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ローザについての説明で一定の理解を示してもらった後、肉屋のエマさんと別れた私は再び手押し車を押して石畳の道を歩き出した。
「パティスリーの菓子職人としてケーキを届けるという名目で王宮に出入りしているのに、王宮で見聞きしたことを何でもペラペラと外部に話すのは店の信用問題に関わるし、今まで公式にはレオン陛下が伯爵令嬢フローラと婚約していたから遠慮してたけど、婚約破棄が確定したからには遠慮しなくて良いわよね」
レオン陛下が麻痺症状で病床にいた時、ローザが陛下を看病していたという事実は謁見の間にいた大勢の臣下の前で国王陛下が自ら話した訳だから『寵姫ローザがレオン陛下を看病していた件』は私が個人的に見聞きしたことではなく、公式な発表と同義と言えるだろう。
「国王陛下の公式発言だから、そのことについて城下で話すのは大丈夫よね。すでに他国には国王陛下の病を癒したのがローザだってウワサも広まっているようだし……。あの位なら私の口から言っても問題無いはずだわ」
ローザが女王の部屋に滞在している件については、厳密に言えば後宮で火事騒ぎがあったことや寵姫であるローザが命を狙われていたから警護のために女王の部屋に滞在しているという理由が大きいが、それを説明しようと思ったら後宮内で火災や殺人未遂が立て続けに起こったことまで言及しないといけなくなる。
私の口から、後宮内の治安が乱れているという趣旨のことを話すのはさすがにマズいだろう。だから、その部分はあいまいにして説明した。
「いつまでも黙っていたらローザが誤解されたままだから、できる範囲で根も葉もないウワサは訂正すべきよね」
そんなことを考えていた時だった。前方から見覚えのある金髪碧眼の少年が歩いてきた。
「ケヴィン君?」
「セリナさん……」
「奇遇ね。そういえば、あれから大丈夫? あの意地悪そうな子達に、いじめられたりしてない?」
「うん。大丈夫だよ」
金髪碧眼の少年は美しい蒼玉色の瞳を細めて穏やかに笑った。ローザが王宮にいる以上、ケヴィン君は心を許せる身内というのが失われた状態だ。せっかく、こうして知り合った訳だし姉であるローザの代わりに、この少年が無理をし過ぎないように私に手助けできることがあれば力になりたい。
姉が国王陛下の寵姫ということで口さがないことを言う者もいるだろうけど、ケヴィン君のためにも間違っているウワサは極力、広まらないように配慮すべきだろう。
寵姫ローザは悪女などという悪評を広めていた伯爵令嬢フローラの実家、フルオライト伯爵家に関しても複数のメイドを殺害した容疑があるのだから、何らかの沙汰が下るのは間違いない。
フルオライト伯爵家がこれ以上、ローザの悪評を広めることができないなら事態は好転していくに違いない。そんなことを考えていると前方から複数の少年たちが歩いてきた。
身なりの良い、いかにも貴族の子弟といった風貌の少年たちだ。そして、妙に既視感があると思いながらジッと見つめて既視感の正体に気付いた。この生意気そうな少年たちは以前、ローザが悪女だというウワサの件でケヴィン君にケンカを売っていた少年たちだ。
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