表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/50

第五章「淘汰されるは人か獣か」2

 自宅から五百メートルくらい離れた所。クレハは、マンションの前で狼狽する親子を見つけた。母親の方は二十代後半くらいで、子供の方は、まだ、十歳にも満たない女の子だった。母親の方はあたりを見回し挙動不審だった。まるで、逃げ道を探しているみたいだ。どうして……。


 しかし、その疑問はすぐに解決される。


 親子を挟んで反対側からグレイブが近づいてくるのが見えたのだ。


 クレハは、銃を構えた。標的のグレイブは、どこかから逃げてき様子だった。しきりに後ろを気にしながら走ってくる。しかし、親子の存在に気が付くとすぐに機銃を向けた。


 クレハは、発砲した。グレイブの照準が親子に向いていたおかげか、クレハが撃った弾丸は一発で頭部を捉えた。グレイブは視覚カメラがやられたのか狼狽し始める。クレハは、続けて次弾を撃つ。二発目でグレイブのコアは破壊できた。


 クレハは、親子に近づいた。


「ここで、何をしてるんです。はやくマンションの中へ」


「ここは、私たちのマンションじゃないから、エントランスを通れないの」


 見れば、確かにエントランスはガラス製の自動ドアで塞がれている。だけど、備え付けのインターホンがちゃんとついている。


 呆れた。自分の子供を生かすために、誰の部屋でもいいから呼び鈴を鳴らしてロックを解除してもらおう、という思考は働かなかったのか。住人が駄目でも管理人室に繋いで事情を説明すれば開けてくれるはず。


 すぐ、クレハはインターホンから管理人室に繋ぐ。


「パウロ軍所属のアストリーです。避難させたい人がいるので開けてください」


 わかりましたと、声が返ってきて、自動ドアがすぐに開く。クレハは、親子を中へ通した。


「ねえ、お姉ちゃん。あれ……」


 女の子が指をさした方を見ると、正面に伸びる道の奥からグレイブが一機近づいてきていた。仲間の信号が途絶えたから、よってきたのだろう。


 だが、その個体はクレハが知っているグレイブの姿とは少々異なっていた。背中にあるべき機銃がない。その代わりに長いロボットアームが腰の上あたりから伸びている。アームの先端には、黒い棒がついていた。


 その棒から光の刃が出現する。


 まずい。フォトンブレードがあると、熱による融解が可能な物質は、全て切られてしまう。ガラス製の自動ドアなど簡単に切り抜かれて中に侵入されてしまうだろう。


「はやく、奥に行ってください」


 母親はおどおどとしている。ドアセンサーのしたから動かなかった。クレハがドアを通り抜けるのを待っているのだ。


「あなたも早く」


「私は軍人です。気にせず行ってください」


 やっと親子は、奥の方へ行った。


 だが、その様子をあのグレイブに見られてしまっている。あのグレイブを倒さないと次の犠牲は、あの親子だ。


 グレイブはゆっくりと近づく。姿勢を低く。獲物を見定めているように見える。


 クレハは、発砲する。しかし、弾丸はフォトンブレ―ドによって阻まれた。それでも構わずクレハは発砲し続けた。弾丸はまるで蚊を払うかのように熱素に焼かれて消滅する。それでも撃ち続けて、一個目のマガジンが空になり、取り換える。その隙にグレイブは走り寄ってくる。あっという間に間合いがつまる。


 グレイブが車道からマンションのエントランスに踏み込んだとき、横から何かが飛来した。グレイブの脚が止まる。


 よく見ると飛来物にはワイヤーが繋がれていた。ワイヤーの先のアンカーはグレイブの脇腹あたりに突き刺さっている。その状態でワイヤーが巻き取られ始めた。


 グレイブは、最初こそクレハに食らいつこうとしていたが、脇腹あたりを掴まれた状態では、剣が届かず、ずるずると引き離されていく。


クレハに届かないと悟ったか、グレイブは体の向きを変えた。ワイヤーが引っ張る方向に駆け出す。あっという間に視界から消えていったグレイブ。クレハが追いかけるも、その姿を再び見るころには、光の刃に串刺しになっていた。グレイブは飛び掛かる直前の姿勢で止まっている。懸命に伸ばされた前足はどこにも届いていない。腰から伸びる長いアームの先端は切り飛ばされ、フォトンブレードは袋状のコアを破るだけでなく、その奥の喉元も貫いていた。


 ただの金属の塊に戻った体からフォトンブレードが引き抜かれ、スクラップ同然と言わんばかりにグレイブの躯が蹴り飛ばされた。


 レオン……。


 レフォルヒューマンが歩み寄ってくる。顔がヘッドパーツに覆われているせいで、誰なのかわからない。でも、歩き姿を見ただけで、クレハは今目の前にいるレフォルヒューマンがレオンではないことを見抜いた。


 レフォルヒューマンは、だらりと力感なく腕を垂らして近づいてくる。普段見慣れたレオンのものではない。


 レフォルヒューマンが、フォトンブレードの刃を消して、剣帯につるす。こっちの存在に気が付いているみたいでまっすぐ向かってきた。ヘッドパーツをとりその顔が露になる。プラチナブロンドで癖のある髪。幼さの残る顔立ち。そして、青い瞳。


 ユーイン・ジェンクスだった。レオンに次ぐ実力を持ち、レオンともそれなりに仲がいい。寛ぎスペースで談笑しているのを何度か見かけたことがあった。

 

 ユーインはクレハと目を合わせると、鋭い剣幕を覗かせる。


「レオンのインスペクターじゃん。なんでこんなとこにいるのさ」


「なんでって、私も軍人だから」


「軍人ねえ……」


 ユーインの目は、蔑むような目に変わった。その視線は、クレハの手の中にある銃へ向く。


「ふーん。そうやって兵隊ごっこをまだ、続ける気なの?」


「兵隊ごっこ……て、こっちは本気で戦おうと」


「まったく理解してないね。レオンがなぜ、君を遠ざけたのか考えないのかい?」


 攻めるような口調にクレハは、カチンとくる。……が、冷静になろうと息を呑んだ。グレイブが周辺にまだいるかもしれない。口論なんかしている場合ではないと、クレハは周囲を見回した。第一さっきの親子を保護しないと。


 そんな思考を読み取ったのかユーインは落ち着いた口調で続ける。


「大丈夫さ。インスペクターが確認してくれている。この辺にいたのはさっきので最後だよ」


 見上げると、ちらりと無人偵察機が飛んでいるのが見えた。その偵察機は、すぐに別の場所へと飛んでいった。どうやら、近辺にグレイブがいないことは本当らしい。


「それで、さっきの答え。なんでレオンは君を遠ざけたのか。君の考えを聞かせてくれ」


「そんなの……」


 ぱっと思いつかなかった。レオンのことだから何らかの事情があったのかもと、無理やり自分を納得させていた。事情というのがなんなのか、その中身をまったく考えもせず。


「答えられないみたいだね」


 まるで透かしたようにユーインは言った。


「時間がないから答えを言うよ。まず、レオンは君のことをとても大切に思っている。これは、君とレオンが任務以外で話しているのを見れば誰だってわかる。君がレオンのことを思っているのと同様にレオンも君のことを思っている。そして、そのことが足かせになっていることをレオンは知っていた。レオンは、君を大切に思うあまり、死ぬことに恐怖を抱いていた。死んだら君が悲しむのをわかっていたから、どんな任務でも生き残ることを優先してきた。それでも、レオンの実力なら地上にいる機械獣のほとんどを討伐できていたからよかった。でも、命を賭して戦わないといけない機械獣が現れたとしたらどうだろう?」


 クレハは、はっとした。レオンは、全部思い出していたのではないか。ギガセンテがグランツェを襲撃したときの光景を、少しもかけることなく全部。もしそうだとしたら……。


「レオンが君を遠ざけたのは、君を近くに感じると決意が揺らいでしまうからなんだ」


 何もかも思い出した状態で、グレイブが地下都市に侵入してきているという情報を耳にすれば、ギガセンテの脅威がどうしてもよぎってしまうだろう。グランツェが襲撃を受けたときも、ギガセンテが直接攻撃を仕掛けようとする前に、グレイブが襲撃を仕掛けてきた。同じなのだ。前と状況が。


「レオンはね、君がいるとどうしても生きたいと思ってしまうんだ。だから君を遠ざけた。これはレオンの決意なんだよ。ギガセンテがグランツェ同様にパウロを襲撃してくるのならレオンは、死んでも都市を守ろうとする。そして、そのタイミングはもうすぐだ」


「まって、そもそもギガセンテが動き始めているっていうのは、本当にそうなの? 確信のもてる情報は……」


「少なくとも、上はそう考えている。最近やたらイレギュラーが多いのも奴の仕業ではないのかとも」


 それでもクレハは、納得ができなかった。いや、否定したい自分を納得させることが出来ないという方が正しい。だったら、いま、ギガセンテはどこで何をしている。その情報が入ってくるまで納得ができない。


「これを訊いても、君はこんなところで油を売る気かい?」


「でも、私は、レオンの意志を尊重したいし」


「そんなこと言っていたらレオンは、また死ぬよ。ギガセンテが現れたとき、レオンは命を引き換えにしてでも討伐する。それが彼の意志だ」


 突然、サイレンが鳴り響いた。けたたましく、不安を煽るように何度も響く。立て続けの襲撃。もう否定しようがない。


「どうやら、第二波が来たみたいだね。君も動かないなら隠れた方が良い。君は軍人であっても兵隊ではない。君が戦うべき場所はここじゃないよ」


 ユーインは背中を向け立ち去ろうとする。


「まって」


 ユーインがぴたりと脚を止めて顔だけをこちらに向けた。


「私も戦う。レオンのインスペクターとして。だから、基地まで連れて行って欲しい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ