第8章:再会の場所で
いや、そんなはずはない。俺は呆然とその光景を見つめていた。あの轟音はすでに止み、後に残るのはエアコンの唸りと管のパネルから鳴る電子音だけだった。装置から漂う空気はどんどん冷たくなっていき、腕の毛が逆立つほどだった。
俺は管へと歩み寄った。一歩、二歩、三歩。中は……空だった。本当に空だった。そしてそのまま、俺は膝から崩れ落ちた。
「本当に……消えたのか……」
シュッ……
管の扉が再び開き、白い霧が一緒に漏れ出てきた。
これは本当に起きているのか? 俺はタイムマシンを作った。二十七年もの間、仮説と理論を積み重ね、待ち続けて……待て、俺は今夢を見ているのか?!
俺は両頬をつねった。これが本当に現実で、夢ではないと自分に納得させようとした。頬に走る痛みと赤みで、俺はようやく気づいたこれは……。俺は白衣に覆われた胸をきつく握りしめた。痛い。本当に、痛い……。
不意に涙が溢れ出し、こみ上げる嗚咽を抑えきれなかった。だが、慌ててそれを拭った。
「ついに……ついに、ここまで来たんじゃな」
俺は再び立ち上がり、すぐさま背後にいる二人の方へと向き直った。
「アンドくん、ジョセフ、ありがとう、本当にありがとうな、お前らの頑張りのおかげじゃ!」
だが拭ったはずの涙は止まらず流れ続け、二人にその情けない瞬間を見られてしまう羽目になった。
「……」
二人は顔を見合わせた。
「アラタさん……いえ、所長。私たちは心を込めて取り組んだだけです。忍耐と情熱なしにこんなものを作るのは、本当に難しいことです。ですから、感謝なんて必要ありませんよ」
ジョセフが俺にそう言った。
「本当にありがとう、お前ら……お前らは、俺が今まで会った中で一番すごい若者じゃ……」
俺は二人をきつく抱きしめた。
「よし、次は俺の番じゃ! この座標に俺を送ってくれ!」
俺は二人にメモを渡した。「俺が、自ら実験台になる!」
「ま、待ってください、なんですって?! ちょっと待ってください、所長」
それを聞いたアンドくんは怯えた様子ですぐさま止めに入った。
「『俺を送る』ってどういうことですか、所長?!」ジョセフも口を挟んだ。
「なんじゃ? 何かおかしいか?」
「え、えぇ?!」
俺の返答を聞いた二人の反応は、驚きと困惑そのものだった。二人はすっかりショックを受けた様子で、その表情はまるでこう問いかけているようだったこのおっさん、一体どうなってるんだ? 頭がおかしくなったのか?
「私たち……携帯が本当に過去に行ったのか、まだ確認していません。まず、ニュースを確認しなければ!」
アンドくんが少し怯えたように俺に言った。
「ああそうか、忘れるところじゃった。その年のニュースを調べてみよう」
俺は迷わず自分の机へと向かい、時間移動が起きた日のニュースをすぐさま調べ始めた。
先ほどの出来事の後、静まり返っていた部屋に、俺の足音が響き渡る。息は乱れ、荒かった。ついに完成させたこのプロジェクトを試せるという、純粋な興奮に突き動かされた不規則な呼吸だった。
パソコンを開き、二〇〇六年に現れた奇妙な現象についてのニュースを検索した。トップニュースにそれを見つけた瞬間、俺たちはしばし言葉を失った本当に、その年に奇妙な現象のニュースが存在していたのだから。
「あり得ん……本当だ、その年のトップニュースになっとる」
過去へと送られたあの携帯が、その年のトップニュースになっているのを目にして、俺は本当に呆然とし、動揺した。心臓が激しく高鳴っていた。もし心拍計をつけていたら、きっと一分間に百二十回くらいまで跳ね上がっていたに違いない。
「所長、あの携帯……本当に……過去に送られたんですね……」
アンドくんも自分のスマホでその年のトップニュースを見て、驚きを隠せない様子だった。
これはまさに、技術の最先端じゃ。まだ無限エネルギーも、UFOも、他の何も手に入れちゃいないが、俺たちはすでにタイムマシンを解き明かしたんじゃ。どこかの国の指名手配リストに載らなければいいがな……。
「ニュースは本物じゃし、携帯の状態も完璧なままじゃ」
俺は振り返り、二人と向き合った。
「よし、俺がタイムマシンを試してみる」
「ですが所長……まだ帰還装置を作っていません。今行ってしまったら、向こうにずっと閉じ込められたままになってしまいます」
アンドくんが割り込み、忠告した。
「アンドさんの言う通りです、所長。その時代に取り残されて、二度とここへ戻ってこられなくなるかもしれません」
ミケルからそう聞いて、ジョセフもまた、時間を戻すための装置がまだ作られていないという理由で俺を止めようとした。
「その通りじゃな。だが、俺にはもう我慢の限界がないんじゃ。目標の時代に着いたら、そこで帰還装置を作ってみる。それでいいじゃろう?」
「ですが……所長……」
「アンドくん、ジョセフ」
俺は二人の肩に手を置いた。
「俺を信じてくれ。俺は必ず、時間帰還の技術を持ってお前らのところに戻ってくる。約束じゃ」
二人は一瞬言葉を止め、反対したそうな様子を見せた。だが、つい先ほど俺が声を上げて泣きじゃくっていたのを目の当たりにしていたせいで、どう判断すればいいのか決めかねていた。
「所長がそうおっしゃるなら……」
二人は顔を見合わせた。
「では、必ずすぐ戻ってくると約束してください!」
そうしてついに二人は、必ず約束を守るという条件で、俺が試験台として別の時代へ行くことを許した。
「約束する。この管が再び光を放って、俺が消えた後にお前らを驚かせてやるからな。覚えておけ」
「所長……」
シュッ……
俺は大きな管の中へと入っていった。そして振り返り、右手を眉のあたりまで上げ、二人に敬礼をした。
「約束する、必ず戻って、あの技術を持ち帰るからな!」
俺は二人に向かって叫んだ。
「所長、俺たちはどれだけかかっても待ってますから、早く戻ってきてくださいね」
二人が頷き、俺に敬礼を返してきた。大きな管の中で、俺の内側からこみ上げてくる激しい熱、、どうしようもない焦燥感が心臓の鼓動をさらに速めていくのを感じた。ジョセフが俺の目的地の座標を調整し始めた。彼は一切ためらわなかった。俺のことを完全に信頼していたからだ。そして、彼は起動ボタンを押した。
キィィン……
突然、立っていられないほどの激しいめまいが俺を襲った。左右の耳から、鳴り止まない耳鳴りが響き続ける。もうこの場で諦めてしまいたいと思うほどだった。
「ぎゃあああああ、お、俺の……」
「あ、頭がああああっ!!」
「うわあああああ、やめてくれ」
「ぎゃああああああああ」
「あああああああああ……」
視界が徐々にぼやけていき、あとに残るのは、どんどん眩しさを増していく白い光だけだった。その容赦なく輝く光に、目が痛いほど滲みた。数瞬後、その光は突然消え去り、後には何も分からない虚無だけが残された。その空虚な空間が俺を恐怖に陥れた。他には誰もいない。この静寂が、俺の平静を完全に打ち砕いた。
物音一つなく、俺は口を利くことも、何かを聞くこともできなかった。恐怖、俺は、恐怖していた。
虚無。そこには何もなく、俺は何が起きているのかまるで分からなかった。その空っぽの部屋が俺の精神を押し潰していく。ここには誰もいない。この静寂が、俺の理性の最後の欠片までも粉々に打ち砕いていった。
この先、一体どうなるんじゃ? 俺は生き残れるのか? 何が起きているんじゃ? 俺はもう死んだのか? どうやってここから出ればいいんじゃ? そんな問いが次々と頭の中を駆け巡り、今にも崩壊しそうな脳内を引き裂いていく。ああ神様、あまりの恐怖に吐き気がしてくる。怖い。俺は恐ろしかった、怖かった。誰か、頼む……頼むから、ここに俺を一人にしないでくれ。この静寂があまりに長く続き、もう耐えられなかった。頼む、誰か助けてくれ―
「全部……全部終わったのかな?」
な―なんじゃ……?
「レンくん!!」
「もし私が選ばれたら、あなたはどうする?」
「お前……どうしたんじゃ?」
ア……アイラ……?
これ以上声を張り上げることができなかった。まるで何かが俺の声を押さえつけ、外に出させまいとしているかのようだった。理解できない、一体何が起きているんじゃ? 声が出ない、奇妙な影と音が、どこからともなく現れる。
「レンくん!! あなたを知れて本当によかった!」
「レンくん知ってる? 私、あなたのこと大大大好きなの!!」
「レンくん!!! 約束するから、私を手に入れて、将来結婚しよう!!」
「くたばれ、この嘘つきがァ!!」
「あんたなんか大嫌い、レンくん」
「なんでじゃ? お前どうしたんじゃ?」
「強がってるだけじゃない」
「パパ、ママ」
「明日、一緒に帰ろうね!!」
やめろ……なんじゃこれは。
俺は頭を抱えた。混乱の極みだった。
「##&@72」
「51_$$&3」
「あんたひどい!!」
「ハハ、ほら、早く言ってみろよ」
「うん、そうだよ!!」
「私のこと―好き……?」
やめてくれ……
「本当にあなたの彼女になりたいの!!」
「待て、一体ここで何が起きてるんじゃ?!」
「ごめんなさい……」
「愛してる、レンくん!」
「マ……マ」
「あんたたちみんなひどい、家出したい!!」
やめろ。やめてくれ……頼むからやめて……。
「あなたのこと分からない、レンくん……」
「はぁ……うざい」
「誕生日おめでとう」
「俺たちならできる、俺は信じてるぞ」
その声の残響が積み重なり、容赦なく頭を打ちのめした後、恐ろしい静寂が再び忍び寄ってきた。空っぽの部屋は突然、死んだように静まり返り、崩れかけた俺の意識の最後の欠片までも呑み込んでいくかのようだった。
それはただの静寂ではなかった。周囲の空気は次第に冷たくなっていく。骨まで凍るような冷たさが毛穴に染み込み、それは胸を締め付ける息苦しさと重なっていった。あまりに現実的で、あまりに完全な静寂で、恐怖に震える自分自身の心臓の轟くような鼓動さえ聞こえるほどだった。
もう笑い声はない。叫び声もない。あるのはただ俺と、凍りつくような静寂と、記憶に刺すような傷を残していく過去の影だけだった。喉の奥で息が詰まった。恐怖が再び俺を捉えた。さっきよりもずっと激しく、この凍てつく冷たさと息苦しい静寂の中で―
「ア……アイラ、待ってくれ、頼む、待ってくれアイラぁ!! アイラ!!!」
「頼む……頼むからアイラにそんなことしないでくれ、やめ……やめろおおおっ!!!」
「やめろおおおっ!!」
いやだあああああ……頼む、やめてくれえええ……
「ごめ*なさい私*ハ*イ、アレ*ク*ス」
「マ*マは*、誇*り*に*思うわ*、あなた*のことを……」
「さよ*う*なら〜……」
「……そ*して……ごめ*んね*レ#ンく#ん〜……」
俺の目が閉じた。あまりの眩しさに、ぎゅっと目を閉じた。突風が体を揺らし、俺は右手を前へと伸ばしながら、座り込むように倒れた。
俺はゆっくりと目を開けた。そして目に映ったのは、見覚えのない光景ではなかった。そう、これは、すべてが始まった時代すべての問題が始まった場所。俺の中学時代だった。




