第22話:孤独な樹霊が、私の精神に干渉してくるとき
俺は信じられない思いで、上を見上げた。
「はぁ?! あのクソガキめ! さっき逃げた時に殺しておくべきだった!!」
あの怪しい男は、怒りに目を見開きながら、空に向かって悪態をついた。
今こそ反撃のチャンスだよ、ドライアド姉ちゃん!
アレックスの叫び声が、私の頭の中に響いた。
宙に浮かぶアレックスを見て、私は一瞬言葉を失った。この理屈に合わない、とんでもない現象を理解しようとしながら。だが、すぐに動かなければならなかった。
「ああ、そうだったわ!」
意識が戻った。私はすぐさま、古の呪文を唱え、太古の根を呼び出し、あの邪な男の体を縛り上げようとした。
「自然の精霊たちよ、我が声を聞き、我が願いを受け入れよ。我が目の前の者の魂を、清く汚れなきものとせよ」
私は両手を下へと広げた。
「イヤド・ラウスス」
ミシミシッ……ゴゴゴッ……。
大地が激しく轟いた。巨大な根が地中から突き出し、私に邪な意図を向けていたあの男を追い詰め、きつく縛り上げていった。
「な―なんだこれは?! やめろ! やめろぉ!!」
彼は必死に逃げようとしたが、その根は容赦なく追い続けた。地面は激しく震え、分厚い砂埃が空へと舞い上がった。
「ああ!! やめろ、やめろ、やめろぉぉぉ!!!」
ギギギッ、ドゴオンッ!
生憎、あの怪しい男にとって、どれほど速く逃げようとしても、私の拘束の根の方がはるかに速かった。その根は彼の全身をきつく縛り上げ、身動きできなくさせた。
◆◆◆◆
「ふぅ……よ、よかった……ちょうど間に合った」
俺はそう言いながら、二つの月に照らされた夜空の下で浮いていた。
「アレックスッ!!」
ドライアドが下から呼んだ。
ヒュウッ……。
俺は空中から降りようとした。だが、その下降に伴う強い風のせいで、周りの木々がぐらぐらと揺れてしまった。俺の降下は、あまりにも遅くぎこちなく感じられた。たぶん、まだこういうことに慣れていないせいだろう。
ああもういい、家で魔物の襲撃があった時みたいに、直接瞬間移動した方がマシだな。
俺は小さな両手を広げ……
チリン……ヒュンッ……。
「ん? な―わあっ! アレックスッ?!」
ドライアドは、俺が一瞬のうちに彼女のすぐ目の前にしっかりと立っていたことに、びっくりして息を呑んだ。
「ど、どうやって……?」
「えへへ、ごめんねドライアドお姉ちゃん……さ、さきに、おしえ、なくて、えへへ……」
俺は無邪気に笑いながら、痒くもない頭を掻いてそう言った。
「はあ―?!ふぅ……アレックス……」
彼女の顔には困惑が浮かんでいた。無理もない。彼女どころか、どんな大人だって、俺くらいの幼児が、さっきのような大規模な破壊魔法を放てるのを見れば、相当なショックを受けるはずだ。
「助けてくれてありがとう、さっきは本当に危なかったわ!!」
ドライアドは満面の笑みでそう言った。彼女は膝をつき、優しく俺の頭を撫でた。
「う……うん」
俺は顔を赤らめながら、小さく頷いた。
「でも……ど、どうやってそんなことをしたのか、説明して?」
「どんな……ふうに……」
「さっきの、あれよ!! あの火の玉のこと、それに、空を飛んで、急に下に現れたこと。それに……それよりも重要なこと……なんで、逃げなかったのよ!!」
彼女は突然、俺を叱りつけた。俺がわざと彼女の「逃げろ」という命令を破ったことに、声のトーンが一段高くなった。だが一秒後、その感情は静まっていった。
「ふぅ……アレックス……でも、あなたが無事で本当に良かったわ」
あ……ははは……。
「でも―そんな大きな力、一体どうやって手に入れたの? 教えて、アレックス」
えっと……う……くそ、気絶したふりをするか、譲り受けた守護魔法だとでも言っておくべきだったな。なんでよりによって、前にマンモスと戦った時に使ったあの火の玉を、そのまま使っちまったんだ……?
「アレックス!」
彼女は、まだ繋がったままの心のリンクを通して、俺の頭の中のパニックを感じ取ったようだった。
えっと……その……。
正直言って、俺自身も、どうしてこんな凄まじい力を持つようになったのか理解できていなかった。だって、前の世界では、アクションジャンルの世界になんて生きたことなかったんだぞ! でも、なぜか気づけば、敵だと判断した相手には瞬時に襲いかかれるような、鋭い戦闘の本能を身につけていた。
俺の動きも、信じられないほど柔軟で速く、おまけに……切迫した状況に本気で向き合うたびに、時間がゆっくり流れるように感じられた。俺自身、この現象についてはまったく分かっていなかった。
「お、俺……! そ……」
いや、待て。もし彼女に本当の秘密がバレたら? 今、はっきり説明するわけにはいかない。だって、彼女は今まさに、俺の頭の中を聞いているはずなんだから!
「アレックス?」
ドライアドが再び深く身をかがめ、俺と目線を合わせた。その眼差しは、俺に説明を求めて、まったく逃がしてくれなかった。
どうすればいいんだ……もうごまかせない。ああ、もう詰んだな……くそ!
「え……と……その、ドライアドお姉ちゃん……」
俺は辺りを見回し、あの縛られたまま黙っている怪しい男以外に、誰もいないことを確かめた。
「じちゅわ……」くそ……頼む! こういう切羽詰まった状況になったら、普通は話を逸らすための急展開が起きるもんだろ? なんで今、そういうのが起きないんだよ?
くっ……はぁぁ……まあいい、仕方ない。
「ぼく……ぼく、じちゅわ、てんせい、しちゃったんだ……まえの、せかいで……し……しんじゃったから……」
俺は、この巻き舌の舌っ足らずな口調で、必死に真実を語りながら、彼女がどんな反応をするのか怖くて目を閉じた。
「てんせい?」
ドライアドは首を傾げた。その聞き慣れない言葉に戸惑っていた。
「違う!」
俺は頭を激しく横に振った。
本当に、これは厄介すぎる! 前の世界の選挙で指導者を選ぶより、はるかに厄介だった。
「それは!!……」
転生したってどう説明すればいいんだ?! 頭がぐるぐる回った。あの時起きたことを実演してみせようか? でも考えてみれば、この秘密を外の世界に広めるつもりは元々なかった。ただ、ドライアドお姉ちゃんだけが知ってるなら、俺にとっては得になるかもしれない。
何百年も生きてきたこの精霊なら、俺が経験したこの現象について何か知っているかもしれない。確実じゃないけど、少なくとも彼女を守りたいと思った。それに……正直に言えば、彼女が残りの力を俺にくれて、あの偽りの女神に復讐できるようになることを願っていた。
だから損はないし、むしろ俺にとって得になるかもしれない。
ああそうだ! 俺って馬鹿だな! なんでわざわざこの舌っ足らずな口で説明しようとしてるんだ? 思考で伝えればいいだけじゃないか、転生したことを!
え……ちょ、ちょっと待て……。
背筋がぞっと粟立った。
つまり、さっきからずっと、彼女は俺の考えを全部聞いていたってことか……。
「アレックス……」
ドライアドの声が、沈黙を破った。俺はその顔を見つめた。その表情は……ひどく恐ろしかった。
「ずいぶん、深く考え込んでたみたいね?」
彼女は甘い声でそう言ったが、その裏には圧力が満ちていた。両手を握りしめ、右拳と左拳を打ち合わせて、不穏な音を鳴らした。
「え……それは……その……」
「待って、今あんた、言ったわよね……て、転生したって?!」
終わった。もう否定できないし、する必要もない。全部ばれてしまった。この詰んだ状況で、俺はただ小さく頷きながら、奇跡を祈ることしかできなかった。
「アレックス……」
ドライアドは体を再びまっすぐに起こし、胸の前で両腕を組んだ。
「あんた、本気で……」
ゴクリ。俺は必死に唾を飲み込んだ。
俺の人生、ここで終わりだ。
「あんた、本気で私がそれを信じるとでも思ってるの?! はっ! まったくアレックスったら! 転生なんて、私がまだ子供だった頃からとっくに時代遅れの迷信なのよ、知らないの?!」
は? 俺はぽかんとした。どういう意味だ? 俺は本気で言ってるんだぞ!
「それに、今までそんなこと一度も起きたことないってことは、あんたはただ言い訳を探してるだけってことでしょ」
彼女は腰に手を当てた。
「訳の分からない途方もない力を持ってて、筋の通らない言い訳をして、それに……瞬間移動までできる」
彼女の顔が近づいてきた。
「私が確かめたいことは一つだけ。あんた……魔族と何か関係があるんじゃないでしょうね?」
彼女はその緑の目を細め、俺の赤ん坊の体を威圧した。
「ち、ちあう! ぼく、うそ、ちいてない! ぼく、しんじゃったの、だれかに、ころされたから! ぼくが……じかんをまき、もどそうと、したとき!」
俺は両手を激しく動かし、空中で振り回して、強い反論の意思を示した。
「時間を巻き戻す? もういいわアレックス。あんたが肉体的には生まれたばかりの赤ちゃんだとしても、その想像力はちょっとひどすぎるわよ……」
ドライアドは左手でこめかみを揉んだ。目の前のこの子供の「嘘」に向き合うのに、ひどく疲れきった様子だった。
「ふぅ、こうなったら仕方ないわね」
彼女は再び左手を腰に戻した。
な―何が目的なんだこの木の精霊は?! 俺は髪の先からつま先まで、本当に正直に話したのに!
「目を閉じて、アレックス」
ドライアドが突然そう命じた。その口調は柔らかいが、有無を言わせない強さがあった。
「え……? な、なんで?」
「あなたの本当の嘘を見るために、あなたの頭の中に強制的に入らせてもらうわ。ちょっと失礼するわね」
「あ……ま、待―」
その木の精霊が俺の頭へと手を伸ばした瞬間、俺の言葉は途切れた。彼女は呪文を唱え始め、その手が瞬時に眩い光を放った。やはり俺の推測は正しかった誰かが呪文を唱えるたびに現れていたあの輝きは、魔法の発動そのものだったのだ。
彼女の小さな手のひらが俺の小さな頭に触れた瞬間、俺は反射的に目を閉じた。だが、好奇心に負けて少しだけ覗き見てしまった。もう一度、間近でその美しく魅惑的な顔を見つめてから、俺はようやくしっかりと目を閉じた。
俺の意識は、ドライアドが自分の頭の中に入り込んでくる気配を感じ始めた。痛みはまったくなかった。ただ……俺の気持ちを少しかき乱す、奇妙な感覚があった。
◆◆◆◆
この独特な少年の潜在意識へと強引に踏み込んだ瞬間、完全な静寂が私を襲った。この中は、あまりにも静かすぎた。記憶の断片一つなく、希望の光の欠片一つなく、どんなエネルギーの脈動すら全く感じられない。私には本当に理解できなかった。この子は、一体何なの?
「く……暗すぎるわ、ここ」
普段、誰かの心に入ると、私はすぐにその人の最も美しい記憶や、人生の旅路の断片を映し出される。だが、この少年アレックスの中では……まるで、どことも知れない異次元にいるかのようだった。あまりにも暗く、虚ろで、果てしなく空っぽだった。
「もしかして、まだ赤ちゃんだから……でも、私だってこんなの経験した―」
シャアアアア……。
チリン!
私の聴覚が、何かを捉えた。本能が、即座に危険を叫んだ。ほんの一瞬のうちに、私はすぐさま防御魔法を唱え、もしこの空間で私の存在を脅かす異質な存在がいるなら、反撃する備えをした。
「え……な、何、今の?」
その声は、何かが威嚇するような音だった。
周囲を見渡したが、何も見えなかった。用意していたはずの魔法さえも本来なら眩い光を放つはずなのに、なぜこの空間はいつまでも暗闇に包まれたままなのか? なぜ、私は自分自身の魔法すら見ることができないのか?
まるで、私の体がまったく魔力を放出していないかのような感覚だった。光源が一つもない。あらゆるものを吸い込む、真空の空間とそっくりだった。この恐ろしい雰囲気に、背筋がぞっと粟立ち、これまで一度も感じたことのないような恐怖が湧き上がってきた。
今、私は本当に方向感覚を完全に失っていた。自分がここで何をしているのかすら分からず、現実世界にある自分の本体が今どんな状態にあるのかも分からなかった。
だが、しばらくして、その静寂が揺らいだ。目の前にゆっくりと、灰色の影が現れた。それは……
「あれは……?」
困惑が私を襲った。闇の中のその灰色のシルエットは、少しずつ形を帯びていき、一人で物思いに沈んで座り込む少年の姿を見せた。その仕草から、彼はまるで、あまりにも重い問題の嵐にたった今打ちのめされたばかりの人間のように見えた。
この状況では、警戒を怠らず、冷静でいるべきだと分かっていた。だが……私は、誰かがあんなふうに悲しみに暮れる姿を、見過ごすことがどうしてもできなかった。
わ、私は別に、おせっかいを焼きたいわけじゃない! でも……この子はきっと、とてつもなく大きな問題を抱えているはずよ。私の本能が間違っているはずがないもの!
何を考えたのか分からないまま、私は物思いに沈むその小さな子供へと、ためらいがちに歩み寄り始めた。
「ね―ねえ? 坊や……こんなところで一人で、何をしているの?」
私は優しくそう尋ねながら、彼へと手を差し伸べた。
答えはなかった。ただ静寂だけがあった。
んー……普段なら、私が入り込んだ相手の心の中にあるものと、何かしら交流できるはずなのに。
予想外にも、その小さな子供は突然立ち上がった。その唐突な動きに、私は驚いて思わずびくりとし、少し恐ろしくなった。
「え―ちょっと……ぼ、坊や?」
その子は私の方へと体を向けた。次の瞬間、彼は小さな両手を広げながら、まっすぐこちらへと駆け出してきたまるで、強く抱きしめてほしいと懇願するかのように。
私が避ける間もなく、彼はその体重のすべてを私の腕の中へとぶつけてきた。
だが、私たちが触れ合ったその瞬間この虚無の次元が、まるでハンマーで叩かれた鏡のように、突然砕け散った。あの暗闇の空間は完全に拭い去られ、私の目には信じられないほど見知らぬ光景が映し出された。
「な―何が起きたの?!」
視界がぐるりと回り、見慣れない複数階建ての建物と、整然と並ぶ机と椅子の列が目に飛び込んできた。この不思議な雰囲気……ここは、学校なの?!
物語の最後に、少しだけお時間をいただき申し訳ありません。
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