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第9章:懐かしき故郷へ

ゴオオオオッ……


強い突風に、俺は思わず身を震わせた。そしてすぐ後、俺は虚ろな目で座り込み、右手を前へと伸ばしていた。涙が頬を伝い、雨の日に壁を流れる水のように零れ落ちていく。俺は……見た。あらゆる記憶の断片を、記憶の断片を……。

断片……。


「レンくん……レンくん……レンくん? レンくんっ!!」


ん……?


沈みかけていた意識の中で何かが聞こえた気がしたが、俺はそれを無視した。


「レンくん? どうしたの? 急に泣き出したり、ぼーっとしたりして……。大丈夫? 保健室、行こ?」


意識を取り戻したが、たった今自分に何が起きたのかまだ理解できずにいた。そして再び思考の中へと沈んでいく。


ま……待て、なんだこれ?! いや……そんなはずは……お、俺は過去に戻ったのか?! 思考の奥へと潜れば潜るほど、次から次へと自分自身に問いを投げかけていた。


いや……どう……どうしてこんなことが……。


これからどうすればいい?


あいつらは、どうなった?


俺は本当に、過去に飛ばされたのか?


これは夢か?


これは本当に、現実なのか?


数秒が経ち、俺はまだそこに座り込んだまま、黙って思考の奥深くへと潜り続けていた。信じられなかった。俺は時間を飛び越え……そして、過去へと戻ってきたんだ。


瞬く間に湧き上がる問いに揺さぶられながら、俺はそこに座り込み、思考の中に沈んでいた。信じ難かったが、これは紛れもなく現実だった。この妙に馴染みのある空気に、胸が締め付けられ、心臓が激しく高鳴った。


さて、これからどうする? もう一度時間を戻して、あの若い二人に会いに行くべきか、それとも―


「レンくん?」


その声が耳に届いた瞬間、俺は思わずそちらへ振り向いた。


「どうしたの? なんでずっと黙ってるの、具合悪い?」


彼女の柔らかい声が、答えを探して混乱していた俺の意識に再び届いた。俺は固まったまま、すぐさま辺りを見回した。気づけば、その場はすっかり静まり返っていた。だが、瞬時にこの瞬間を思い出し、俺の名前を呼んだその人物へとすぐさま視線を向けた。


俺は彼女を知っていた。それはもう、本当によく知っていた。その香りも、その瞳も、その顔も、その手も、その声も……そう、それは........星野アイラだった。


中学時代、俺があれほど憧れ、想いを寄せていた少女。そして彼女こそが、俺がタイムマシンを作った理由であり、最大の目標でもあった。すべてをやり直し、運命を変えて、未来で彼女と共にいられるように。


「……あ……」俺の唇が開いた。だが、声は出てこなかった。


何十年もの間、俺はその顔をただ心の中に思い描くことしかできなかった。だが、夜明けと共にこの瞬間へと引き戻され、その顔が現実に、確かにこの目の前に立っていた瞬......すべてが崩れ去った。長年かけて丹念に練り上げてきた数々の問い、謝罪の言葉、入念な説......そのすべてが、跡形もなく消え失せた。


頭の中が真っ白になった。心臓が痛いほど激しく鼓動していた。悪夢と後悔の中でしか会えなかった、この世で番愛したその人が、今、目の前で確かに息をし、残酷な運命に触れられていない瞳で俺を見つめていた。俺は彫像のように立ち尽くし、どこを見ればいいのか、何を言えばいいのか、まるで分からなくなっていた。


ただ恐ろしかった、瞬きをした瞬間、手を伸ばした瞬間、この夜明けが砕け散り、また孤独な現実へと引き戻されてしまうのではないかと。


「……」


「……ア……アイラちゃん……ほ、本当に、アイラ……ちゃんなのか?!」


「え?」


アイラちゃんは、俺の奇妙な様子に戸惑ったように、小首を傾げた。


気づけば俺は再び立ち上がり、彼女の体に手を伸ばし、必死にきつく抱きしめたいと願っていた。


「アイラ……アイ……ラちゃん、アイラちゃん……」


俺の声はひどく震えていた。


涙がまた溢れ出した。この押し寄せる感情の高ぶりを抑えることができなかった。制服に包まれた彼女の肩に顔を埋め、俺はまた泣きじゃくった。喉から嗚咽が漏れ、息を整えようとするたびに肩が大きく揺れた。


「う……うぐっ?!」


「あ……ああ、良かった……本当に、本当にありがとう……っ。ありがとうございます……」


俺は心の底から、それだけを感じていた。


彼女は俺を引き離すどころか、抱きしめる腕を緩めることすらしなかった。それどころか、より強く抱きしめ返し、優しく俺の後頭部を撫でながらぽんぽんと叩いた。


「よし……よしよし……何かひどいことがあったんだよね? 大丈夫だよ、全部出しちゃっていいから」


彼女は深い心配の色をにじませた声で囁いた。


その言葉が、俺の最後の理性を完全に打ち砕いた。喉の奥に押し込めていた弱々しい嗚咽が、堰を切ったように激しく溢れ出した。


俺は彼女の首筋に顔を深く埋め、制服の生地を、指の関節が白くなるほどきつく握りしめた。溺れる者が命綱にすがりつくように、彼女にしがみついた。一瞬でも手を離せば、彼女がまたどこかへ消えてしまうのではないかと、それが恐ろしかった。


周りの世界が、遠くへ霞んでいくような感覚だった。俺たちは校舎裏の静かな路地に立っていた。朝のチャイムが鳴った後は、生徒たちがあまり近づかない場所だった。遠くから、食堂のありふれた物音........金属のスプーンが器に当たる音や、売店の人々の遠い話し声が、まるで何マイルも離れた場所のことのように感じられた。


そんなことはどうでもよかった。俺にとって存在する唯一の現実は、彼女の体の温かい重み、かすかに香るベビーパウダーのようなシャンプーの匂い、そして胸が静かに上下する穏やかなリズムだけだった。


胸が焼けるほど泣き続けた。何十年分もの悲しみ、孤独、後悔を、彼女の肩の上へとすべて吐き出していった。


「ソレって、何かあったの?」


彼女が俺を離すと、俺の腕はまだ彼女を抱きしめようとするかのように前へ伸びたままだった。だがすぐに力なく垂れ落ち―


「ご……」


実際には「ごめん」と言おうとして言葉に詰まった


「ん? ご?」俺の返事に、彼女は困惑した様子だった。


「あ―な……なんでもない」


俺は我に返り、平静を装いながら、慌てて話を訂正した。


「ちょっと考え事してただけじゃ……い、いや、家に何か忘れ物したかと思ったんだけど、してなかったみたいで、ハハ……」


「大丈夫だよ、レンくん、責めたりしないから。もう一回抱きしめよっか?」


俺は涙を拭った。


「う……うん、ご、ごめん、そういう意味じゃなくて、その……ちょっと一瞬混乱しただけで、頭が真っ白になってたんだ。ごめんな、アイラちゃん」


「ほお! 大丈夫だよ!」


もう……もっと長く抱きしめてあげたのに


彼女は少し呟くようにそう言った。


「え、えっと……今、何か言った? 何か言ったか?」


「あ……あはは、な、なんでもない! それより! もう授業の時間だし、教室戻らなきゃだよね?!」


彼女は何かを隠すかのように、慌ててそう言った。


彼女が何を言っているのか理解できないまま、俺はその場で目が赤くなるまで残った涙を拭うことしかできなかった。


授業の時間? どういうことだ―


ああ、そうか。俺は過去に戻ってきたんだ。


つまり、ここでの生活の細部は、すべて一からやり直しになるということか。だとしたら、俺が持ってきたはずの本が全部ちゃんとあって、あの時実は何も忘れてなかったといいんじゃが。


「そうか。では、一緒に教室に戻るとしようか」


それを聞いたアイラちゃんは、一瞬固まった。


「んー……」


俺が一歩踏み出す前に、彼女のその反応に気を取られた。


「あ? どうしたんだ、アイラちゃん?」


「なんで急にそんな他人行儀な喋り方するの、レンくん? んー!! おじさんみたいだよ!」


うぐっ……過去に戻ってきたのを忘れてた。


「い、いや……ほら、教室行こうぜ?」


俺は慌てて言い直そうとして口ごもった。


「今、なんか私と距離取ろうとしてるみたい」


彼女の顔は、まるで距離を置かれているような、寂しげな表情だった。


あの頃、俺は彼女とどうやって話してたんだったか……。


「あー、ごめん。ちょっとさっき目眩がしてさ、今日の俺、頭がショートしてるみたいなんだ。……教室、行こ?」


「え? 何それ、めっちゃ面白い、あはは、レンくんかわいい、よし行こう!」

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