I(九州)
@九州連邦共和国鹿児島県黒島沖合北方約30キロ―高度9900メートル
2月25日九州標準時刻0135時
きれいな月の下、2人の航空機動歩兵がエンジンから排出される魔法粒子の青くきらきらした帯を曳きながら雲の上を飛んでいた。
2人のうち、光の角度によっては銀色にも見える白髪をロングにして、落ち着いた雰囲気の方は北海道空軍所属の美唄ナイエ大尉、もう一方の癖の強そうなショートヘアでやや色が浅黒い、くりくりした目が特徴的で月よりも真夏の太陽の方が似合いそうな方は|九州連邦共和国桜島臨時政府航空軍《南九州空軍》所属の富土ハラヘタ特等大尉である。
〈しっかし、109が再結成されるなんてなぁ……予想外すぎるよ〉
ハラヘタは坂東49式25ミリ機関砲に装着したモデル1148レーダーユニットのモニターを確認しながらつぶやく。
「確かにね……」
ナイエは固有魔法の全方位三次元探査・広域探査を発動させて周囲の様子を探りながら答える。
〈というか夜間哨戒をやることになるとはな~早くホークアイが来ないかな~〉
「レーダーサイトがすべて死んでるのは確かに痛いわね……」
顔をわずかにしかめながらナイエはM2重機関銃の銃身覆いを軽く指でたたく。
〈というか増援の話はどうなったんだよ……まぁ上層部的には扶桑の影響はあまり受けたくないんだろうけどさ~〉
「確かにね……こういう政府の対応は腹が立つ」
ナイエはグリップを少し強く握る。
〈というか戦況が安定しまくっているのもあるけどね……〉
そんなナイエの様子などお構いなしにハラヘタは軽くロールする。
「ここまで静かだと逆に不気味ね……2月12日以降は全くクラックゥとの戦闘が南九州では起こってないしね」
〈南九州空軍は再編中だし……110も戦力が半減してるしね……あ~おなかすいた〉
ハラヘタはロールをやめ、今度は背面で月を見上げながらつぶやく。
「でもやっぱり戦力が半減しててもこういうときは助かるのよね」
〈……まあね。死んだ仲間のためにもやっぱり飛び続けてせいぜいクラックゥの邪魔をするのが一番いいと思うし〉
ハラヘタは背面で月を見上げたまま小声でつぶやく。
その呟きも喉頭式マイクは拾い、通信に乗せてナイエの耳に届けるが、ナイエはその呟きを聞かなかったことにした。
ナイエ自身、こういうとき、どんな顔をして、どんな言葉をかければいいかわからない。だから沈黙を保った。
しかし、とても静かである。
ナイエは何度か固有魔法の全方位三次元探査・広域探査を発動させて周囲30キロ余りの空間を探索しても航空機及び飛行体の反応がない。しかも、瘴気の雲が邪魔をしているのかクラックゥの勢力圏下でのクラックゥの動きはつかめない。
「ウェイポイントQを通過、針路を3-0-5から2-8-5に変更」
〈りょ~かい〉
ナイエはウェイポイントの通過を宣言、針路を変える。
二人の航空機動歩兵はエンジンから吐き出される魔法粒子の帯を引きながら転針、雲の上を飛び去っていった。
@九州連邦共和国鹿児島県―種子島臨時航空基地(種子島国際空港)
2月25日九州標準時刻0620時
〈F-1,A-2,for vector to final approach course.(F-1、A-2、最終進入コースに誘導する)〉
「F-1,A-2,roger(F-1、A-2、了解)」
ナイエとハラヘタは編隊を保ったまま種子島APPからの誘導に従って降下。最終進入コースに入る。
〈F-1,A-2,cleared for visual runway 31 apporoach.(了解。F-1、A-2、滑走路31への目視着陸を許可する)〉
「F-1,A-2,roger(F-1、A-2、了解)」
空港まで9キロメートルになると管制が種子島TWAに切り替わる。
〈F-1,A-2,TANEGASIMA Tower,cleared for land,runway31.Wind 310 degrees 3 knots.(こちら種子島タワー。F-1、A-2、滑走路31への着陸を許可する。風は310方向から3ノットで吹いています)〉
ナイエとハラヘタに種子島TWAから着陸許可が下りる。
ファイナルアプローチ。
エンジンの出力を絞り、体を起こして減速。
降下率を適正に保つため、ナイエはわずかにエンジンの出力を絞り、ハラヘタは逆に上げる。
ギア、ダウン。
ふたりの眼下の光景が海から陸に変わる。
風はほぼ向かい風。着陸には最適のコンディションだ。
車輪が接地。
減速。
接地地点から100メートル程度で停止する。
「TANEGASIMA GND,F-1,A-2,request taxi to apron arrows.(F-1、A-2、こちら種子島グランド。エプロン・アローズへのタキシングを希望する)」
〈F-1,A-2,TANEGASIMA GND,taxi to apron arrows.(F-1、A-2、こちら種子島グランド。エプロン・アローズへのタキシングを許可する)〉
「F-1,A-2,roger(F-1、A-2、了解)」
管制塔からの誘導に従ってタクシー。ナイエとハラヘタは第109、110歩兵団専用に割り当てられた駐機スポットに入る。
すでに整備兵が50式整備・発進補助装置(発進・整備ユニット)を格納庫代わりのテントから引き出し、駐機スポットにセットして待ちかまえていた。
整備ユニットに向かってゆっくりと後退。
〈オーライ、オーライ、あと30センチ後退してくださーい〉
整備兵の誘導に従って停止。
背中の飛行鞄が何かに固定される感触。
「美唄大尉、飛行鞄のロック完了です。エンジン停止してください」
「了解」
ナイエは整備兵からの要望に応じて飛行鞄のエンジンを停止。
同時に、白かったナイエの髪が頭頂部から順に黒くなっていく。
ナイエは飛行鞄のベルトを緩め、整備兵からボードに挟まれたチェック用紙を受け取る。
「全体的に問題なし。ただ、魔力増幅機の出力が落ちてきているかな」
チェックを手早くすませ、ボードを整備兵に返すついでにナイエは口頭で不具合を伝える。
「了解。一応交換しておきます」
整備兵はラフな敬礼をするとそのままテントの中に去っていった。
「おつかれさま」
それと同時にナイエの肩がたたかれた。
ナイエが振り返るとノリヒサがタオルを持って立っていた。
相変わらずの無表情で感情が読めないが。
「ありがと」
ナイエはノリヒサから差し出されたタオルを首にかける。
ノリヒサはタオルを富土にも渡す。
「朝のミーティングは0700時から。朝食はその前でも後でも大丈夫だそうだが、どうする?」
「じゃあミーティングの前に食べるわ」
「わかった。富土特尉(特等大尉)はどうするか?」
「あー別にいいですシャワー浴びたいので」
「わかった。じゃあいこうか」
ノリヒサは食堂がある種子島空港の建物へと足早に向かい始める。
最近、夜間哨戒が始まってからノリヒサは哨戒明けの朝は必ずこうしてくれる。
しかも、自分の固有魔法は広域探査・全方位三次元探査なのでほぼ必ず夜間哨戒任務が割り当てられ、夜間哨戒は毎晩あるので実質的には毎朝、こうしてくれている。
ノリヒサのことだから単純に部下へ気遣っているだけのつもりなのだろうがそうわかっていてもうれしい。
ミーティング前の食堂はノリヒサとふたりっきりの貸し切り状態になるからだ。
もっとも、二人きりになってもノリヒサとする話は最近のクラックゥの動向についてという夢のかけらもない、救いのない現実の話ばかりであるが。
でも、それはそれでいいのかもしれない。本来、彼と自分は部隊長と副隊長の関係、それ以上でもそれ以下でもないのだから。それに、彼に甘い愛のささやきなんか似合わないし、第一彼はそんなことすら考えないだろう。彼は、そんなことを考える暇があったら訓練をするか新しい戦術を考えるような人なのだから。
文中に出てくる架空兵器の解説を……
坂東49式25ミリ機関砲
種類:機関砲・携行用機関砲
口径:25ミリ×110
全長:1850ミリ
銃身長:1500ミリ
重量:25500g
連射速度:600発/分、750発/分、900発/分(セレクター操作で変更可能)
給弾方式:ベルト給弾方式
動作方式:
ステータス:配備中
25ミリ機関砲。本来ヘリに取り付けたり銃架に取り付けるものなのだが、機動歩兵が携行できるようにされたタイプもある。
射程は3キロを越え、三脚に固定してクラックゥの狙撃にも用いられる。
魔力と組み合わせることにより、クラックゥへの貫通力は凄まじいものになるが、反動が大きい。
その一方、25ミリ×110弾を発射するには1500ミリの砲身は短すぎるという意見もある。
●モデル1148レーダーユニット
分類:レーダーユニット
開発:土佐銃器・大津兵器研究所
設置方法:ピカティレール
探知可能距離:10キロ/25キロ
特徴:クラックゥの放つ特殊な磁気を探知する受動レーダーを搭載したユニット。
レーダーの反応はピカティに装備可能な専用のモニターに表示される。




