第12章:異能を欲す
「押し」という一言だけで、俺は非常に気になった。あいつは一体、何を言おうとしているんだ?
「押し」を与えると言った。心理的な支えを与えるという意味だろうか。だが、この空っぽな部屋でこいつと出会う前の、さっきまでの態度を見る限り、そんな優しいタイプには見えなかった。
なぜか、思い返してみると、あの瞬間、こいつは俺の方を見て笑っていたような気がする。
「おい! なんでさっき俺を見て笑ってたんだ?!」
「ん? 別に……なんでもないぞ」
そう言いながら、少し首を傾げて、また俺に笑いかけてきた。ただの普通の笑みなら別に構わない。だが、その笑い方はまるで俺を威圧しようとしているみたいだった!
「くっ……押し? どういう意味の押しだ?!」
俺は眉をひそめながら言った。
「さっきのアイラの運命、覚えているだろう?」
左手が俺の方へと伸びてきた。
俺は答えなかった。あの経験のせいで、他のことを考えられないほど深く心を傷つけられていたからだ。
「よし! では、復讐がしたいか?」
「……」
「じゃあ、お前を掴まれたあの瞬間まで戻してやることもできるが、その前に、まずお前を異常な力を持つ異世界に送る」
右手が、さっき左手がしたのと同じ動きをなぞった。
「どうだ?」
そう言って、両手を大きく広げた。
今度の言葉は、俺を見下すものではなかった。むしろ、好奇心をかき立てられた。なぜかは分からないが、その言葉を聞いた瞬間、たまらなく興味が湧いて、試してみたいと思った。
「戻して……それに異常な力……? つまり、俺は異世界に送られるってことか?!」
「お前、マジで中二病だな、まあ、そんな感じだ……多分」
その目が、俺の視線を避けるように逸れた。
「あ、そうだ!」
そして、また俺の方を見た。
「お前の両親が、どこへ行ったか考えたことはあるか?」
その両手が、再びだらりと下ろされた。
突然話を逸らしたその質問に、俺の癇癪が少しまた燃え上がった。
「なんで急にそんなこと聞くんだ?!」
その男は説明を求めることもなければ、否定しようともしなかった。その沈黙が、その空っぽの部屋白か、あるいは黄色か……よく分からないその中に漂っていた。だが、その沈黙こそが、俺の言葉に対する、言葉によらない肯定だった。
「はぁ……」
俺のため息交じりの、やんわり拒否したいという意思にもかかわらず、あいつは黙ったまま、まるで俺の答えを待っているかのようだった。
「くっ、はいはい分かった、本当にしつこいな」
「あんまりよく覚えてないけど……親父もお袋も、俺が小学四年生の時に、仕事を片付けなきゃいけないって言って俺を置いていったんだ」
俺は俯いた。
「そして俺が大人になって科学者になるまで、あいつらは一度も戻ってこなかった」
「レンくん、なぜ両親が戻ってこなかったか知りたいかしら?」
俺はそっちを見た。
「ああ! もちろ―」
ま……待て、なんだこれ? 誰だ?! 女に変わった?! いや、それとも他の何かか? 頭の中がぐちゃぐちゃになり、完全に呆然としてしまった。
「ん? レンくん……?」
彼女は両手を後ろで組み、体ごと小首を傾げるように、いたずらっぽく無邪気な仕草を見せた。
「い、いや、もちろんだ! それが、俺がタイムマシンを作った主な理由の一つだったんだ」
「ふふ、そうなのね。これを見てみて」
彼女は右手を横に伸ばした。すると、そこから光の筋が現れた。同時に、遠くから別の光の筋が近づいてくるのが見えた。
一体全体、ここはどうなってるんだ?!
自分の思考すら処理しきれないうちに、目の前にいた彼女の姿がふっと消え去り―
「聞こえてるわよ、レェンくん〜」
え? 「な―」
彼女の声が耳元で囁かれ、その体温が突然、何の前触れもなく俺のすぐ隣に押し付けられた。背筋に冷たいものが走った。
ヒュッ……
右側に画面が現れた。
「な……なんだ……これは……?」
そこに映し出されたのは、痩せこけて憔悴しきった二人の人影――俺の知る人物によく似た、それは俺の両親だった。だが、二人は仕事着を着ていなかった。代わりに、汚れてボロボロの服をまとい、独房に閉じ込められていた。
「え?! 父さん、母さん!!」
画面が二人の狭く湿った独房にズームインした。裸足のすぐそばの冷たい石の床を、鼠が走り回っている。二人はぼろぼろの衣服を握りしめながら寒さに震え、決して来ることのない奇跡を待ち望むかのように、鉄格子の方をじっと見つめていた。
心臓が激しく締め付けられた。二人はすっかり打ちのめされていた。その目にはもう光がなく、まるで何年もあの暗い深淵に囚われていたかのような、虚ろな空白しかなかった。家で俺を出迎えてくれていた、あの誇り高く笑顔だった両親の姿は、跡形もなく消えていた。
「いや……なんで……なんで二人があんなところに?! すぐに助けに行かないと!」
「その前に、これを見てほしいのよ」
画面には、あのボロボロの服を着る前の両親の姿が映し出された。まだきちんとした身なりで、まるで仕事に向かうように車を運転していた。だが次の瞬間、車の下に光り輝く緻密な魔法陣が浮かび上がった。一瞬の光と共に、車ごと丸々呑み込まれ、二人はそのまま壮麗な召喚の間へと転送された。
二人は混乱していた。何が起きたのか理解する間もなく、ローブをまとった召喚団の者たちが駆け寄り、二人から何かを測定するようにスキャンし始めた。何を見出したのかは分からないが、再びまばゆい閃光が両親を包み込んだ。光が消えた時、二人はすでに重い縄できつく縛り上げられていた。
そして、二人は引きずられていった。さっき目にした、あの暗く湿った独房へと、まっすぐに。
「不運なことに、あなたのご両親は勇者召喚の対象になってしまったのよ。でも残念ながら、選ばれたのはご両親ではなくて、結局は売られる奴隷になってしまったの」
「奴隷?!」
俺の頭は完全に真っ白になった。胸の中で純粋な怒りが激しく沸き立った。
「ど、奴隷だと?! お前は今、あいつらが奴隷だって言ったのか?!?」
「ここから出せ! 助けさせてくれ、神様! 俺は……もう見たくない、両親があんなふうに苦しむのを! こんなことで俺をまた壊させたくない……アイラちゃんの時みたいには、二度と……! 神様、頼む……頼むから……!」
熱い涙が頬を滑り落ちた。もう抑えられなかった。胸の中の押し潰されるような重みが弾け、俺は彼女の前で、取り乱すように激しく泣き崩れた。
「それが、私の目的よ。あなたに、あの偽りの女神を止めてほしいの」
彼女はそう言った。その声には、重みが宿っていた。
「勇者召喚を仕組んだのも、あなたのご両親を切り捨てて、あの独房で朽ち果てさせたのも、全部あの女なのよ」
彼女は一拍置いた。その言葉が染み込むのを待つように。そして、最後の一撃を放った。
「それと、これも知っておくべきね。さっき、あなたとアイラちゃんを殺した者たち。あれは、あの偽りの女神の配下、その手下たちなのよ」
ドクン……
心臓が、ほとんど止まりかけた。
胸の奥底から、激しく焼けつくような純粋な怒りが噴き出した。体中のアドレナリンが一気に沸き立った。視界が血の霧で歪んでいく。何かを引き裂きたかった。暴れ狂いたかった。あいつら全員を狩り出し、跡形もなく消し去りたかった。
「今すぐそいつのところに送れ!! 俺が始末してやる」
「待って、落ち着いて……」
彼女は、いらだつほど平然とした口調で答えた。
「一つ、忘れてないかしら? そんな力、あなたの元いた世界に存在すると思う?」
「……」
「はぁ……仕方ないわね。あなたに、復讐への道を切り開くだけの力を授けてあげる。何か、希望はあるかしら?」
「ち……力……?」
俺は頬を伝った涙を拭った。
「どういう……力のことを言ってるんだ……?」
「そう、力よ。例えば、こーんなに大きな炎を作れる力とかね」
彼女の右手の指先から、小惑星ほどの巨大な炎が、シュッという小さな音と共に噴き出した。
「うわ……うわああ!! なんだ……それは?!」
目の前に突然、彼女の指先から巨大な火の玉が現れたのを見て、俺は完全に度肝を抜かれた。
「はは、それとも、こーんなに大きな水とか」
彼女が左手首をひらりと振ると、ボコッという小さな音と共に、本当に巨大な水の塊がぽんと現れた。
「それとも、こんなふうに大きくなったり……」
コキコキと関節が伸びるコミカルな音と共に、彼女の小柄な体が歪み始めた。
「こう」
ボインッ……ボインッ……ボインッ。
「わ……わあ……」
彼女の体は大きく膨れ上がり、胸の何かが目の前で巨大なゴムボールのように激しく弾んだ。それが何なのか、俺には分からなかった。要するに、彼女はまるで巨人族みたいだった。
「それともあなたは、世界そのものの『あらすじ』を書き換える力を望むかしら?」
女神は天高く手を掲げた。その指先が空に触れた瞬間、世界の理が歪む。
「例えば」
女神がその画面に向かって冷酷に指を差し、何かを塗りつぶすように滑らせた。
瞬間、画面の中の男の肉体がぐにゃりと歪み、衣服ごと一匹の『豚』へと変貌した。それだけではない。彼のデスクにあった名札の文字が消え、パソコンの社員データから彼の名前がリアルタイムで消滅していく。隣の席にいた同僚は、足元で鳴く豚を見ても驚きすらせず、
「なぜここに豚が?」
と首をかしげるだけだった。彼の名前も、築いてきたキャリアも、彼を知る人々の記憶からも、すべてが最初から存在しなかったかのように『設定』ごと書き換えられたのだ。
「選びなさい」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。表情が硬くなり、頭の中は一つの目標だけに固定されていた。
「力を……俺は……」
この選択の時、自分が何を考えていたのかは分からない。ただはっきりしているのは、あのクソ野郎(偽りの女神)どもに彼らの復讐を果たすため、俺がその力を心の底から欲していたということだけだ。
「ふふ……面白い願いね。ハハハ、いいわ、許可するわ」
彼女は元の小さな姿に戻った。
「他にもいくつか力を足しておくわね、それで……まあ、十分でしょう。ああ、そうそう、あなたが即死級の『究極』の力を望んだから、あなたはスラム街の村に住むことになるわよ。それが、私の決めたルールなの」
「分かった、問題ない」
俺は、あの偽りの女神を叩き潰す手段さえ手に入れられるなら、どこに落ち着こうと構わなかった。
「面白いわね……よし、頑張りなさい、選ばれし者! それともう一つ、女神の名前はアランよ」
チィン……
鋭く澄んだ音が、空間に響き渡った。
「うわああ」
突然、全身が強烈な温かい光に包まれ始めた。
「へへ……」
この物語は、面白くなりそうだ。
そして、まばゆい光に、俺は思わず一瞬目を閉じた。




