第15章:初めての襲撃、そして一撃崩壊
七ヶ月が、気づかぬうちに経っていた。実感としては七ヶ月経った感じがしない。いや、六ヶ月だったか? まだこの世界の時間の概念がよく分かっていない。夜には月が二つある。
ああ、そうか、それは……いや、まあいい。
外からの明るい日差しが、この木造の家の中に差し込んでいた。扉が大きく開け放たれているせいだ。新鮮な空気を入れて部屋を涼しく保つのが、どうやらこの土地の習慣らしい。その結果、光が俺の体の右側を照らしていた。
普通、俺くらいの月齢の赤ん坊にはまだ自我なんてないはずだ。人間だって普通、自我が芽生えるのは十~十五歳くらいだろう。ここ数ヶ月で得たもう一つの情報この世界は、もう地球ではない可能性が高いということ。
その証拠は?ああ、もちろん、さっき言った通りだ。この惑星の衛星は月が二つある。それにここ数ヶ月で気づいたが、この新しい可能性のある世界の技術水準は、地球に比べてかなり低い。もしかすると、その理由の一つとして仮に使えるのは、俺の両親―つまり平民で、技術なんて手に入れられる余裕がないからだ、というものだ。
だが、それでも結局はゼロに帰る。なぜなら、この世界で毎晩空に浮かぶ月が二つあるという事実だけで、その説は簡単に覆されてしまうからだ。
だが、俺の確信をさらに強めたのは、この地域の指導者らしき人物が、手のひらから光を生み出すのを見た時だった。あれは、俺がまだ生まれたばかりだった頃、俺に何かの儀式のようなものを行っていたようだった。
「……」
そういえば、俺には前世の知識と記憶もそのまま残っている。俺は、何か特別な存在なのか?
ふむ……確かめるために、何か試してみるか。
「ふんっ……」
俺は自力で体を起こそうとした。これは本当に面倒だった。
両親は今ここにいない。
さて.......ふむ、何ができるだろうか。あの女神、「異常な力」って言ってたよな?
「お前の望み通りの力をやろう。ふむ、お前のリクエストも面白いな、ハハハ、それと同時に、いくつか力も追加でやる」
あいつが俺に何をくれたのか、本当に気になる。よし、見てみよう……。
こういう異世界系の小説をよく読んでたけど、普通なら魔法使えるはずだよな。
この世界でもできるか? ハハ、試してみて損はない。
俺は自分の両手のひらをじっと見つめ、心の中で密かに誓いを立てると、それをぴたりと空中で合わせた。深く息を吸い込み、胸から指先へと神秘的なエネルギーが流れていくのを思い描く。
「インフェイノ……」
俺は、フィクションの中の魔法使いのクールなスタイルを真似て、力を込めてそう唱えた。
「……」
コオロギ……コオロギ……コオロギ……。
光の閃きは起きなかった。渦巻く風もなかった。壮麗な魔法陣どころか、ライターの炎ほどの火花すら現れなかった。
俺の呪文に応えたのは、茂みから聞こえるコオロギの鳴き声だけだった。夜の静寂の中で固まって突っ立っている俺を、あの虫が愚かさを嘲笑っているかのようだった。そよ風が吹き、掲げた手が急に冷たく感じられ……そして、ひどく恥ずかしくなった。
俺は両手をだらりと下ろし、痒くもないのに首の後ろを掻いた。
やっぱり、この赤ん坊の体じゃ無理があるか……。それとも、そもそも存在しなかったのか。あるいは、発音が間違ってたのか? ふむ……もう一度、頭の中で唱え直してみるか。
イン……フェル……ノ。
ドゴオオオンッ!
ゴゴゴゴ……ゴゴゴ……。
突然、理由も分からず地面が揺れ、耳をつんざくような轟音が響き渡った。
な―なんだ?!
突然、あらゆるものが揺れた。家の中の家具も、それでひっくり返った。パニックになった。これは俺のせいだという気がした。
◆◆◆◆
その日の午後、村の空気は驚くほど穏やかだった。西の地平線には太陽が昇り、明るく輝いて、広がる緑の田んぼを黄金色の光で照らしていた。
何人かの農夫が汗を拭いながら牛を引き、日差しが強くなる前に残りわずかな畑の耕作を終えようとしていた。
村の門近くの木造の店では、年配の男たちが集まって座り、煙管をふかしながら今季の収穫について語り合い、豪快に笑い合っていた。
そう遠くない場所では、若者たちが川の桟橋の縁でくつろぎ、木製の浮きが水面で揺れるたびに時折釣り竿を引きながら、のんびりと世間話をしていた。遠くから響くハンマーの音が、村の大工たちが修理している巨大な水車の独特な軋み音と混ざり合っていた。すべてが完璧に思えた。
そこへ突然、大きな轟音が響き渡り、日常を過ごしていた村人たちをパニックに陥れた。
ドゴオオオンッ!
「ま―なんだ―」
「え、え? なに? なんだこれ? なんで急に揺れてるんだ?」
村人たちは不安に駆られ、何が突然地面を揺らしたのか分からぬまま、恐怖に慌てて寄り集まった。
「おい……見ろ! みんな、見てくれ!」
村人の一人が、明らかにパニックになった様子で、目にしたものを指差し叫んだ。
「え?」
「おい、おい、なんだあれは……?」
「なんなんだ、あれは……?」
「でかすぎるぞ」
その轟音の後に現れた巨大な生き物の姿に、村人たちは疑問と混乱でいっぱいになった。
プルルルァァァ……
ドッシィィン……ドッシィィン……
耳をつんざくような、象のような咆哮が鳴り響き、村人たちは大混乱で四方八方に散っていった。その巨人の重い足踏みは、地面に足跡のような深いくぼみを残し、近くの村全体に揺れを走らせた。振動は集落に向かって進み、その巨人が走り出すにつれて急激に激しさを増していった。
繰り返される地響きはもはや避けられず、その容赦ない激しい揺れで家々が崩れ落ち、粉塵の雲が空へと立ち上る中、村人たちはパニックに呑まれた。そしてすぐさま、これは魔物の襲撃だと決めつけた。
「に……逃げろ!!!」
「うわあああ逃げろおおお!!」
「うわああ助けてくれえ」
「逃げろおおお」
「ラティーナ!! うちの子を頼む」
ジョージが彼女に向かって叫んだ。
「ええ、分かった! すぐに行くわ」
「俺は村のみんなを手伝って、あの魔物を倒しに行ってくる」
彼はそう言いながら、周囲のパニックの様子を見極めていた。
「あなた、駄目よ! それは危険すぎるわ……」
ラティーナは、彼が怪我をするのではないかと心配した。
「大丈夫だ、たかがマンモス一匹だ。俺とここのみんなでなんとかできる」
村人たちはパニックになって散り散りになり、命からがら逃げ惑う一方、男たちは村に迫るその魔物を迎え撃つべく身構えた。何百もの必死な足音の重みに、地面が震えた。土の道から濃い砂埃が巻き上がり、渦を巻きながら宙に舞い、その通り道にいる誰もの視界を曇らせ、立ち込める土煙の中に悲鳴が響き渡った。
空気は息苦しいほどに張り詰め、誰もが我先にと逃げ惑う中、あちこちで混乱が巻き起こっていた―
「ジョージ、これを持ってけ!!」
村人の一人が、槍をジョージに投げ渡した。
「それで俺たちを手伝ってくれ!!!」
「ああ、すぐ行く!!」
ジョージはそう答えると、投げられたばかりの槍を掴み、彼らと共に出て行った。
「ジョージ!!!」
ラティーナがジョージに向かって叫んだ。
「大丈夫だ、あなた。必ず無事に戻ってくるって約束する!!」
彼は満面の笑みでラティーナに手を振った。
「ジョージ……気をつけて、ジョージ……お願い、無事に帰ってきて……」
◆◆◆◆
ああ駄目だ……駄目だ……駄目だ……。生まれたばかりなのに、もう大惨事を引き起こしちまったのか。あいつら、これから俺に一体何をするつもりなんだ……。
胸に突然、パニックが押し寄せた。この世界に転生したばかりだというのに、もう大混乱を引き起こしてしまったのか? もしバレたら、みんな俺に何をするだろう? すぐに追い出されるのか? それとも――最悪、処刑か?
ドゴオン……ドゴオン……
足元の地面が、突然激しく揺れた。次の瞬間、耳をつんざくような甲高い咆哮が鳴り響いた。
プルルルァァァ……
その音は、俺がいるこの家からそのまま轟いていた。まるで怒り狂った象の甲高い咆哮そのものだった。
え?! な―なんだあれは?!
心臓が二倍の速さで高鳴った。くそ、まさか……いや! 頼む、これが俺のせいじゃないと言ってくれ! さっきの失敗した呪文のせいじゃないよな?!
パニックの中、俺は必死に耳を澄ました。だが徐々に、その音が家の中からではなく、外から聞こえていることに気づいた。
ん? いや、まさか……これは……これは俺のせいじゃない。どうやらこの村が、何かに襲われているようだった。象みたいな咆哮が聞こえる。いや待て、この世界に象なんているのか?
俺は起き上がり、家の窓へと歩いていき、跳び上がって窓枠を掴もうとした。そうすれば、外で実際に何が起きているのか見られるはずだった。
だが、無駄だった。この小さな体では、跳んでも窓枠に届かなかった。
くそ……窓の外を見るために、何か踏み台になるものが……。どうすればいいんだ……。




