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あの時は、姉のことを悪く言われたケヴィン君がブチ切れて大変だった。また両者が顔を合わせればトラブルに発展するのではないかと、私が生つばをのんだ時だった。ここにケヴィン君がいるという事実に気付いた貴族の少年一人が立ち止まり大きく目を見開いて、顔を引きつらせた。
「おい、どうしたんだよ。急に止まったりして?」
「だ、だって、あれ……」
「え? 何が……。うげぇ!? ケヴィン!」
金髪碧眼の少年に気付いた子たちは、驚愕に顔をゆがませながら怯えた表情をしている。明らかに腰が引けている少年たちにケヴィン君は悠然と笑みを浮かべた。
「なんだ? 僕を見て、まるで化け物でも見たかのような反応はあんまりなんじゃないか?」
「ヒッ!」
「い、行こうぜ!」
「ああ」
少年たちは顔色を変えて、蜘蛛の子を散らすように逃げだしていった。確か前回、ケヴィン君に氷漬けにされかけたから恐怖心が植え付けられたのかもしれないけど、それにしても尋常ではない怖がりような気がする。
「ケヴィン君、あの子たちと何かあった?」
「セリナさん。心配しなくていいよ。……証拠は一切残して無いから」
実に爽やかな笑顔で金髪碧眼の少年が私に微笑みかけてくれたが、発言内容に不穏なモノが含まれていたことに気付き戦慄が走った。
「何かやったのね!? いったい何したの? あの子達の反応、普通じゃなかったわよ!?」
「まぁ。体育館裏に呼び出して、ちょっとね……」
「体育館裏!? ある意味、定番の呼び出しスポット!」
そして口元に薄っすらと笑みを浮かべる眼前の美少年に、妙なスゴ味を感じる!
「大したことはしてないんだよ。本当に……。自分でも優しかったと思うよ。僕の姉さんを薄汚い言葉で侮辱するなんて万死に値するのに、こうやって生かしてやってるんだから」
「い、一体なにしたのよマジで。怒らないから言ってみて?」
「セリナさん。知らない方が良いことって世の中にはあると思わない?」
「ケヴィン君……?」
「まぁ、連中は生まれつき上級貴族が絶対的に偉いって勘違いしてたから、その勘違いを正してあげただけだよ。本当に偉いのは身分が上の貴族じゃない……。力を持った者だってことを」
冷淡な笑みを浮かべながら逃げ去る少年たちの背中に視線を向けるケヴィン君を見ながら思った。この子に私が何かしてあげようなどと考えることの方がおこがましいと……。
ケヴィン君は強く生きていくだろう。心配なのは強すぎて人を殺さないかということ、氷漬けにしてしまわないかということ、異常気象を引き起こして大規模な災害を招かないかということだ。
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