第20話:精霊と共に行き詰まるとき
その瞬間、冷たい風が空中に凍りついたかのようだった。気温が急激に下がり、骨まで凍るほどになり、周囲の空気はひどく濃密で張り詰めたものに感じられた。
「アレックス、その歳で、どうしてそんなことまで理解できるの?」
彼女がその言葉を発した瞬間、俺の頭は真っ白になった。俺の存在全体が、彼女が放つその空気と気配に屈してしまいそうだった。
え―えっと……はは……俺……俺はただ、両親の言葉をいくつか覚えてるだけで……そんな真剣になるようなことじゃないよ、はは……。
「それじゃ、全部の説明にはなってないわ、アエックス」
うう……もし俺が覚えてたことが……あ、そういえば、俺の名前はアレックスだ、アレックスじゃなくていや待て、ちゃんとアレックスって言ってるはずだ! まだこの小さな体を使うのに慣れてないんだ。
「ほう、名前はアレックスなのね……待って、『まだ慣れてない』って、どういう意味かしら?」
ドライアドの幹が、俺と目を合わせようとするかのように、より低く身を屈めた。俺もまた、その時わずかに目を伏せていたからだ。
くそ、見抜かれた。いや……今、全部を話すわけにはいかない。もしバレたら……早く何か考えろ! 急げ! どうすればいいんだ?!
俺はこの尋問をどうにかやり過ごす方法をあらゆる角度から考えようとし、結局うつむいたまま長い間考え込んでいた。やがて、彼女の気がようやく逸れた。
「アレックス……?」
「き、きー!!」
俺の視線は、まっすぐそのドライアドへと向けられた。
「あら?」
「き……きー……すごーい! ぼく、きと、いっしょに、べんきょー、したい!!」
俺はすぐさま、精一杯の無邪気さと可愛さを込めた満面の笑みを浮かべた。この作戦がうまくいけば、彼女はきっと、ただの赤ん坊の喃語だと思ってくれるはずだ。頼む、さっきの話は忘れてくれ。
「ごめんなさいアレックス、それは私には効かないわよ。私は人間じゃない、精霊だもの」
くっ……はぁ……つまり、精霊だからその手が通用しないってことか。なるほど、そういう作戦は人間以外には効かないんだな……可愛い赤ちゃんの顔はこの世界最強の武器だと思ってたのに。精霊には通用しないらしい。う……えっと、その……なんで俺、尋問されてるみたいな気分になってるんだ?!―
ガアアアアアアアアアッ。
突然、どこからともなく、地を震わせるような咆哮が轟き、森の奥深くまで響き渡った。その音はあまりにも生々しく、怪物じみていて、森全体が原始的な恐怖に震え上がったかのようだった。
目の前に立っていたドライアドが、息を呑んだ。普段の穏やかな表情が、完全なパニックへと崩れ去った。その木の肌が、突然の緊張でわずかに裂け、頭頂の生き生きとした葉が萎れて落ち始めた。
見開かれ震える彼女の目が、影に包まれた木々の輪郭を必死に走査し、音の出所を特定しようとしていた。だが、その音はあらゆる方向から同時に聞こえてくるようだった。
下にいた俺は、その圧倒的な気配を、まるで物理的な打撃のように小さな体で受け止めた。息苦しいほどの重圧が瞬時に胸を押し潰し、肺から空気を奪い去った。大人の頭は「身構えろ」と叫んでいたが、この弱く脆い赤ん坊の体は、完全に俺を裏切った。
心臓が肋骨に激しく打ちつけ、純粋な恐怖の衝撃が背筋を走った。プライドはそれを許さなかったが、その怪物じみた震動が喉を麻痺させ、世界が生きた悪夢へと変わっていく中、俺は完全な衝撃で固まったまま動けなかった。
な―なんだ?! な、なんだあれは?!
状況を把握しようとする俺の周りで、木々が激しく揺れ始めた。枝にとまっていた動物や魔物たちが、四方八方へと散っていった。茂みの中から小さな生き物たちさえも、何かから逃げるように飛び出してきた。
「まずいわね……」
ドライアドの声は、さっきまでの穏やかさが消え、ずっと重苦しいものになっていた。
何か恐ろしいことが差し迫っているのを俺は感じ取った。彼女の視線は、すぐさま目の前の小さな赤ん坊へと固定された。
この赤ん坊……両親のもとへ帰さなきゃ。
「ねえ、アレックス坊や、あなたはどこから来たの? 教えて、早く。この森から連れ出してあげるから」
え……? どうしたんだ、彼女? なんで急にそんなにパニックになってるんだ?「ぼく……もりの、そと、から、きたの」
「外? この森の隣にある村のこと?」
「うん」
俺は彼女に頷いた。
「分かったわ。いい、この枝にしっかり掴まっていてね」
巨大な幹から枝が一本伸びてきて、優しく俺の体に巻きつき始めた。
ん? こ、これは……。
「この枝を使って、あなたを家まで送り届けてあげる。しっかり掴まっていてね?」
だが、彼女が言い終える前に、何かが遠くに現れ、信じられない速さで動いていた。
ギィン……バキッ。
俺に巻きついていた枝が、突然、高速で突っ込んできた鋼鉄のような何かによって粉々に打ち砕かれた。だが、俺は地面に叩きつけられることはなかった。本能的に重力魔法を使い、落下による痛みを感じないようにしていたからだ。
グラアアアアッ。
「ふっ……」
近くに何かが着地する音が聞こえた。
バキッ。
数秒後、茂みの中から小枝が折れる音がした。誰かが、ゆっくりと茂みから姿を現した。俺は本能的に振り返った。
「チッ……役立たずな葉っぱどもめ。邪魔なだけだな」
俺はじりじりと、一歩ずつ後ずさりした。
「ほう……こいつは、こいつは……一体何だ?」
俺から数メートル離れた場所に、一人の男が立っていた。その装いは、俺の村や、俺が知るどんな場所のものとも違って見えた。
こんなに豪奢な服を、俺は今まで見たことがなかった。
ゴクリ……俺は唾を硬く飲み込んだ。表面上、彼に奇妙なところは何もなかった。だが……なぜか、威圧感を感じた。
俺の視線は、ゆっくりとその男の背後へと移った。俺の体は凍りついた。彼のずっと後ろに、俺が生まれてから一度も見たことのないような、巨大な生物が立っていた。
息が一瞬にして重くなった。体が強張った。あの魔物が、俺たちを見張っていた。目の前にいる男は、どうやら普通の人間に見えた。
誰……だあいつは……。
「アレックス! こっちに来て、私の後ろに隠れて」
ドライアドが、俺に囁いた。
「え……? う……うん……」
俺は彼女の方を振り向き、小さく頷いた。そして彼女の指示通り、俺はその巨大な木の裏側へと跳び込んだ。
「よぉ、精霊のお嬢さん……ずいぶん長いこと、あんたを探してたんだぜ」
その緊張は、あの怪しい男がそう口を開いたことで終わりを告げた。
ずいぶん長いこと?
それを聞いて、俺は気になった。もしかして二人は以前、何か関わりがあったのか。ドライアドさえも、黙り込んでしまうほどに。
「……な……何が目的なの」
「はぁ?!」
その男の声のトーンが、まるで今しがた馬鹿げた質問でも聞いたかのように、一段高くなった。そして、まるでこの世で一番愚かな質問でも聞いたかのように、ゆっくりと頭を掻いた。
「そりゃ当然、前と同じだろ。あんたのその力を、俺によこせよ、ドライアド」
彼は髪を払いながら、ゆっくりとドライアドの方へと近づいていった。
辺りの空気は、なぜか静まり返っていった。さっきまで緩やかに流れていた風が、今はさらに冷たくなり、俺の体の奥まで突き刺すようだった。
「安心しろよ、ちゃんと大事にしてやるって約束するからよ……」
彼は左手を、ドライアドの幹へと伸ばしながら、満面の笑みを浮かべた。
「それはもう、とぉぉぉっても丁寧にな」
彼は左手を、ドライアドの幹へと伸ばしながら、満面の笑みを浮かべた。
「ふ、ふざけるな!! 私の家族全員にあれだけのことをしておいて。まだ足りないっていうの?!」
それを聞いて、その男はしばし彼女を上から下まで見つめると、長いため息をついた。
「はぁ……うるさいな。どうせあんたも、もうすぐ死ぬのにな。つまんねえ奴」
彼がそうぼやき、視線を別の方向へと逸らした時その男は、話し相手にしていた巨大な木のちょうど裏にいる、俺の姿を見つけてしまった。
「ん、そういや、あんたの後ろにいるそのガキは誰だ?」
彼は両腕を腹の前で組んだ。
くっ……別に俺が勇気がないわけじゃない。だが……この世界に慣れきった相手に逆らったところで、俺が負けるのは目に見えている。
「な、なに?! か、関係ないでしょ! これは、あんたには関係のないことよ!」
その男の口角が、ゆっくりと吊り上がっていくのが見えた。
「ふ……ハハハ……ハハハハハハハ!! 傑作だな……傑作すぎる。精霊が子守に転職か? こりゃ、世界もそろそろ終わりだな」
「だったらよ……」ヒュウウッ。
彼が口笛を吹いた瞬間、俺は何かを感じた「何か」が近づいてくるのを。
ドゴッ……ドゴッ……ビュンッ……ドガアンッ……
ガアアアアアアアアアッ。
な――なんだ……あの生き物は。
「まさか、伝説の『麒麟』の一体なのか?!」
キリ……なに? 名前が難しすぎて覚えられない。
「知ってるのか? それは本当に、とても感心だな」
茂みから今まさに飛び出してきたその生物を見て、俺たちは言葉を失った。数秒間、俺は完全に固まっていた。あの咆哮に加えて、その体に刻まれたあらゆる恐ろしい細部が、俺の意識を完全に奪っていった。鱗は鋼のように硬そうで、尾は短剣のように鋭く、顔の形はあまりにも禍々しかった。俺は釘付けになり、その異質で威圧的な姿から、まったく目を逸らすことができなかった。
ま……魔物……。
俺は体を硬直させたまま、それをじっと見つめた。俺の眼差しには、抑えきれないほどの嫌悪感が滲んでいた。
ガアアアアアアアッ。
咆哮が轟いた。その生物は、俺にそんな卑しい目で見られたことに、気分を害したようだった。
アレックス、アレックス、私の声が聞こえる?
は―は?! 誰だ、これは?!
落ち着いて。私よ、木の精霊。よく聞いて、今、私たちの心は繋がっているの。だから、お願い、私のこの頼みを聞いてくれる?
どうやって?!
頭の中に突然響いたその不思議な声に、俺はまた混乱させられた。その声はあまりにも優しく、あまりにも柔らかくて、俺の意識すら蕩けさせられそうだった。その声の主は、やはりドライアドだった。彼女がどうやってそれをやっているのか分からなかったが、はっきりしているのは、彼女が俺に、何か切迫したことを伝えようとしているということだった。
アレックス……お願い。私が合図を出したら、できるだけ遠くへ逃げて!
待てよなんで急にそんな話に?!
アレックス……お願いだから。
俺の頭は、一瞬止まった。一方では、本能がこんな急な状況で彼女をただ見捨てることを拒んでいた。もう一方では、あの魔物と戦えるかもしれないという考えも一瞬頭をよぎった。何しろ、前に巨大なマンモスを倒したこともあるんだから。だが―
「そいつは北の方にある古い城で見つけたんだ、かなり勇ましいだろ?」
その男の手が、前後に動きながらその魔物の体を撫で回していた。
「さて、今度は……あの木の裏にいるガキを捕まえろ!!」
アレックス! 逃げてぇ!!!
くっ……。
今は彼女の状況を考えている余裕なんてなかった。俺はただ自分自身のことだけを考え、全力でその場から走り出した。
ドライアド……すまない……。
だが―
ガアアアアアアアアアッ!!!!
ヒュンッ……。
その魔物は、立っていた場所から姿を消し、目にも留まらぬ速さで突っ込んできた。
チリン……チリン……。
その瞬間、俺の世界がスローモーションで回り始めたかのようだった。時間がゆっくりと這うように進み、耳の奥にかすかな鈴の音だけが残響していた。
ああ、そうか、ずっとあの鈴の音は、あの生物から出ていたのか。だが、再び頭を巡らせてそちらを見た瞬間、俺は苦い現実に打ちのめされた。あの魔物が、二つに分裂していたのだ! 両方とも稲妻のような速さで突っ込んできた一体は俺に、もう一体はあのドライアドに狙いを定めて。
「駄目!! 近づかないで!!!」
その分身の一体が、恐ろしい爪を伸ばし、俺の小さな体を引き裂こうとしていた。
これが終わりなのか……俺の物語の……? 俺にはまだ―




