444
早速、裁縫箱の中から採寸道具を取り出したレイチェルは私の胸部分から丈、胸囲などを順番に測っていく。そして手さげ袋に丸めて入っていた赤色、薄紅色、緑色、黄色、藍色、水色、オレンジ色、白色などの布をテーブルの上に置いた。
「セリナさん。ひとまずウチの店から数種類、生地を持って来たんですが……。この中で希望の生地や色はありますか?」
「あー。特にこだわりは無いから手早く加工できる生地で、とりあえず着れる物を作ってもらえれば……」
「おまかせ、ということですね」
「ええ」
「加工しにくい生地というのは基本的に針が通りにくい分厚い生地ですが今日、店から持ってきたのはどれも比較的、針が通りやすい生地ですからこの中から選ぶならどれでも問題無いんですが……」
「そう? それじゃあ……。ん? この布は」
私の視線が止まったのは普通の一色染めの生地に挟まれた中で薄紅色から濃赤色、そしてオレンジ色から薄紅色へと綺麗なグラデーションで染まっている布だった。
「あ、それは私がコチニールで染色してみた布です」
「ああ、コチニールを使ったのね。なるほど……。この布は色合いが綺麗で良いわね。グラデーションがとっても綺麗……。これでワンピース作ってもらうことはできるかしら?」
「もちろんです!」
以前、天然の着色料だと話に聞いたコチニール。私も一応、購入したけど結局お菓子の着色料としてはあまり使用していなかった。
そういえばレイチェルは染色に興味があって自分でやってみたいと言っていたけど、実際に生地を美しいグラデーションで染めて新しい布を作っていたんだと分かってしみじみする。
「こういうグラデーションの生地ってもう店頭で売ったり、ドレスに使ったりしてるの?」
「そうですね。店頭に出して、たまにお客さんの目に止まって売れることもありますが、なにぶん下町のさびれた仕立屋ですから……。相変わらずお客さんが少なくて」
テーブルの上に広げたオレンジ色のグラデ―ション生地を裁断しながらレイチェルはさびしそうに苦笑する。どうやら売れ行きはあまりかんばしくないようだ。
「こんなに綺麗に染まってるのに……。もっと人目についたら絶対、売れると思うんだけどなぁ」
「ありがとうございます。セリナさんにそう言って頂けただけでも嬉しいです」
ひかえめに微笑むレイチェルが迷いのない動作で身ごろ布を裁断し終わると、今度はソデ部分の裁断に取りかかりあっという間にワンピースに必要な布地が切り取られてテーブルの上に置かれた。
「後は本体のワンピース部分に関しては一度、折り目をつけて炭火アイロンをかけてからまっすぐ、ぬっていくだけです。とりあえず、本体のワンピース部分を手早く仕上げますね」




