第三話 ロザリーの試練
ヘルミーネから部屋を与えられた後、ロザリーは持ってきたわずかな荷物を整理した。
部屋には小さな寝台と机、椅子、衣装を入れるための箱が一つずつ置かれているだけだった。ベルク家で使っていた自室とは比べるまでもないが、不潔というわけではない。窓硝子は磨かれ、寝台には洗ったばかりらしい麻布が掛けられている。壁にも床にも飾りはなかったが、必要なものは一通り揃っていた。
これからここで暮らすのだ。そう考えても、まだ実感は湧かなかった。父に修道院へ送られ、婚約を解消され、二日間馬車に揺られて見知らぬ土地まで来た。それでも、何かの手違いであるような感覚がどこかに残っている。きちんと調べさえすれば、自分が何もしていないことは分かる。その時には父も考えを改めるだろう。いつになるのかは分からなかったが、ここで一生を終えることになるとは、思っていなかった。
荷物を片づけたところで、ヘルミーネに食堂へ来るよう言われた。廊下を歩いている途中、向こうから一人の少女がやって来た。ロザリーよりかなり小柄だった。灰色の簡素な服を着ているが、金色の髪だけは左右で高く結われ、その先が綺麗な縦巻きになっている。十五、六歳ほどにしか見えない可愛らしい少女だったが、すれ違う直前、ロザリーを頭から足元まで値踏みするように眺めた。
「まあ」
少女が足を止める。ロザリーもつられて立ち止まった。
「何でしょう?」
「随分と品のない歩き方をなさるのね」
「……え?」
聞き間違えたのかと思った。少女はロザリーの顔を見上げ、いかにも残念そうに首を傾げた。
「裾を引きずっていますわ。それに足音も大きい。ご実家では、歩き方も教えていただけなかったの?」
「そのような歩き方をしているつもりはありませんけれど」
「自分では気づいていらっしゃらないのね。それはお気の毒」
少女は口元だけ可愛らしく笑った。
「夜までには直した方がよろしいわ。床板にまで嫌われてしまいますもの」
「あなた――」
名前くらい名乗ったらどうなのかと言う前に、少女はロザリーの横を通り過ぎた。振り返っても、こちらを見ることなく歩いていく。
「ミレイユ」
不意に後ろから声がした。ロザリーが振り向く。廊下の壁際に小柄な女が立っていた。
思わず肩が跳ねた。いつからそこにいたのか分からない。腰を越えるほど長い黒髪をそのまま下ろしているため、顔の半分近くが隠れている。身体も華奢で、先ほどの少女と同じくらいの年齢にも見えた。一瞬、本当に幽霊かと思った。
「……驚きました」
女は黙ったままだ。
「今の方ですか?」
「そう」
「ミレイユ……」
「気にしなくていい。あの子はただ性格が悪いだけ」
「そうなのですか」
随分とはっきり言う。ロザリーは黒髪の女を見た。
「あなたのお名前は?」
「オデット」
「私はロザリー・ベルクです。今日からこちらでお世話になります」
「知ってる」
「……そうですか」
オデットはそれだけ言うと、ロザリーの横を通り過ぎた。
「あの」
呼び止めても振り向かない。ロザリーはしばらくその後ろ姿を見送り、息を吐いた。
歓迎されるとは思っていなかった。ここへ来る令嬢たちには、それぞれ事情があるのだろう。自分と同じように、望んでここへ来たわけではない者もいるはずだ。そう考えれば、多少感じが悪くても仕方がない。
食堂へ入ると、長い木の卓に何人かの女たちが座っていた。先ほどのミレイユもいる。ロザリーと目が合うと、何事もなかったかのように顔を逸らした。
ヘルミーネから指示された席へ座ると、正面にいた女がちらりとロザリーを見た。二十歳ほどだろう。髪をきっちりとまとめ、細い縁の眼鏡を掛けている。背筋を伸ばし、食事の席だというのに脇には小さな帳面まで置かれていた。
「初めまして。テレーゼ・エーベルハルトと申します」
簡潔に名乗った後、その視線がロザリーの手元へ下がった。ロザリーが匙を置く。テレーゼの眉が動いた。
「そちらでは、食器の置き方も教わらないの?」
「え?」
「匙。逆です」
「……失礼しました」
ロザリーが直すと、テレーゼはそれ以上何も言わず食事へ戻った。今度は隣から笑い声がした。
「来たばかりなんだから、そのくらいにしてあげなさいよ」
声をかけてきたのは、ロザリーより少し年上に見える女だった。健康的な色の肌に、艶のある黒髪を緩くまとめている。灰色の服を着ていても華やかさがあり、修道院という場所には少し似つかわしくない。
「カミラよ。よろしく」
「ロザリーです。よろしくお願いいたします」
先ほどオデットには家名まで名乗ったが、今度はそこまで口にする気力が残っていなかった。
「知ってるわ。ベルク子爵令嬢でしょう?」
「ご存知なのですか?」
「まあね。でも、少し疲れてる? 令嬢らしくもない顔してるわよ」
「……もう令嬢と呼ばれる立場なのかは分かりませんが」
「あら。そこまで落ち込まなくてもいいじゃない」
カミラはパンをちぎりながら、何でもないことのように尋ねた。
「婚約者にも捨てられたんですって?」
ロザリーの手が止まった。
「なぜ、それを」
「ここって意外と暇なのよ。新しい人が来るとなれば、どんな理由で送られてきたのかくらい皆気にするわ」
「そう……ですか」
「それにしても、随分あっさり捨てる男ね。そんな簡単な証拠だけで婚約者を疑うなんて」
「証拠があったのですから、仕方がなかった部分も――」
「ないわよ」
カミラは即座に答えた。
「あなた、男を見る目がなかったのね」
「……初対面の方にそこまで言われる覚えはありません」
「そう?」
悪びれもしない。向かいではミレイユが小さく笑っている。テレーゼは我関せずと食事を続け、少し離れた場所に座っているオデットは、こちらを見ようともせずパンを食べていた。
食事が終わる頃には、ロザリーはすっかり疲れていた。修道院へ来れば、祈りと静かな生活が待っているものだと思っていた。少なくとも社交界のように、相手の家柄や失敗を値踏みする者はいないのだろうと。
ところが、ここでも何も変わらない。言葉の端で相手を測り、育ちを指摘し、触れられたくないところを平然と突いてくる。華やかなドレスや宝石が灰色の服へ変わっただけで、ロザリーが知る貴族社会そのものだった。
翌朝からは、ロザリーにも仕事が割り当てられた。最初は食堂の掃除だった。屋敷では自分で床を掃いたことなどない。箒を渡されても、どう扱えば効率よく埃を集められるのかさえ分からなかった。見よう見まねで動かしていると、背後からため息が聞こえた。
「まあ、ご実家では何でも使用人がしてくださったのね」
ミレイユだった。今日は縦巻きにしていた髪を一つに結び、袖を少しまくっている。本人はすでに自分の担当を終えたらしく、腕を組んでロザリーの仕事を眺めていた。
「貴族の娘なら、普通ではありませんか?」
「ここに使用人はいませんわ」
「分かっています。だから覚えているところです」
「その調子では、日が暮れてしまいそうね」
「でしたら、見ていないで教えていただけます?」
「嫌ですわ」
「……なぜ?」
「自分で考えればよろしいでしょう?」
そう言って、ミレイユは立ち去った。ロザリーは箒を握ったまま、その背中を睨んだ。
次の日は洗濯だった。洗った布を干していると、テレーゼが一枚手に取った。
「皺が残っている」
「まだ乾いていませんけれど」
「干し方の話をしています。このまま乾けば皺になるでしょう」
「では、どうすれば」
「端を揃えて、きちんと伸ばしてから掛ける」
テレーゼは一度だけやって見せ、そのまま自分の仕事へ戻った。少なくとも教えてはくれる。そう思ってやり直していると、通りかかったカミラが笑った。
「随分真面目ね」
「皆様が細かすぎるのでは?」
「そうかもしれないわね。でも、テレーゼに適当に返事をすると、できるまで横に立たれるわよ」
「それは嫌です」
「でしょう?」
カミラだけは話しやすいのかもしれない。そう思った直後、彼女はロザリーの横へ寄ってきた。
「ところで、妹に自分の服や宝石まで貸してたんですって?」
「……誰から聞いたのですか」
「色々」
「普通でしょう。妹なのですから」
「妹になったばかりの女に、自分の物を何でも見せて、婚約者まで紹介したの?」
「紹介くらいはします」
「それで取られたのね」
「取られていません」
「婚約を解消されたのでしょう?」
「それとこれとは別です」
「そうかしら」
カミラは楽しそうだった。ロザリーは洗った布を強めに広げた。ここにいる女たちは、どうして一言ずつ余計なのだろう。
それでも、直接何かをされるわけではなかった。仕事を押しつけられたことはない。食事を奪われることもなければ、部屋を荒らされたこともない。困っている時にわざと嘘を教えられることもなかった。ただ何をするにも、誰かしらの視線が痛かった。
「それで子爵家の金の流れを一度も確認しなかったの?」
「随分と平和に暮らしてきたのね」
「婚約者があなたより妹の方を見ていることにも気づかなかったの?」
言われるたびに腹は立った。何度も言い返そうとした。けれど、その度にロザリーは思い直した。この人たちも、自分と同じなのだ。
ここは、家や婚約者に見放された令嬢が最後に送られる場所だと聞いている。誰がどんな理由でここへ来たのかは知らない。中には本当に罪を犯した者もいるのかもしれない。それでも、ここで暮らしている以上、何かしら帰る場所を失った者たちなのだろう。そう考えると、強く怒る気にはなれなかった。
ロザリーと同じ日に、もう一人、新しい令嬢が入っていた。侯爵家の娘だという彼女は、ロザリーとは違い、初日から不満を隠さなかった。
「こんな部屋で寝ろと言うの?」
廊下の向こうから声が響く。
「わたくしが誰だか分かっているの?」
「ここでは以前の身分によって待遇を変えることはありません」
答えるヘルミーネの声はいつもと変わらなかった。
「侯爵家の娘よ!」
「承知しております」
ロザリーは自室の扉の前で立ち止まったが、やがて中へ入った。気持ちは分からなくもなかった。自分も好きでここへ来たわけではない。だが、怒鳴ったところで何かが変わるとも思えなかった。
三日目の朝、その令嬢は食事が不味いと皿を押し返した。
「こんなもの、食べられるわけがないでしょう」
「では、食べなくて結構です」
ヘルミーネが答えた。
「別のものを用意なさい」
「いたしません」
「では、わたくしには食事を出さないおつもり?」
「食事は用意しております」
卓の反対側で、ミレイユがパンを食べながら笑っていた。
「何がおかしいの?」
「別に」
「今、笑ったでしょう」
「気のせいではなくて?」
「無礼な子ね」
「よく言われますわ」
侯爵令嬢の顔が赤くなったが、ミレイユは涼しい顔で茶を飲んだ。
四日目には、自分に割り当てられた仕事を別の令嬢へ押しつけようとした。
「あなたがやりなさい。こういう仕事には慣れているでしょう?」
「私も貴族の娘ですけれど」
頼まれた女が冷たく返す。結局、ヘルミーネが現れ、自分の仕事は自分でするよう告げた。それでも侯爵令嬢は文句を言い続け、最後には道具を床へ放り出した。ロザリーは少し離れた場所からそれを見ていた。ミレイユが隣へ来る。
「あなたも、ああすればよかったのに」
「なぜです?」
「不満なのでしょう?」
「ここに来ることになった理由には不満があります。でも、修道院での生活自体には、別に不満はありません」
「へえ」
ミレイユがロザリーを見る。
「何ですか」
「別に」
またそれだ。ロザリーが問い返そうとすると、ミレイユはもう歩き出していた。
五日目の夜。ロザリーは自室で眠る支度をしていた。日が沈んでからは音を立ててはならない。最初は馬鹿げた規則だと思ったが、数日も経てば身体が慣れてくる。水差しを置く時も、扉を閉じる時も、自然と手に力を入れて音を抑えるようになった。寝台へ入ろうとした時、遠くで硬い音がした。陶器が床へ落ちたような音だった。ロザリーの身体が止まる。続けて、何かが転がる音がした。廊下の向こうだった。誰かが声を上げることはない。ヘルミーネが来る足音も聞こえなかった。ロザリーは扉を見つめたが、開けなかった。夜に、絶対に音を立ててはなりません。理由は教えられていない。それでも、自分から廊下へ出る勇気はなかった。
翌朝、食堂へ行くと、一つ席が空いていた。昨日まで、何かにつけて甲高い声で不満を口にしていた侯爵令嬢が座っていた場所だった。最初は寝坊でもしたのだと思った。だが、朝食が始まっても来ない。ロザリーは何度か空席を見た後、ヘルミーネへ尋ねた。
「あの、昨日までいらしたあの方は?」
「もういません」
「……いない?」
「ええ」
「どこへ行かれたのですか」
ヘルミーネは答えなかった。ロザリーは周囲を見た。テレーゼは食事を続けている。カミラも特に気にした様子はない。オデットは俯いたままパンをちぎっていた。ミレイユだけが、小さくパンを千切りながら口を開いた。
「ここには合わなかったのよ」
「え?」
「ただそれだけよ」
ロザリーは昨夜の物音を思い出した。あの侯爵令嬢の部屋は、どこだっただろうか。
「昨日、どこかの部屋から音がしました」
「そう」
「水差しが落ちるような音です。あれは、あの方の部屋だったのでしょうか」
「それで?」
「何か、関係があるのでしょうか」
ミレイユはようやく顔を上げた。青ざめたロザリーとは対照的に、可愛らしい顔には何の動揺もない。
「だから何ですの?」
「何かあったのではありませんか?」
「さあ」
「知っているのでしょう?」
「知っていたとして、あなたに教える必要がありまして?」
ロザリーは言葉を失った。ヘルミーネを見ても、何も説明する様子はなかった。その日、侯爵令嬢の部屋の前を通ると、扉は開いていた。中には誰もいない。寝台は綺麗に整えられ、荷物もなくなっていた。本当に別の場所へ移されたのかもしれない。そう考えようとしたが、昨夜聞いた音が頭から離れなかった。
その夜は、なかなか眠れなかった。部屋の灯りを消し、寝台へ入ってからも、ロザリーは何度も寝返りを打った。音を立てないよう気をつけているため、布が擦れる音まで普段より大きく感じる。
どのくらい経った頃だっただろう。廊下に誰かいる。そう思って、ロザリーは目を開けた。足音はしない。それなのに、人が近づいてくる気配だけがあった。ロザリーは身体を起こしかけ、すぐに動きを止める。静かな廊下を、何かがゆっくり近づいてくる。音はない。扉を隔てた向こうに誰かがいるのだと、なぜか分かった。やがて、その気配がロザリーの部屋の前で止まった。息をすることさえ躊躇った。扉の下には暗闇しか見えない。取っ手が動くこともない。声も聞こえない。ただ、そこにいる。
ロザリーは毛布を握り、扉から目を離さなかった。どれほどそうしていたのか分からない。やがて気配は離れていった。足音は最後まで聞こえなかった。
翌朝、ほとんど眠れないまま食堂へ行くと、ミレイユはすでに席についていた。ロザリーを見るなり、口元を緩める。
「随分と静かに過ごせたのね」
「……何か知っているの?」
「何を?」
「昨夜、私の部屋の前に誰かいたでしょう」
「まあ」
ミレイユは可愛らしく首を傾げた。
「誰かを見たの?」
「見てはいないけれど、気配が」
「では、夢ではなくて?」
「起きていました」
「そう」
それだけ言って、ミレイユは茶を飲んだ。
「あなた、絶対に何か知っているでしょう」
「朝から随分お元気ですこと」
「ミレイユ」
「食事中ですわよ」
まともに取り合う気がない。ロザリーはそれ以上聞くのを諦めた。
しかし、その日から夜が来るたび、廊下が気になるようになった。何も聞こえない。だからこそ不気味だった。修道院には大勢の人間が暮らしているはずなのに、日が沈んだ途端、建物全体が死んだように静まり返る。誰も声を出さない。何かを落とす音もない。扉一枚向こうに人がいるのかどうかさえ分からない。
そして数日後の夜、ロザリーは廊下でミレイユと鉢合わせた。夕食後、それぞれの部屋へ戻る途中だった。すでに日が落ちており、壁に掛けられた小さな灯りだけが廊下を照らしている。ミレイユはロザリーの少し前を音もなく歩いていた。廊下の壁際には、昼間使った水差しが一つ置かれていた。
その横を通った時だった。ミレイユの袖が取っ手へ引っかかった。水差しが傾く。陶器の底が、木の台の上を滑った。ロザリーは考えるより先に手を伸ばした。落ちる寸前の水差しを片手で受け止め、もう片方の手でミレイユの腕を掴む。二人とも声を出さなかった。水差しの中で水が大きく揺れた。ロザリーは息を止めたまま、水面が静まるのを待った。ミレイユも動かない。やがて揺れが収まり、ロザリーは水差しをゆっくり元の位置へ戻した。それから、掴んでいたミレイユの腕を離す。薄暗い廊下で、二人はしばらく顔を見合わせた。ミレイユは何も言わなかった。礼を言うでもなく、そのまま自分の部屋へ戻っていく。
翌朝。ロザリーが食堂へ入ると、ミレイユはいつも通りの顔で朝食を取っていた。昨夜のことなどなかったかのようだった。ロザリーは席へ着き、しばらく黙っていたが、やがて我慢できなくなった。
「あなた、昨夜のあれ、わざとでしょう」
ミレイユが顔を上げた。
「何のことかしら」
「水差しです」
「落としていませんわ」
「私が受け止めたからでしょう」
「あら。そうでした?」
「そうでした、ではありません」
ロザリーは声を抑えながら睨んだ。
「私が嫌いなのでしょう?」
「今のところ、好きになる理由はないわね」
「では、どうしてあんなことをするの?」
「どんなこと?」
「だから、私を――」
試しているのでしょう。口にしかけて、ロザリーは止まった。ミレイユの目が、一瞬だけ細くなった。
「何ですの?」
「……いえ」
ロザリーは席へ座り直した。腹は立つ。昨夜の水差しも、その前の嫌味も、部屋の前で感じた気配も、全部この少女が関わっているのではないかと疑っていた。
ヘルミーネへ言えば、何か対応してくれるかもしれない。けれど、ロザリーは何も言わなかった。ミレイユも、テレーゼも、カミラも、オデットも、ここへ送られてきた女たちだ。何があってここへ来たのか、ロザリーはまだ知らない。自分だって、外から見れば家の金を横領し、婚約者を裏切ろうとした女でしかない。ならば、彼女たちにも何か事情があるのかもしれない。そう自分に言い聞かせながら、ロザリーは目の前のパンをちぎった。
向かい側では、ミレイユが何もなかったような顔で茶を飲んでいる。その少し離れた席で、テレーゼが帳面へ目を落とし、カミラはどこか面白そうに二人を眺め、オデットだけがいつも通り黙って食事を続けていた。
そして、その様子を少し離れた場所から見つめる視線があることにも、ロザリーは気づかなかった。




