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赤髪の伯爵令嬢フローラが婚約破棄を口にしたことで、クラレンス様はアイスブルーの瞳を見開いた後、眉根を寄せて激怒した。
「婚約破棄だと!? 勝手にそんなことを言いだしてタダですむと……」
「あなたこそ、口のきき方には気をつけた方が良いんじゃありませんか?」
「なんだと?」
「私は王太子妃候補……。いいえ、近い将来、王太子妃になって、伴侶である王太子殿下が国王になれば、私は王妃になるのよ?」
現状ではオブシディア侯爵家の子息であるクラレンス様の実家の方が、伯爵令嬢フローラより家格が上だが、本当に王太子妃になるならフローラの方が侯爵家よりも身分が上となる。伯爵令嬢の言葉にクラレンス様がひるむ。
「ぐっ」
「フン。侯爵夫人になるより、王太子妃になった方が良いに決まってるではありませんか。もう私につきまとうのは金輪際、おやめになってね」
愕然とし、立ち尽くすクラレンス様を紅玉色の瞳で冷たく一瞥した後、フローラはその場を後にする。私は思わず後ずさったが、フローラと視線があってしまった。
「あら、セリナじゃない……。こんな所で何をしてるの?」
「え、私は……。ちょっと空き店舗の見学に」
「空き店舗? あなた、まさか商売でも始めるの?」
「ええ、そのつもりだけど……」
思わず、正直に答えるとフローラは目を丸くして驚く。
「ウソでしょ!? まがいなりにも貴族令嬢が商売!?」
「う、ウソじゃないわよ」
「そういえば、あなたは実家の領地を手放して没落貴族になったのですものね。困窮して下々の者同様に働かないといけないなんて、本当にお可哀想ね」
「私は好きで商売を始めようと思っているのよ……。可哀想だなんて言われる筋合いはないわ」
そう。私がケーキを作ってお店をはじめるというのは、前世でかなえられなかった夢でもあるのだ。フローラに同情されるいわれはない。だが、赤髪の伯爵令嬢は私の言葉を鼻で笑った。
「フン。強がっちゃって、没落貴族の意地ってやつかしらね」
「それより、フローラ。あなたクラレンス様と婚約破棄って……」
「ええ、そうよ。私のことを聖女の再来と聞き及んだ王宮から『王太子妃候補』として声をかけられたの。だからクラレンス様とは婚約破棄したわ」
「王太子妃候補……」
「うふふ。同じ王立学園の同じクラスで学んだクラスメイトだったのに、方や王太子妃候補、方や平民同然の没落貴族、運命が天と地も違うなんて驚きだわ」
「……」
「まぁ、近い将来、王太子妃になる私のクラスメイトであったことは、あなたの人生の中で唯一の栄誉であったと光栄に思いなさい! おほほほほ!」
伯爵令嬢フローラは鮮やかな赤い髪をかき上げると、ハイヒールの靴音を高らかに鳴らしながら去って行った。




