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第五章「淘汰されるは人か獣か」3

 パウロ軍基地第一管制室。普段は、空軍パイロットに指示を飛ばす場所だが、今回は少し様相が違う。航空隊の指揮官に加え、空爆隊の指揮官。それに各レフォルヒューマンのインスペクターが一堂に揃っている。インスペクターとオペレーターは前面の席で情報端末を操作し、指揮官はその後方で、いつでも指揮を飛ばせる位置に座っている。そして、そのすべてを俯瞰して見れる位置に、今作戦の作戦指揮をとるマック・グレゴリーが座り、そのさらに後方に、パウロ軍基地総司令のテオフィル・ラガトが座る。


 ラガトはその俯瞰した位置から、正面の壁面モニタを眺めている。映し出されている映像は二分割されており、半分は、接近してきたトリムアイズとの交戦の様子が。そして、もう片方にはそのトリムアイズが通ってできたであろう砂の山脈を辿っているドローンの映像が流れている。


 しばらくすると、砂山が途切れ、大きな足跡が映し出されるようになる。その地点から既にオゼインシェルターが見えていた。よく見るとシェルターには、巨大な穴があけられている。


 ドローンはシェルターに接近すると、そのまま中に侵入する。まず初めに映ったのは畑の跡が残る平野部。そのところどころに小規模の町が見える。しかし、巨大なものが這いずりまわった跡が痛々しい傷跡のように残っている。五年前の襲撃の跡だ。次に映ったのは、木々の緑に覆われた山々の数々。さらにその奥に進むと、中規模のビルが数棟たっているのが見えてくる。この都市の中心街なのだろう。人のいない静まり返った街。五年前の襲撃で放棄された都市、エーデルだ。這いずった跡はそこまで到達していて、多くの地表は瓦礫に覆われていた。


「やはり、ここだったか」


 グレゴリーが貫録のある濁声で言った。


「五年前にエーデルを襲ったのは、エネルギーを補給するためと考えるのが自然だろう」


 ラガトが返した。レオンの報告によると、頭部以外の体節にはそれぞれエネルギーを貯蔵できる巨大な蓄電池が搭載されている。奴はどこからか、エネルギーを吸い取っているはずだ。


「穴を探せ。あの巨体だ。隠せるものではない」


 グレゴリーから指示を出され、オペレーターはすぐにドローンの進路を変える。あたりを散策しながら飛行すると、すぐに大穴が映像に映し出される。


 穴の直径が三十メートルはある巨大な穴だ。中は下の方に傾斜しながら、奥に続いているようだった。


 穴の続いている向きから察するに、都心部から離れた所にある核融合施設に繋がっている。


 突然、空爆隊の指揮官が振り返り、声をあげた。


「空爆隊、目標ポイントに到着しました。いつでも落とせます」


「よし。始めろ」


 オペレーターがカウントを開始する。カウントがゼロになったと同時に幾つもの爆弾がばらまかれた。


 トリムアイズが陸戦兵器であるがゆえに出来る攻撃だ。トリムアイズが攻撃対象とするのは主に地上にいる敵軍兵器。上向きのレーダー探知のアンテナはついておらず、空の敵など見える分しか対応できない。


 上空五千メートルという高さ。雲よりも高所から爆弾はトリムアイズの頭上へ降り注ぐ。


 トリムアイズがタレットを起動させるも、その時には時すでに遅し。レーザーポインターが照準を合わせるも、すべての爆弾を迎撃するのは不可能だった。降ってきた爆弾は地表もろともトリムアイズを爆炎に包み込んだ。数十秒がたち、炎が収まると黒煙がたちこめる。その煙の中に巨大な影が浮かび上がった。煙が晴れ、鉄の巨躯が再び現れる。トリムアイズは、地に尻をつけた状態で項垂れていた。その姿勢でぴくりとも動かない。


「トリムアイズの破壊に成功したと思われます」


 だが、この戦術も都市に接近されすぎたら使えない。あたり一帯ごと爆破するこのやり方は、都市からの距離が近すぎると、都市そのものに危害を及ぼす可能性がある。では、高度を低くして狙いを定めれば良いのかというと、そうでもない。


 少しでも視覚に捉えられれば、レーザー光線で塵尻にされてしまう。雲に隠れられて尚且つ、都市に近すぎないことが空爆隊を使える条件なのだ。


 では、条件がそろわない場合何を使うか。それは、航空隊か……、レフォルヒューマンか……。


 もう、空にいることは、敵にばれてしまった。次はどうする。グレゴリー。


「各レフォルヒューマンの定置をいう。ライアン・バークスはレオンに物資を届けたのち、防衛要因として地下駅に待機。レオン・ファーベルクは、エーデルへ向けて出発。空路ではなく都市間鉄道の線路を使え。ユーイン・ジェンクスは、基地に戻って来次第、ギゼル砲台へ向けて出発。残りは、いつでも出撃できる状態で待機しろ」


 各インスペクターが指示を飛ばす。


 その声を打ち消すように後ろから扉の開く音が聞こえた。ラガトは振り向かず、足音の主が隣にくるまで横を向かなかった。


「ラガト総督。突然の来室申し訳ありません。お話があります」


 ラガトはちらっとクレハを見る。決意のこもった双眸をしていた。


「なんだね」


「レオンのインスペクター、今から私にやらせてください」


 どうしたものかとラガトは考えた。


 レオンの現インスペクターであるハンスは振り返り、目を剥いてクレハを見ている。グレゴリーが顔を前に向けたまま、言った。


「君は、外された人間だろう。帰りなさい」


「しかし」


「状況を読みたまえ。いまは、君のわがままに付き合っている時間はない」


 ラガトは、そうは思わなかった。彼女をこの戦いに引き込むことが出来る最後の機会だ。より慎重に考えるべきではないだろうか。


 結局のところ、ギガセンテを討伐できるかは、レオンにかかっている。現状一番レオンのことを理解しているのは彼女なのだ。


「クレハ・アストリー。君はレオンのインスペクターとしての任期は何年だ」


 突然の質問にクレハは、意表を突かれた様子で答える。


「レオンが機械化してからすぐに就任したので二年です」


「ハンス・ゾロア、君のインスペクターとしての総就任期間は何年だ?」


「たったの一年です」


「アストリー。君は、レオンと知り合って何年だ?」


「幼少期からなので、十五年です」


 それだけの長い付き合いだったのか。ラガトは自分を戒めた。これまでのレオンの戦績。何十回と個人での迎撃作戦に赴き、そのほぼ全てを一人で成功させてきたのだ。それが出来たのも、アストリーのレオンへの思いの強さと、信頼があってのことなのだろう。なぜ、いままで自分はそこを評価してこなかったのか。いまこそ、彼女に託すべきではないのか。


「許可しよう」


「ラガト、なんのつもりだ。アストリーは、レオン本人が外したんだぞ」


「それでも、私は彼女が適任だと思っている」


「状況をわかっているのか?」


「ああ、わかっているさ。もともとは彼女の方が適任だった。アストリーは、レオンのことを誰よりも理解し、力を最大限発揮させることができる。適任は彼女しかいない」


 ラガトは前面の席に座るハンスに目を向けた。


「ということだ。悪いけど、その席を彼女に譲ってくれないか」


 ハンスは、すっと立ち上がった。


「そういうことでしたら、私は防衛大臣として、動くことにします。他の都市からも支援物資、および増援の手配をしてまいります」


「頼んだよ」


 ついで、ラガトはクレハを見る。


「レオンは、エーデルで眠っているギガセンテを直接叩くように動いてもらう予定だ。そこでの指示出しは、君の自由にしてもらっていい」


「了解しました」


 クレハは、深々と頭をラガトに下げた。




 クレハは、ハンスが座っていた席に座る。


 横を向いたら隣に座るレイサと一瞬眼があった。レイサは、和やかに微笑んだ。クレハも微笑み返す。そして、視線を情報端末の画面に落とした。

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