第7章:霧に消ゆ
5時間が経過していた。
カタカタカタカタ。
「所長、これでどうでしょうか?」
ジョセフが俺の方へと椅子を回しながら尋ねた。
「おお、もうできたのか?」
俺も椅子を彼の方へ回しながら答え、机の上のメモを掴んで立ち上がると、彼の机まで歩み寄った。
「どれどれ……」
彼の机にたどり着く前から、モニターには大量のコードと変数。彼がこれまで取り組んできた成果が映し出されているのが見えた。
「おお、この変数は座標に直接繋げられるのか。それに、この時計もあの管に繋いだんじゃな。ふむ、なかなか面白い、ちょっと待て、ちょっと待て……」
俺は画面をスクロールしながら彼の書いたコードを検分していった。色とりどりの行と無数の数字が次々と現れる。素人が見れば間違いなく困惑するような細部じゃ。この変数群は、通常のコーディングよりもはるかに複雑だった。
「ふむ……ジョセフ、この変数をあの管の柱とその時計に繋いでみてくれ」
俺はメモをジョセフに手渡した。
「それで全部の部品が繋がるはずじゃ」
「あ、はい所長」
ジョセフは俺の手からメモを受け取ると、さっきまで俺が使っていたキーボードとカーソルを引き継いだ。メモにあった変数を打ち込み始める。
「所長、こんな感じですか?」
彼が尋ねた。
「ふむふむふむ……」
俺はモニターに視線を戻し、変数の入力にミスがないか再確認した。
「うむ、たぶんこれで完璧じゃ。あとは……試験用の物体が一つ要るな」
「所長、これはどうですか?」
それを聞いて、アンドくんが後ろから俺に声をかけた。
俺はすぐに振り返り、彼が何を見つけたのか確認した。だが、その物体を見た瞬間、隣で同じくそれを見ていたジョセフともども固まってしまった。
「う、アンドくん……それ、俺の古い携帯電話じゃが……」
「いいじゃないですか所長? だって昔は絶対こんな携帯なかったはずですし、九十八パーセントの確率ですぐニュースになりますよ。それで最終的に、その年のニュースを確認できます」
彼はそう言った。
そうか、確かに……。「……天才じゃな……」
なんで俺は思いつかなかったんじゃ……俺は内心で呟いた。
「よ、よし、これをあの管に入れよう」
俺は二人に言った。
それを聞いたアンドくんは管の方へと歩み寄り、俺の古い携帯電話を大きな管の中に置いた。同時に、ジョセフはタイムループの座標を設定していた。
はぁ……俺の愛用の携帯電話が……。
「ふぅ……よし……準備は万端か?」
「準備完了です、所長!!」
二人は張り切って声を揃えた。
「押せ……今すぐボタンを!」
ジョセフが起動ボタンを押した。だが……何も起こらなかった。管はただ静止したままだった。光は変わらず、音もなく、何の反応もない。ジョセフが俺の方を振り返り、アンドくんも同じように振り返った。
「お、おお……な、何も起きなかったな」
俺たちは固まったまま、反応のない管を見つめた。部屋には一瞬にして沈黙が広がった。
まずい……彼らの期待、これで潰えてしまうのか?! だが。体何がまずかったんじゃ? すべて極めて正確に計算したはずじゃ。何の変数が足りないんじゃ? まったく理解できん、あれほど精密に全ての変数とプログラムを計算したというのに。体全体、何が起きているんじゃ?!
とりあえず二人を落ち着かせねば。
「い、いや大丈夫じゃぞお前ら、これも研究過程の一部というやつ……はは……はは……」
自分の笑い声すら、自分の耳に不自然に響いた。
うぐっ……我ながら本当に苦しい言い訳じゃった。今すぐここから消え去りたい気分じゃ……
「だがな! 研究にはこういう初期の失敗がつきものなんじゃぞ、それに俺たちは―」
キィィン……
「な、なんじゃこれは?!」
「え、えっ?!」
俺たちは驚き、すぐさま管の方へと振り返った。突然、光の束が部屋全体を照らし出し、耳から血が出そうなほど激しい脈動音が、あの大きな管から響き渡ったからだ。
「ぎゃああああっ……たすけてくれ!!」
「うわあああああっ」
「ぎゃあああああっ」
俺たちはその長く続く轟音のせいで、苦痛の叫び声を上げた。まるでクジラの鳴き声のような、恐ろしい音だった。数秒後、白い霧があたり一面に立ち込め、部屋全体を覆い尽くし、俺の視界は完全に真っ白になった。
ゲホッ……ゲホゲホ……ゲホッ。
「換気扇を、換気扇をつけろ!! 急げ!!」
俺は若い二人に叫んだ。
ゴオオオッ……
「ど......どうなった? 何か変わったか?!」
俺は急いで尋ねた。何かが起きていることを願いながら。
「……」
「所……所長……携帯が……消えました……」
アンドくんの声が震えていた。
「な……なに……?」




