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 呆然としながら遠ざかっていく伯爵令嬢フローラの後ろ姿を見ていると、双子のメイドが一歩、前に出ていわゆる『あっかんべー』をした。


「なんですか、あの失礼な人は!? 伯爵令嬢だなんて信じられません!」


「あんな人が王太子妃になんて、なるわけがないです!」


「セリナお嬢様! あんなイヤミな人の言うこと、気にすることないです!」


「うん。ありがとう」


 フローラの態度に猫耳としっぽの毛を逆立てて、怒りをあらわにしながら私を気づかってくれる双子に、ささくれ立っていた心がなごむ。


 ふとクラレンス様がいた場所に視線を向けると、伯爵令嬢から婚約破棄を宣言されたクラレンス様は肩を落として立ち去る所だった。


 王立学園の卒業日、私に婚約破棄を告げた侯爵家の子息が、今度は婚約破棄を告げられる側になるとは皮肉なものだ。



 それにしても、フローラが王太子妃候補とは驚きだ。それと同時に王宮で働くというローザのことが心配になった。一言、フローラが王太子妃候補になったことをローザに伝えたい。


 そう思いながら双子と共に石畳の道を歩いていると、見覚えがある金髪の少年が道を歩いていることに気付いた。


「あなた、ケヴィン君じゃない?」


「え? あ、確かローザ姉さんの友達……」


「ええ、セリナよ。ちょうど良かった! ローザに会いたいと思ってたの!」


「ローザ姉さんなら、もういないよ」


「いない?」


 思いがけない言葉に目を丸くしているとケヴィン君はサファイア色の瞳に影を落とす。


「人手が足りないとかで予定を前倒しして、昨日から王宮へ働きに行ったんだ」


「そんな……」


「姉さんに何か用があるなら一ヶ月後、会うときに伝えるけど?」


「一ヶ月後……」


「ああ。一ヶ月後、俺が姉さんに会いに王宮へ行くことになってる」


 金髪碧眼の少年を前に私は逡巡した。フローラが王太子妃候補であるということは遅かれ早かれ、ローザが王宮でフローラを見かけるか、王太子妃候補の噂話を聞けば分かることだ。


 しかもケヴィン君がローザに会うのが一ヶ月後では、ケヴィン君が伝える前に王宮で伯爵令嬢フローラが王太子妃候補になったとローザの耳に入る可能性の方が高い。


 そもそも、ここでローザの弟であるケヴィン君に対して、フローラのことを告げれば、ケヴィン君の不安をいたずらにあおるだけだろう。


「あ、ローザがいないなら、もういいわ……」


「姉さんに話を伝えるくらい構わない。何か大事な用だったんだろう?」

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