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こうして、トントン拍子に話は進み、リフォームについては、いつからでも工事に入って構わないとラッセル老に告げられた。そこで業者が決まり次第、またラッセル老の自宅に伺って詳細を伝えるということで落ち着いた。
二回目の空き店舗見学と、オーナーであるラッセル老との話が無事にまとまって、私はホッと胸をなで下ろし、屋根裏部屋から下りてきた双子と共に空き店舗を出て、ラッセル老に今日のお礼を告げた後、ひとまず別れた。
その時、ふと男女が言い争っている声が耳に入った。喧噪に視線を向ければ、目の前にある噴水広場の中央で男女が声を荒げているのが遠目からでも分かった。
「何かあったのかしら?」
「見に行きますか。セリナお嬢様?」
「ええ、そうね」
近くに行って、口論を続ける男女を何事かと見つめれば、赤髪に深紅のドレスを着た気の強そうな女性と、いかにも貴公子然とした金髪の青年、身なりから二人は貴族であろうことがうかがえた。
その男女をよくよく見れば、見覚えのある人物であると言うことに気付き一瞬、自分の目を疑った。
「フローラ! 君は、ぼくと結婚するって言ってくれたじゃないか! もう婚約披露もすんでいるんだぞ! ぼくの顔を潰すつもりか!?」
「婚約披露と言っても、ごく身内でのお披露目ではないですか……」
「身内だろうが、婚約者として君を紹介したことは変わらないだろう!」
「そんなことを言われても、あの直後に王宮から打診があったのですから。王宮からの打診を優先するのは当然でしょう? クラレンス様」
なんと、噴水広場の中央で口論していた赤髪の女性は、私の王立学園時代のクラスメイトであるフルオライト伯爵家のフローラ。そして紺色の貴族服を着た金髪の男性は、私の元婚約者であるオブシディア侯爵家のクラレンス様だった。
私があっけにとられていると、クラレンス様は苦々しい表情でフローラをにらみつける。
「王宮からの打診を優先って……。明らかに、ぼくとの婚約が先だったじゃないか!?」
「そんなこと言われたって王太子殿下の婚約者候補として、お声をかけられたのですから仕方ないじゃないですか」
「婚約者のいる身で何を言ってるんだ! 王太子の婚約者候補だなんて辞退すべきだろう!」
「ハァ、穏便にすませたかったけど、なんだか面倒になってきましたわね……」
「どういう意味だ!?」
「つくづく、話の通じない人ね……。あなたと結婚するより、王太子殿下と結婚したいから、あなたとの婚約は破棄させて頂きますわ」