第19話:独りぼっちの霊魂が響くとき
正直、こんな夜の深い森の中に、こんな時間に誰かがいるなんて、俺にはまったく理解できなかった。振り返って目を開ける前から、俺の頭の中はすでに悪い想像でいっぱいになっていた。この人物が、俺の新しい両親の知り合いかもしれないという恐怖に駆られながら。
深く息を吸い込み、俺はゆっくりと振り返り、視線を下げて無邪気な子供を演じようとした。
「ご、ごめんにゃさい……かって、に、でかけて、ごめんにゃさい。ぱぱと、ままにゃ、いわにゃいで」
俺は震える声でそう懇願しながら、ぎゅっと目を閉じた。
「ただ……そとの、せかいが……きになっただけにゃの……だから! おねがい、だれにも、いわにゃいで!」
ゆっくりと目を開けると、目の前には誰もいなかった。ただ、どこからともなく現れたような巨大な木が一本あるだけだった。
え……? 誰もいない……俺、幻でも見てたのか?
「いいえ可愛い子、幻ではないわ。私は確かに、今あなたの目の前にいるのよ」
な―なんだって?!……
俺は、その巨大な木を下から上までじっと見つめた。すると案の定、その木には口と目があるように見えた。信じられなかった。木目のくぼみのように見えたが、たった今確かに瞬きをしていた。
「わあああ……!」
衝撃のあまりバランスを崩し、俺は後ろに転がって、小さなお尻を地面に強く打ち付けた。
「あら? どうしたの、可愛い子?」
その木が尋ねた。その深みのある声が、葉の間を通って静かに響いた。
「き……きが……しゃべってる!」
俺はパニックになり、震える指でその巨大な幹を指差した。
「あら?」
その木は巨大な幹を少し傾け、低く軋むような音を立てながら、葉の茂った枝を揺らした。
「どうやらあなたのご両親は、私のような存在についてまだ教えていないみたいね? 安心なさい、坊や。私はあなたのような人間に対して友好的な存在よ」
俺は長い間、驚きと衝撃のあまりその木をじっと見つめ続けた。今の自分の状況を表す言葉すら思いつかなかった。なにしろ、地球にはこんなもの存在しなかったのだから。
「き……きが! な、なにもにょ?!」
「私? 私はドライアド自然を傷つけようとする者から守る、木の精霊よ」
彼女はそう答えながら、葉で作られた表情を変え、目を細めた。
「あら? あなたは人間のようだけど、完全に人間という感じがしないわね。名前は何というの、坊や?」
木の精霊か? これは俺にとって、初めて聞いて、実際に目にする存在だった。うわ、これはすごく驚きだ! だが待てよ……彼女は俺が完全な人間じゃないと言ったのか? 俺のDNAがまだ地球の人間と一致してるからか? それとも、俺に心臓や核がないことと関係があるのか? だが俺は「生まれ変わった」はずだよな?
「ぼく……なまえ、あれっくしゅ!」
「アレックス? ずいぶん個性的な名前ね、ふふ」
いや、そういう意味じゃない! ああもういい、こういう誤解をいちいち訂正するのも、もう疲れた。
待て―そういえば、さっき彼女に心を読まれてたような気がする。それなのに、なんで急に押し黙ったんだ? ふむ……いや、いや、たぶん気のせいだろう。この俺この世界の特別な主人公以外に、心を読める生き物なんているはずないよな?
「その通りよ、可愛い子。私はこの世界に生きるあらゆる存在の心を読める。しかも、それができるのは私だけ」
「なぜなら私は、現存する最後のドライアドだから」
え? えええ?!
ドライアドの温かい表情が、突然こわばった。彼女は巨大な木製の頭を傾け、葉でできた眉をきつく寄せながら、俺の見開かれた怯えた目をじっと見つめた。しばらくの間、気まずい沈黙が俺たちの間に流れた。彼女は確かに俺の思考を読めた。だが、この赤ん坊の脳の中でねじれている複雑で大人びた語彙に、すっかり困惑していた。ただの人間の赤ん坊が、どうしてこんな高度な言葉で考えられるのか?
さらに、俺の思考の中にあった特定の一文が彼女の注意を引き、さらに困惑させていた。
「待てよ……ってことは、こういう力は他の奴にもあるのか?」
俺はそう考えた。頭の中はパニックで駆け巡っていた。この世界に他の読心者がいるのではないかと。
ってことは、本当に実在するのか?! それに、そのおかげで俺は他の生き物とも意思疎通できるのか? めちゃくちゃかっこいいじゃないか! まさかこんな能力が他にも存在するなんて、思ってもみなかった。
はぁ……俺は自分がこの世界で唯一の特別な存在だと、ずいぶん自信過剰に思い込んでいたな。次からはもっと期待値を下げないと。だが待てよ、現存する最後の一体?
俺はわずかに首を傾げ、頭の中はすぐさま、あのお馴染みの超集中状態に入った。
地球にいた頃、俺の人生全体は、飽くなき好奇心によって定義されていた。方程式を計算し、複雑な理論を分解し、真実を突き止めるまであらゆる異常を問い続けた。その科学者としての本能は、この世界に生まれ変わった時に消え去ったわけではなく、この新しい赤ん坊の脳に組み込まれていた。「現存する最後の」という言葉は、俺にとって悲劇的に響くだけじゃなく、データのように聞こえた。
それは、個体数動態の突然の変化一つの種をまるごと一掃したような壊滅的な出来事を示唆していた。もしそうだとしたら……つまり、昔はあんたみたいなドライアドが、他にもたくさんいたってことか?
「……」
空気が瞬時に、死んだように静まり返った。周りのあらゆる葉が、完全に揺れを止めた。さっきまでの穏やかなそよ風も、跡形もなく消え去った。気温が急激に下がり、自分の吐く息が白く曇り始めたことにすら、俺は気づいていなかった。
「大丈夫よ、アレックス。きっと運命が、この世界の自然を守るために私だけを選んだのでしょうね」
ドライアドは静かにそう答えた。その声には、重く、太古からの悲しみが宿っていた。
別に他人の事情に首を突っ込みたいわけじゃない。だが、これはこの世界でこれから生きていく上で、重要な常識になるかもしれない。
「でも、なんで、きー?」
俺は左手を上げ、小さな指でその巨大な幹に触れた。
「アレックス……あなたはまだ、そういうことを理解するには幼すぎるわ」
「だいじょぶ! きー、おしえて!」
俺は、精一杯の無邪気な子供を演じながら、その話を引き出そうと食い下がった。
「アレックス……」
ドライアドはしばし沈黙した。頭上の葉が、低く悲しげな唸りを立てて揺れた後、彼女は続けた。
「はぁ……想像してみて。もしある日、あなたが家族と楽しそうに笑い合っていたとして。そして、その次の日、彼ら全員が、跡形もなく消えてしまったとしたら?」
う……どうやら彼女は……。
「そして、誰かがやってきて、なぜそれが起きたのかとあなたに尋ねたら、どうする?」
彼女の声は、危険な囁きへと落ちていった。
うわ……この辺りの空気が、さっきより少し冷たくなった気がする。それに、なぜか……彼女のその問いは、ただの仮定の話じゃないような気がした。まるで、俺がただの赤ん坊じゃないことを、完全に見抜いているかのような感覚だった。
「ぼ……ぼく、わかにゃい」
俺はしどろもどろにそう言った。彼女の鋭い眼差しの前で、幼児演技が完全に崩れ去っていた。
「その通り。そしてあなたの言う通り、私はあなたを、これまで出会ったどんな人間とも、まったく違う存在として捉えているわ」
彼女は、その光る目を細め、俺の存在そのものを解剖しようとするかのように、巨大な木製の頭を近づけてきた。
「この世界では、システムがあらゆる生き物を縛っていて、私にはその本質とランクが見えるの。でも、あなたを見ても、坊や……何も見えない。あなたのランクが、まったく見えないのよ。あなたは、一体……?」
どうしてそんなことが……俺は固まった。頭の中は、たった今起きたことを再構築しようと必死だった。待てよ……さっきの瞬間、俺はただ「彼女が俺がただの赤ん坊じゃないと気づいている」ことを考えただけだった。声には出していない。口はしっかり閉じていた。それに、彼女が言った「システム」それは一体どういう意味だ?
突然、ぞくりとするような気づきが俺を襲った。彼女はただ推測しているんじゃない。文字通り、俺の頭の中の生データに反応しているんだ。
ああ、それなら、もう口を使って話す必要なんてないじゃないか。お互いの思考がすでに繋がっているなら、思考波で伝える方がずっと効率的なはずだ。
んー……あのさ、ドライアド。これはあくまで俺の当てずっぽうの推測だ。周りの状況と、急激な気温の低下から立てた仮説に過ぎない。だが……あんたの家族が全員消えたのって、外部の力によって組織的に「滅ぼされた」からなんじゃないのか?
ドクン!
それまで穏やかに吹いていたそよ風が、空中でぴたりと凍りついたように止まった。気温はさらに急落し、辺り一帯の空気が、息苦しいほど重くなっていった。
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