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魔術

「一発目を避ける判断力、見事でした。が、二発目が来ることを前提に動けないようでは、まだ未熟としか言いようがありません」

「う、るせ。好き勝手、言ってくれる、な」

 冷や汗が止まらない。(10円玉)が当たったのは右の足。靴の表面が焼けている。金に糸目をつけず購入したワイバーンの皮を使った一級品だ。

 これを貫通することはできなかったようだ。最も、衝撃はどうしようもなかったようで、どうやら、いくつか骨がやられた様子。

 利き足がやられた以上、罪人の勝ち目はほぼ失われている。

 そもそも、セールスマンと自分では、力の差は歴然としているのだ。

 セールスマン。魔術師の世界では名の知られた死の商人。

 一般社会では死の商人といえば、兵器を扱う者達を示すが、魔術師の世界では違う。魔術師にとって武器とは身を守る為の道具にしか過ぎない。

 それを取り扱う商人は基本的に『武器商人』と呼ばれる。

 ならば、何故、彼が死の商人と呼ばれるか?それは、彼が恐れられているからだ。

 取引相手には、誠意を、そして裏切った者には死を。

 どのような相手であろうがそれを実行出来るだけの能力があるからこそ、彼は『死の商人』と呼ばれるようになったのだ。

 すう、と呼吸を整える。痛みは今は無視。出来る限り余裕の表情を浮かべる。

「で、死の商人様は、取引相手騙し、殺そうとする訳だ。明日からセールスマンなんて名乗れないんじゃね―のか?」

 その返答は、硬貨による指弾。光の線を描いた10円玉が罪人の頬をかすめ、背後の壁に激突する。

 響くのは、金属が鳴らす耳障りの高音が響き渡る。

「死人に、クチナシ、です」

「……ちったぁ。会話に乗ってくれてもいいんじゃねぇか?」

 怒りを表情に浮かべる。だが、表面だけだ。出来る限り情報を集めようと『耳』をすます。

(壁が砕けた音がしない。せいぜい、欠ける程度か? 材質は大理石。硬度はあまりない石のはずだが……)

 セールスマンの魔術は過去に見せてもらったことがある。

 彼曰く、彼の扱う魔術は系統でいうと『電気操作』。そして、あの高速指弾は電気によって磁力を作り出し高速で打ち出す技とのこと。

 『レールガン』。セールスマンは自分でそう呼んでいた。

 セールスマンが先から撃ってくるのは硬貨だ。100円玉を受けた斧を見る表面は少し凹んでいる。魔術によって特別加工している特別性だ。

 金属の塊、しかもそれも強化しているはずの斧を凹ますほどの威力。

 それを撃った相手は全く疲労した形跡はない。その上、発動までの時間も短く威力も十分にある。

全くもって羨ましい限りだ。自分のように戦闘向きではない魔術師からすると喉から手が出る程、欲しかった力だ。

 しかし、おかしな点も多い。

 例えば、罪人の足の骨を折った一撃。

 あの魔術で強化した斧を凹ませる程の一撃を食らって何故、骨が折れた程度で済んだのか?そして、何故、わざわざ硬貨を使っているのか

「分析、してますね?」

 罪人の顔を見て、セールスマンがいう。

「やはり、あなたは抜け目ない。この状況でまだ勝つことを諦めませんか」

「ちっ、付き合い長いと色々とめんどくせーな」

「最早、私の勝利は揺るがない。あなたは弱い。その上で足がつぶされた状態ではどうしようもないでしょう。その状態で私の『レールガン』を避けることなど不可能です」

「……降参しろってーのかよ」

 冷静に考えれば、罪人に残された手段はそれしかない。

「いえ、抵抗せず死んでください、と言っているのです」

 そう冷徹に言い放つセールスマン。だが、罪人の意識は一瞬彼から外れる。

 視線を感じたのだ。すぐ、誰の視線か分かったそれは、銀色の少女のものだ。

 どこか怯えたような視線。しかし、同時に期待するような瞳だ。

(……おいおい、嘘だろう?)

 彼女は信じている。罪人が目の前の化け物に打ち勝つことが出来る、と

 それは罪人の思い込みなのかもしれない。少しの間、話した程度の相手。アイコンタクトで会話が出来るなんて、まずありえない。

 だが、彼女がそう思っている。そうに違いないと、何故か罪人は信じることが出来た。

 無理だ。無茶だ。相手は二つ名持ち。こっちは、戦闘でいえば平凡としかいいようのない魔術師。

 普通に考えたら勝ち目がない。だから、罪人は……

 




 戦いは終焉に近づきつつあった。

 いや、この一方的すぎる展開は、最早戦いとはいえない。

 セールスマンは、心の中でため息をつく。

 上客からの依頼とはいえ、罪人も立派な客だ。しかも付き合いは長い。

 こうしていると、苛めているような気分に陥ってくる。

 その時、罪人に変化が現れる。

「くっ」

 何かに耐えるような声が、罪人の口から洩れる。見ると罪人の体は小刻みに震えている。

 あきらめたのか、と、セールスマンは失望に似た思いを抱く。

 しかし、同時に思う。無理もない、と。

 元から実力の差ははっきりしていたのだ。足が使えなくなった状況で命乞いもせず、ここまで毅然とした態度をとってこれた。それだけで賞賛に値する。

 最後の仕上げとして、100円玉をポケットから取り出し……


「く、あは、あはははははははははははははははははははははははは!!」


 だが、罪人の口から噴出したのは、笑い声。

 笑う。狂ったように、喉を潰すような勢いで笑い続ける。

「……何がおかしい」

 気でも狂ったのか?そうとしか思えない。だが、罪人の瞳は、理性を失っていない。戦意を失っていない。

 そう、これは勝利をもぎ取ろうとする者の眼だ。

「おい、セールスマン。何、勘違いしている。俺が弱い? はっ、俺は魔術を使ってさえいないぞ?」

 はっとする。

 そうだ。彼は魔術を使っていない。そして、セールスマンは罪人の魔術を知らないのだ。


 暴食(グラトニー)の魔王に対抗する為に育てられた勇者の、その魔術を



 そう、何故、自分は忘れていたのだ?

 彼は弱い。それは知っている。だが、弱いだけの存在が勇者候補などになれるはずがない。

 何故、彼は勇者候補になれたのか?

 何故、弱い彼が、戦いに身を置き、ここまで勝ち抜くことが出来たのか?

 罪人が足を引きずりながら、一歩進む。

 その行動に反応し、その場を飛びのき、距離を取る。

「っ!」

 最早、疑心難儀だ。彼の行動すべてが魔術を行う準備に見えてくる。

 一歩進むこと。ヘッドフォンを耳にかけること。口から洩れる笑い声さえも

 自分自身の過剰な反応に驚きながらも、セールスマンは構える。

 彼が魔術を使うより早く、一撃を与えんと弾丸(100円)をセットする。

「おいおい、100円でいいのかよ?」

 罪人の言葉に、血の気が引く。

 その言葉は、罪人がセールスマンの魔術の正体を暴いているということだ。

 それは、ありえない話だ。セールスマンは自らの魔術を隠す為に念入りに注意してきた。

 魔術師はどのような達人であろうと一系統の魔術しか使えない。

 そして、魔術師は自分と違う系統の魔術を察知することが出来ない。

 魚が空の飛び方を知らないように、空飛ぶ鳥は泳ぎ方を知らない。

 魔術師はそれぞれが別の種のようなもの。なのに、何故、罪人は自分の魔術の系統知ることが出来た?

「死になさい! 罪人」

 余計な考えを振り払って100円を構える。それに対抗するように500円玉を構える罪人。

 セールスマンが弾丸(100円)を打ち出すと同時に、音が、世界が白く塗りつぶされる。

 視界が、開ける。

 そこには、変わらず立っている罪人の姿。

「貴様、何をした?」

 口調が荒っぽくなるだが、そこを気にする余裕は全くない。

 罪人は、笑うのを必死で堪えようと肩を震わし、答える。

「だから、見ての通りだよ」

 何をしたか? 簡単だ。

 セールスマンが、打ち出した弾丸(100円)を罪人の弾丸(500円)が撃ち落とした。

 とても、シンプルでありえない光景。

 罪人は、セールスマンと同じ系統の魔術師ではない。それは把握している。

 なのに、罪人はセールスマンと同じ系統の魔術を使った。

 つまりそれは、罪人は他系統の魔術を扱えるということ。


「さあ、第二グラウンドへと洒落込もうか?」


 罪人が笑みを浮かべる。それはどうみても弱者を食い荒らす強者の笑みだった。

 


すみません、一部、大事な情報が抜けていたので追加します

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