網のフェンスと壊れた投光器に囲まれた、放棄された貨物施設へと滑り込んだ。

イーサンは半ブロック離れた高架下に車を停めた。

観察し。

動きを数える。

外に見える護衛は3人。

中にはさらに潜んでいる可能性がある。

エスカレードの運転手が車から降りてきた。

長身。黒のジャケット。軍人のような立ち振る舞い。

ただのチンピラではない。

統制されたプロだ。

イーサンは座席の下からコンパクトなダッフルバッグを取り出した。

中身は以下の通りだ。

サプレッサー付きの拳銃

タクティカル・ライト

ロックピック一式

コンバット・ナイフ

小型無線ジャマー

二度と戻らないと決めていたはずの世界の道具。

だが、彼は今ここにいる。

またしても。

バックミラーに映る自分の顔を、一瞬だけ見つめた。

昼は教師。

夜は狩人。

いつからか、どちらの自分も本物ではないように感じ始めていた。

その時、レナの痣だらけの顔が脳裏をよぎった。

それで、迷いは消えた。

イーサンは音もなく車を降り、倉庫の境界線へと向かった。

貨物施設には、オイルと雨、そして古い金属の臭いが立ち込めていた。

イーサンは監視カメラの死角を突いてフェンスを乗り越えた。

濡れたコンクリートの上に、音もなく着地する。

前方の倉庫は、内部からの明かりで半分だけ照らされていた。

微かに話し声が聞こえる。

笑い声。

音楽。

犯罪者は、状況を支配していると確信した時に油断する。

その傲慢さが、命取りになるのだ。

イーサンは横の入り口へ回り込み、ひび割れた窓のそばで身を潜めた。

中では数人の武装した男たちが、木箱が積み上げられた折り畳みテーブルを囲んでいた。

武器。

薬物。

偽造ID。

人身売買の書類。

ヴァンガード・サークルは、小規模な組織ではない。

イーサンの思考に、いつもの冷徹な感覚が降りてきた。

集中が研ぎ澄まされる。

動きは「計算」へと変わる。

一人の護衛が廊下の方へ離れていった。

イーサンはその背後のサイドドアから中へ滑り込んだ。

速く。

静かに。

片腕を喉に回す。

もう片方の手で、相手が武器に手を伸ばす前に手首をロックする。

わずか3秒。

護衛は意識を失い、崩れ落ちた。

イーサンは遺体を積み上げられた木箱の裏に引きずり込み、さらに奥へと進んだ。

倉庫の内部は、メインフロアを見下ろす事務所が並ぶ、影の深い廊下へと続いていた。

その時、イーサンの耳にある音が届いた。

泣き声だ。

かすかな、女性の声。

即座に脈拍が鋭くなる。

彼はその声を追い、鍵のかかった事務室のドアに辿り着いた。

中では誰かが弱々しく動いている。

「レナか?」イーサンが囁いた。

沈黙。

やがて、怯えた声が返ってきた。

「……助けて」

イーサンは手早く鍵を開けた。

カチッ。

ドアが開く。

中には、点滅する蛍光灯の下で椅子に縛り付けられた十代の少女がいた。

だが、レナではない。

少女は怯えきっていた。

16、あるいは17歳。

顔には痣があり、手首は縄で赤く腫れている。

イーサンは即座に拘束を切り離した。

「大丈夫か?」

少女は震えながら頷いた。

「他にも、連れて行かれた人たちがいるの……」彼女は囁いた。

「何人だ?」

「わ、わからないわ……」

外のどこかで、足音が轟いた。

手遅れだ。

少女はイーサンの袖を必死に掴んだ。

「2階に女の人がいるの」彼女は早口で囁いた。「その人が、あいつらに生徒の個人ファイルを渡してる」

イーサンの動きが止まった。

「何だと?」

「あなたの学校で働いている人よ」

彼の中のすべてが静止した。

女。

学校の職員。

ウィットモアではない?

それとも、全く別の誰かか?

突然、事務室の外で銃声が爆発した。

イーサンは即座に動き、薄い壁を弾丸が貫通する中、少女を机の裏に押し込んだ。

プロの即応チームだ。

待ち構えていたのだ。

フラッシュバンがドアから転がり込んできた。

イーサンは少女を抱え込み、爆発が白い閃光と鼓膜を裂く音を放つ寸前、机の影に身を隠した。

部屋の中は一瞬で混沌と化した。

怒号が響く。

「2階だ!」

「動け!」

耳鳴りが激しく響く中、イーサンは煙の中を2発撃ち抜いた。

襲撃者の一人が倒れる。

もう一人が悲鳴を上げた。

彼は怯える少女を抱え、非常出口をこじ開けて上階のキャットウォークへと飛び出した。

階下では、武装した男たちが倉庫のフロアに溢れ出していた。

多すぎる。

あまりに多すぎる。

隣で少女が震えていた。

「警察の方なの?」彼女が弱々しく尋ねた。

イーサンは笑いそうになった。

「いいえ」

別の銃弾が、彼の頭の数インチ隣の欄干を粉砕した。

二人は走った。

イーサンが迷路のような上階のオフィス街を誘導する中、足元の鉄の階段が甲高く鳴り響いた。

そこで、彼はそれを見た。

一つの事務室のドアが、わずかに開いている。

中では、コンピューターのモニターに照らされた一人の女が、冷静に書類をシュレッダーにかけていた。

学校の記録。

生徒の記録。

イーサンの足が止まった。

女が顔を上げた。

愕然とした一秒間。二人は互いを認識した。

教師ではない。

事務方でもない。

学校のスクールカウンセラー。

ミリアム・ヘラー。

彼女の表情は、衝撃から即座に恐怖へと変わった。

その時――

パァン!

事務室の窓が内側に向かって粉砕された。

狙撃銃の弾丸が、ミリアムの胸を貫いた。

血飛沫がファイルキャビネットに飛び散る。

女は即座に崩れ落ちた。

床に倒れる前に、彼女の命は尽きていた。

イーサンは身を屈め、助け出した少女を隣に引き寄せた。

倉庫の外では、赤いレーザーサイトの光が割れた窓から室内をなぞっている。

誰かが「掃除」をしているのだ。

証拠の隠滅。

証人の抹殺。

イーサンはミリアムの遺体を一度だけ見た。

カウンセラーまでもが関与していた。

自発的か、あるいは強要されたのか。

どちらにせよ、ヴァンガードは彼女を永久に沈黙させたのだ。

そして今、イーサンは恐るべき事実を理解した。

この陰謀は、ルーズベルト高校の周辺で起きているのではない。

その「内部」にまで根を張っているのだ。

倉庫のアラームが突如として絶叫を上げた。

そして、明かりが完全に消えた。

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