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トリックスター

 笑いがこみあげて来る。それを罪人は隠さず表面に出す。

 それを見て相手が焦るように、ミスを増やすように

 いや、実際に傑作としかいいようがない状況だ。

 怒りの表情を浮かべるのはセールスマン。さすが百戦錬磨の魔術師だけあって、迫力がある。

 だが、その事実がおかしくて堪らない。

 何しろ、相手はセールスマンなのだ。

 普段、鉄仮面のように表情を変えないセールスマンが感情を露わにしている。

 それはつまり、彼が心の底から動揺しているということだ。

「おいおい、髪のセット、崩れているぞ」

 綺麗に分かれた七三分けが、崩れている。

 一瞬、そちらに意識がいった瞬間、その顔面を狙って(10円玉)を放つ。

「……っ」

 セールスマンが、首を傾け、攻撃を回避。

 頬をカスリ、僅かに血が垂れる。

「……奇襲にしてはお粗末ですね。こんな攻撃が効くとでも?」

「ああ、聞かないだろうさ。だが、普段のお前ならカスリもしないんじゃないか?」

 観察すること。罪人の弱さを補うスキルだ。

 冷静を装うセールスマン。

 だが、心の揺らぎはもうすでに表面に出ている。

 せわしなく動く眼球。歯を食いしばっている為、僅かに動くこめかみ。

 声のテンポも少し早くなり、声のトーンが少し高くなっている。

 ああ、だから気づかないのだろう。



 罪人の指弾が、彼のそれより弱いということに



 相手が動揺している。警戒して一歩を踏む出せずにいる。

 こちらとしては襤褸が出る前に畳み掛ける必要がある。だが、その前に下準備が必要だ。

 正面から争えば、負けるのはこちら。だから、ポケットに入れた『あるもの』に意識を向け、魔術を使う。

「……なんで、あなたが我が一族の魔術を使えるのですか」

 そんな罪人の様子に気づかずにセールスマンは問いかける。

 セールスマンの疑問は尤もだ。

 魔術師は自らの使う系統の魔術しか感知できない。

 それはつまり、同系統の魔術であれば、感知できるということ。

 だから、理解したのだろう。彼の使うそれは、自分の魔術と同系統だということに

 罪人は言葉を選ぶ。相手が動揺を誘うような言葉を選定する。

「ああ、てめぇの魔術は、かなりレアだからな。しっかしびっくりしたぜ。まさか、山奥から一歩も出てこないヒッキ―一族、九十九家から世界を股にかけて飛び回る商人が生まれるとはな」

 自らの出生である一族の名前が出て、セールスマンの表情が更に強張る。そして、罪人の言い方は暗に自分は九十九家の血を引くものではない、と告げている。 

 セールスマンの能力は『電流操作(エレキテル)』ではない。

 日本を代表する名家。『九十九家』の魔術『物念使役(ツクモ・コントロール)』だ。

 九十九神という概念がある。

 長い年月、使い続けた道具が妖怪化するというものだ。

 人の思いは、道具に蓄積され力となる。人の思いはそれだけで力だ。物を大切に思えば、それを積み重なることで、一つの生命となる。

 だが、それは、滅多に形にはならない。思いは力ではあるが、それは微々たるもの。

 自然発生した九十九神など、歴史上、数える程しか誕生していないのだ。

 だが、それを人為的に発生させることが出来る一族がいる。物体に宿った『思念』を、増幅させ操作する。そうやって発生させた人工的な九十九神を操るのが九十九家。

 彼の場合、その『思念』を九十九神にせず、ただのエネルギーとして射出する。

 その弾丸として選ばれたのが通貨だ。

「よく考えたよなぁ。世の中、金っていうやつもいるが、それもある意味、真理。金は誰にとっても大事なものだ。大切ってことは、当然、思念の蓄積も早いよな」

 金は消費される。消費されることで、様々な人々手に渡り、その『思い』が蓄積する。

 どれだけ思念が込められるかは持った人次第だが、普通に考えれば、10円より100円、100円より500円のほうが大事される。威力の調整も簡単だ。

 その上、指弾として打ち出すには手ごろのサイズ。一般社会で持ち歩くにはとても便利。少なくとも罪人の斧のように持っているだけで職務質問されることはまずないのだ。

「自分の一族ではよくある戦い方です。本当に私の一族の出ではないのですね?」

「てめぇの一族は、魔術で封印している扉を開けることが出来るか?」

「……なら、手加減する必要はありません」

 セールスマンが一万円札を取り出す。

 一万円が、輝きだし、その光の中で溶けていく。それはまるで、光の剣。

 ピリピリと空気が振動する。最早、能力を誤魔化すつもりはないようだ。

 500円でさえ、あの威力。一万円だとどれほどの威力か。あれが直撃すれば、罪人は確実に即死だ。

 劣化コピーしか出来ない罪人は同じ魔術を使ったからといって打ち勝つことが出来ない。

 そう、同じ魔術なら、だ。

 下準備は終わった。あとは仕上げるのみ、だ。

 ポケットから取り出すのは、赤い宝玉。それは、入口を守っていた人形の体内から取り出したものだ。

 まだ、この宝玉は生きている。こうして、セールスマンと話している間に下準備は済んでいる。

「来い!!」

 扉が強引に開かれる。そこに飛び込んできたのは、人形卿の所有する三体の人形。

 突然の乱入者にセールルマンの視線はそちらに向かう。

「な! 人形? まさか、罪人」

 背後からの奇襲。セールスマンが慌てた声を上げる。

 こちらを見る。肯定の意味を含め、にやっと笑う。

(今っ!)

 タイミングを合わせ、罪人が駆ける。

 手には、斧。残念ながら、人形を操っている以上、セールスマンの魔術は使えない。

 だが、これで十分だ。

 後ろから、人形。前からは罪人。

 罪人を攻撃すれば、人形は止まる。

 だが、そうしようとすれば、罪人に力を振るうより早く人形の刃は確実にセールスマンを捉える。

 一瞬でも、罪人の動きが遅ければ、人形は破壊され、その次に罪人は殺されていただろう。

 一瞬でも、罪人の動きが早ければ、罪人が先に攻撃され、その後人形が攻撃されていただろう。

 その状況を作り出した罪人が勝ちの声を上げる。

「終わりだ! セールスマン!」

「くそおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 結局、セールスマンはどちらも選ぶことが出来ず、声を張り上げ、そして……



「はい、そこまでです♪」


 場違いな軽い声が響き渡る。


次で一章が終了。

男の娘は二章から登場です!

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