第4章 — 保護者面談の夜
リンカーン高校の体育館は、人々の話し声や書類の擦れる音、磨き上げられた床で鳴るスニーカーの軋み音が混ざり合い、混沌とした喧騒に包まれていた。折り畳みテーブルが整然と並べられ、それぞれに教師の名前が書かれた紙が貼られている。
「ベイル先生 — 国語」と記されたテーブルの後ろで、イーサンは礼儀正しく、慣れた微笑みを浮かべて座っていた。
この3時間、彼は疲れ切った労働者階級の親たちを相手に、読解力のスコアを説明し、エッセイの評価基準について話し続けてきた。体中が痛む。昨夜ヘクター・バルガスを制圧した際の代償として、左の前腕には深い紫色の打ち身が残り、肩は強張っていた。
「彼はいい子ですよ、デイビスさん」
イーサンは疲れ切った様子の女性にフォルダを返した。「デヴォンは非常に負けず嫌いだ。それは強みでもあります。ただ、そのエネルギーを苛立ちに変えるのではなく、書くことへの意欲に向けてあげる必要があります」
女性は力なく微笑み、礼を言って人混みの中へと消えていった。
イーサンはゆっくりと息を吐き、こめかみを指で押さえた。上の階の机の引き出しに隠した、暗号化された生徒ファイルの重みが脳裏に重くのしかかっていた。40人の子供。40人の標的。
「今にも倒れてしまいそうな顔ね」
柔らかな声がした。
顔を上げると、クレア・ベネットが立っていた。手にはカフェテリアのぬるいコーヒーが入った紙コップが二つ握られている。彼女もまた疲れているようで、いつもは整っている髪が少し乱れていたが、その微笑みは温かかった。彼女は隣の空いている椅子に座り、コップの一つを差し出した。
「ありがとう」イーサンは一口すすった。「長い夜になりそうだ」
「本当ね。私はさっきまで20分間、マーカスの父親に『アメリカ史のCプラスという成績は、一族の誇りに対する侮辱ではない』と説明していたところよ」
クレアは言葉を切り、彼の左腕に目を細めた。ワイシャツの袖が少し捲れ上がり、濃い打ち身の端が露出していたのだ。「イーサン……その腕、どうしたの?」
イーサンは素早く袖を下げ、何でもないように肩をすくめた。「備品室の重いファイルキャビネットにぶつけたんだ。不注意だったよ」
クレアは納得した様子ではなかった。彼女は手を伸ばし、彼の手首にそっと触れた。彼女の手の温もりは、昨夜イーサンが身を置いていた冷徹で無機質な世界とは対照的だった。「今週ずっと心ここにあらずという感じね、イーサン。それにその打ち身。もし何か起きているなら……私に話してくれてもいいのよ?」
「大丈夫だよ、クレア。予算削減のことでストレスが溜まっているだけだ。それと、レナのことも」
イーサンは視線を逸らし、話題をそらした。「彼女の叔母は、今夜来なかったな」
クレアの表情が同情で和らいだ。「ええ。本当に痛ましいわ。でも警察が動いているもの。生徒一人ひとりの人生の重荷をすべて背負い込むことはできないわ、イーサン。そんなことをすれば、あなたが壊れてしまう」
「君には想像もつかないだろう」
イーサンは心の中で思ったが、ただ短く頷いて見せた。「大丈夫だ。約束するよ」
クレアが答えようとしたその時、体育館の重い観音開きのドアが激しく押し開けられた。
一人の女性が、疲れ果て、身なりを乱し、泣き腫らして真っ赤になった目で体育館に足を踏み入れた。レナの叔母、テレサ・トレスだった。彼女は半狂乱の様子で、その声は体育館の高い天井にヒステリックに響き渡った。
「どこにいるの? ベイルはどこ?」彼女は叫んだ。スペイン語と英語が混じった声が、裏返りながら響く。「イーサン・ベイルってのは誰?」
体育館のざわめきが、一瞬にして静まり返った。何十もの視線が一斉にイーサンのテーブルへと向けられた。
イーサンは胸の締め付けを感じながら、ゆっくりと立ち上がった。「トレスさん。ここです」
テレサは中央の通路を突き進み、展示ボードをいくつかなぎ倒しながら、一直線に彼のテーブルへと向かってきた。クレアや警備員が制止するよりも早く、テレサはイーサンの机に両手を叩きつけた。採点済みの答案用紙が床に散らばる。
「あんた!」彼女は嗚咽を漏らし、青ざめた顔に涙を流しながら、イーサンのジャケットの襟を掴んだ。「あの子はあんたを信じていた! この学校であんただけが、あの子をゴミみたいに扱わなかったって言ってたわ! 信じていたなら、どうしてあの子が苦しんでいたことに気づかなかったの? なんで守ってくれなかったのよ!」
イーサンは微動だにしなかった。振り解こうともせず、彼女の絶望的な、激しい揺さぶりを真正面から受け止めた。彼の頭の中では、彼女の苦悶の叫びが遠のき、代わりにシカゴで燃え盛る炎の音と、自分の名前を叫ぶ17歳の少女の声が響いていた。
トレスさんの言う通りだ。自分は彼女の教師だった。迫りくる危険を見逃していたのだ。
「……申し訳ありません、トレスさん」
イーサンは掠れた声で囁いた。その瞳には、静かで深い痛みが宿っていた。
「私の子がいなくなったのよ!」
ようやく駆けつけた警備員が彼女を引き離すと、テレサは膝から崩れ落ちた。「あの子はいなくなった! あんたのせいよ! 守るはずだったのに!」
副校長のウィットモアが急いで駆け寄り、管理者としての深刻そうな仮面を貼り付けて、泣き叫ぶ女性を出入り口へと誘導していった。だが、イーサンの脇を通り過ぎる際、ウィットモアは冷徹で計算高い一瞥を彼に投げた。その視線は、この公衆の面前での醜態が、イーサンを排除するための完璧な口実になったと物語っていた。
体育館は、再び緊張を孕んだ囁き声の喧騒へと戻っていった。
クレアが心配そうに目を見開きながら、床に散らばった書類を拾うのを手伝ってくれた。「イーサン……彼女は取り乱していただけよ。自分を責めちゃダメ」
イーサンは答えなかった。叔母の言葉は彼の最も深いトラウマを突き刺し、罪悪感は今や胸の中で激しく燃える炎となっていた。警察を待つことはできない。システムを待つこともできない。今夜、レナを見つけ出さなければならない。
「おい! もう一回言ってみろ!」
体育館の端から、何かがぶつかる鋭い音が響き、続いて悲鳴と怒号が上がった。
イーサンは即座に駆け出した。
出口の近くで展示ボードが倒されていた。人だかりの中心で、マーカスとデヴォンが顔を真っ赤にして睨み合っていた。マーカスはデヴォンのジャケットの襟を掴み、拳を白く握りしめている。
「もう一度言え!」マーカスが10代特有の怒りで声を震わせながら叫んだ。「俺の目の前で言ってみろ!」
「みんな知ってることだろうが!」デヴォンがマーカスを突き放そうとあざ笑った。「あいつは逃げたんじゃない。お前みたいな気味の悪い奴らと一緒にいるのが耐えられなくなっただけだ! あるいは、お前がいつまでもしつこく付きまとうストーカーだって、ようやく気づいたのかもな!」
マーカスが殴りかかろうと拳を振り上げた。
「マーカス! デヴォン! やめなさい!」
イーサンの声は大きくはなかったが、体育館の騒音を切り裂くような、軍隊のような鋭い権威に満ちていた。マーカスが拳を繰り出す前に、彼は二人の間に割って入り、マーカスの胸に頑丈な手を置いて制止し、デヴォンを背後に庇った。
「彼を放すんだ、マーカス。今すぐに」
イーサンは静かに命じ、少年の目をまっすぐに見据えた。
マーカスはデヴォンを睨みつけ、肩で息をしていたが、イーサンの眼差しにある絶対的な冷静さが、徐々に彼の怒りを貫いた。彼はゆっくりとデヴォンの襟を放し、一歩下がった。
「こいつが先に始めたんだ」
デヴォンがシャツを整えながら毒づいた。そこへ、彼の父親が激昂した様子で人混みをかき分けてやってきた。
「どちらが始めたかは関係ない」イーサンは二人を見据えて言った。「ここは学校であって、闘技場ではない。デヴォン、お父さんと一緒に事務局へ行きなさい。マーカス、お前は私と一緒に来い。今すぐだ」
イーサンはマーカスを連れて、暗い廊下を通って自分の教室へ向かった。体育館の喧騒の後では、教室の静寂が救いだった。イーサンはデスクライトを点け、ドアを閉めると、椅子を指差した。
マーカスは力なく座り込み、自分の靴を見つめた。拳は赤くなり、震えている。
「本当は何があったのか、話してくれるか?」
イーサンは机に寄りかかり、腕を組んで尋ねた。
「デヴォンの野郎……」マーカスが呟いた。「あいつ、何でも知ってるつもりでレナを馬鹿にしたんだ。彼女は変人だから、ああなっても自業自得だなんて」
「それで、教育委員会の目の前で殴り合いを演じるのが、彼女を守る最善の方法だと思ったのか?」
「俺はただ……みんながあいつなんていなかったみたいに振る舞うのが耐えられないんだ!」マーカスが不意に顔を上げた。その瞳には涙が浮かんでいた。「誰も気にしちゃいないんだ、ベイル先生! 教師も、校長も、警察も……みんなあの子を、勝手に出て行った出来損ないのガキだと思ってる。でも違うんだ。あの子は怖がっていた」
イーサンの姿勢が変わった。彼はマーカスに歩み寄り、声を低くして真剣に問いかけた。「なぜ彼女が怖がっていたと思うんだ、マーカス?」
マーカスは生唾を飲み込み、閉まったドアの方を確認してから口を開いた。「あの日……放課後の最後。裏の駐車場にある自分の車へ向かってたんだ。ノートを取り損ねたから、宿題のことをあの子に聞こうと思って」
彼は言葉を切り、手を握りしめた。
「古いバスレーンの近くであの子を見た。男と口論してたんだ。背が高くて、黒いスーツを着た男。先生のスーツじゃなくて、もっと……高いやつ。弁護士か何かみたいな。男があの子の腕を掴もうとして、あの子はそいつを突き飛ばした」
イーサンの鼓動が速まった。「彼女がどこへ行ったか見たか?」
「あの子は自動車工学実習棟の裏の路地へ走っていった」マーカスの声が震え始めた。「でも、黒いSUV——窓が真っ黒な、バカでかいやつだ——がやってきて、あの子の行く手を塞いだ。別の男が降りてきて、あの子を後部座席に押し込んだんだ」
「なぜそれを警察に言わなかったんだ、マーカス?」イーサンは少年を怯えさせないよう、落ち着いたトーンを保った。
「言ったよ!」マーカスが小さく叫び、拳を固めた。「今日、家に刑事が来た時、そのSUVのことを話したんだ。でも、あの女刑事はメモを取っただけで、『それはただの迎えの車でしょう』って言ったんだ。信じてくれなかった! 俺が作り話をしてると思ったんだ!」
イーサンは少年を見つめた。その表情は沈痛なものへと変わった。彼はこの「システムの仕組み」を嫌というほど知っていた。
「警察はあの子を探さないよ、マーカス」イーサンは静かに言った。「ウィットモアが手を回したんだ。警察が学校に照会した際、ウィットモアはレナを『放課後によく年上の男と会っている問題児』として記録したファイルを渡したはずだ。犯罪多発地区で40件もの事件を抱えている巡査にとって、黒いSUVは誘拐車両じゃない。ただの素行不良の子供が、彼氏の車に乗り込んだだけに見える。ウィットモアが先に『台本』を書いてしまったから、警察は君の話を切り捨てたんだ」
マーカスは呆然と彼を見つめた。レナという存在がいかに簡単に抹消されたかという、恐ろしい事実に気づいたのだ。「そんなの……反吐が出る」
「それが効率的だからだ」イーサンは冷たく訂正した。「だから、自分たちの手で彼女を見つけ出すしかないんだ」
「そのSUVのナンバープレートは見たか?」
マーカスは首を振った。「いや。暗すぎた。でも……」彼は躊躇い、眉をひそめた。「ドアの横にロゴがあるのを見た。小さくて、金色のやつだ。円の中に、鳥か何かが入っているような……」
イーサンの心臓が肋骨を叩いた。「円」だ。
「マーカス」イーサンは少年の肩に手を置いた。その手は力強く、地に足をつかせるような安心感があった。「私に話してくれたことは正しい判断だ。だが、私の言うことをよく聞いてくれ。このことは、他の誰にも話してはいけない。デヴォンにも、友人にも、そして警察にもだ。いいか?」
マーカスは困惑して瞬きをした。「どうして? 警察がそのSUVを見つければ——」
「レナを連れ去った連中は、非常に危険だ」イーサンが遮った。その声には、否定しようのない、冷え冷えとした重みが宿っていた。「もし君に見られたと連中が知れば、次は君が狙われる。約束してくれ、マーカス。君は沈黙を守れ。ここは私に任せるんだ」
マーカスは教師を見つめ、イーサンの雰囲気が一変したのを感じ取った。これは単にアドバイスを与える国語教師ではない。この世界がいかに危険であるかを熟知している男の顔だ。
「……わかった」マーカスが囁いた。「約束するよ」
「両親のところへ戻りなさい」イーサンは小さく、安心させるような笑みを浮かべた。「停学にならないよう、学校側には私から話しておく。行きなさい」
マーカスが去った後、イーサンは薄暗い教室に一人佇んでいた。彼は机に向かい、引き出しからレナの本を取り出した。
マーカスは「糸」を繋いでくれた。黒いSUVに金色の円のロゴ。
彼はプリペイド携帯を取り出し、ギデオンの秘匿回線にダイヤルした。
「ギデオン」電話がつながると同時にイーサンが言った。「手がかりを掴んだ。学校の近くでレナを連れ去ったのは、金色の円のロゴが入った黒いSUVだ」
電話の向こうで長い沈黙があった。やがてギデオンが口を開いたとき、その声は緊張で強張っていた。
「……それはヴァンガードの現地工作部門が使うエグゼクティブ・トランスポートだ」ギデオンが言った。「それからイーサン……あのmicroSDカードのサーバーログの分析が終わった。生徒ファイルを収集したIPアドレスは、外部のものじゃない」
「どういう意味だ?」
「データベースには、学校の事務局内から物理的な接続でアクセスされている」ギデオンの声は重かった。「マスターキーを持つ誰かがファイルをダウンロードし、ヴァンガードのサーバーにアップロードしたんだ。お前の職場に『モグラ(内通者)』がいるぞ、イーサン。そして、もし連中がお前がそのカードを持っていると気づけば、お前の命はない」




