XII(坂東)
@坂東帝国埼玉県川口市川口航空基地―3号格納庫
2月12日坂東標準時刻1703時
「すべてよし……っとこんなもんか」
谷田は輸送機にすべての荷物――自分と補充員が装備する機体、その予備の部品、整備ユニット、食料、実地試験を行う試作装備などが積み込まれたことを確認して30式輸送機改11型「新山改」の後部ランプから機内に入る。
「よお谷田。先に乗らせてもらったぞ」
すると、機体の床に座ってMCP(Micro Computer Pad)に押されてもはや絶滅しかかっているノートパソコンをいじっていたパンチパーマ風の髪型の男が顔を上げ、谷田に向かって軽く手をあげた。
「なんだ鷹崎か。にしても何いじってるんだ?」
谷田は彼に向かって気さくに話しかけると、彼がいじっていたノートパソコンの画面をのぞき込んだ。
このパンチパーマ風の髪型の男は鷹崎 アキヒロ。総合士官学校時代からの谷田の友人で階級は大尉。坂東帝国軍戦術司令部第1電子連隊というクラックゥによるクラッキングに対抗するために設立された部隊の隷下にある部隊の中でも最精鋭の青中隊の隊長をやっていて、実は年齢は谷田と1つしか変わらない19歳だったりする。
「あ~これな。まぁ自作の対クラックゥ防壁だ」
「ああ。ところで、電子連隊のほうはどうなんだ?」
適当にはぐらかしてノートパソコンを閉じた鷹崎に、谷田は鷹崎のいる部隊のことへと話題を変える。
すると、谷田の言葉に鷹崎が目を丸くした。
「どうしたんだ、鳩が50口径弾を喰らったような顔をして」
「50口径喰らったら鳩死んでるよ。……いや、ちょっと意外だったもんなんでな、おまえが他人の部隊のことを気にするなんて」
「そんなもんか?で、どうなんだ?」
「……かなり楽になったな。やっぱり。東北の巣が破壊されてからはインターネットを経由しての攻撃は減ってる。おかげで、かなり暇になった。今回だって、あんまりに仕事がないから派遣されることになった」
「109歩兵団付き電子戦士官だったか。まぁ、平和なのはいいことじゃないか」
と、そこで谷田はふと右腕の軍用時計に目を落とした。
「……っと、補充員の方がそろそろ到着するな。挨拶に行ってくる」
「おう、いてら~」
鷹崎の声を背に谷田はランプから外にでていった。
その後、鷹崎がぽつりとつぶやいた。
「あいつ、変わったな」
谷田が機外に出ると、補充員の高幡イリハ伍長が100メートルほど先の人員用エレベーターから降りてきたところだった。
川口航空基地はすべての格納庫が地下にある。
上から航空機動歩兵向けの1号、戦闘機向けの2号格納庫がある第1層、倉庫や機械室がある第2層、そして大型機用の3号格納がある第3層となり、第3層は深度50メートルを超える。
しかも全幅47.61メートルの41式早期警戒機なども格納、整備するため、3号格納庫は幅120メートル、長さは500メートルある。
補充員は左右を確認してから航空機通行路を横切り、谷田の前までくると荷物を下ろし、敬礼。自己紹介。
「航空戦闘部第117師団第18分隊所属、高幡イリハ伍長です!!よろしくお願いします」
「第11分隊隊長の谷田ノリヒサ少佐だ。以後よろしく」
谷田は敬礼を解くと高幡に右手を差し出した。
高幡はその右手を握る。
「これから行くところは最前線だ。クラックゥはお前の成長を待ちはしない。そのことを心してかかれ」
谷田は高幡に対して告げる。
高幡は谷田の突然の言葉に、ただ頷くしかできなかった。
@坂東帝国埼玉県川口市川口航空基地―301番エレベーター上、30式輸送機改11型「新山改」、機内
2月12日坂東標準時刻1725時
《退避完了、エレベーター上昇開始》
機体の外でアナウンスが流れ、ヴィーンともビーンともつかぬ音が響いた後、鈍い音を立てて輸送機を乗せたエレベーターが上昇を開始する。
さらに、戦闘機・航空機動歩兵用格納庫は緊急時に発進エリアからカタパルトで直接航空機動歩兵や戦闘機を射出させる関係で比較的浅いところにあり、結果的に大型機用格納庫はそれより深いところに造られている。
そして、大型機は戦闘機などとは違ってカタパルトで射出するわけにはいかず、滑走路から離陸することになるし、機体の出し入れに地上と格納庫を結ぶエレベーターが必要になる。
結果、川口航空基地には1辺50メートルほどもあるエレベーターが3基、地上と深度50メートルの大深度の格納庫を結んでいる。
現在、谷田らが乗った30式輸送機改はそのうち最も東にある301番エレベーターで地上に向かっているところだ。
――これから行くところは、最前線だ
高幡の耳の奥で、少し前の谷田の言葉が繰り返し流れていた。
谷田の言葉には、実際にその地獄を経験したことのある者の、不思議な説得力があった。
高幡には、エレベーターの鈍い音が、地獄の釜が開く音のように聞こえた。
輸送機は地上にでると管制塔の指示に従ってタキシング。管制塔からの許可が下りると誘導路から滑走路に入り、エンジンのパワーを上昇させ、加速。
機首をあげ、離陸。
輸送機は4発のターボプロップエンジンの轟音を響かせながら夜空を、南九州に向かって飛び始めた。
文中に出てくる架空兵器の解説を……
●41式早期警戒機
[性能]
分類:早期警戒管制機
全幅:47.61m
全長:46.62m
全高:12.5m
主翼面積:269平方メートル
空虚重量:132.90t
最大離陸重量:174645kg
最高速度:853km/h
海面上昇率:1829m/分
実用上昇限度:8850m以上(推測値)
構造距離:9620km以上(推測値)
乗員:17~23名
固定武装:なし
[特徴]
坂東がクラックゥ出現前から開発していた早期警戒管制機。
武蔵野航空機製作所が開発した中型旅客機を改造して人員輸送機とした28式輸送機にレーダーを搭載、運用に必要な設備を追加した。
航続距離が長いので軽く日本連合内を無着陸で飛んでいける。
探索範囲は広いが、クラックゥの瘴気の雲の中は電波妨害のせいで探索不能。
川口、松戸、追浜、入間の各航空基地に1機づつ配備。それぞれ「カワグチアイ」(E41-41002)、「マツドアイ」(E41-41001)、「ヨコスカアイ」(E41-42003)、「イルマアイ」(E41-42004)の愛称が付けられている。(かっこ内は機体番号)
ちなみに、川口航空基地所属機は黄色と黒のツートンカラー、松戸航空基地所属機は全面黒に一部白のストライプ、追浜航空基地所属機は青の濃淡の海洋迷彩、入間航空基地所属機は上面濃緑、下面水色の森林迷彩が施されている。
また、松戸航空基地所属機(マツドアイ、E41-41001)のみ試験的に空対空ミサイル(短距離と中距離)の運用能力が付与されており、左右主翼下に2発づつの計4発が積めるが、あまり使用されない。
ただ、1155年8月20日にヨコスカアイ(E41-42003)がクラックゥの攻撃で墜落、大破炎上。クルー20名は全員死亡した。この機体は放棄され、機体番号も抹消されている。
さらに、同年9月3日にカワグチアイ(E41-41002)がクラックゥの攻撃で地上にて中破しクルー1名が死亡、13名が負傷した。(機体の主な損傷は主脚破損、右翼破損)現在(1156年2月)、海星重工にて修理中。修理が完了するのは1156年5月以降になるとみられている。
そのため、航空戦闘部では一旦は引退させた24式艦上早期警戒機41型(E-2C 航空戦闘部1145年改修型)を復活させたり、海上戦闘部から24式艦上早期警戒機51型(E-2C 海上戦闘部1150年改修型)を借り入れたりしている。
[バリエーション]
41式早期警戒機11型




