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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第九十七話 世界中の薬師が、恩返しにやってきた

王都中央病院の研究室は、いつの間にか小さな国際会議場になっていた。

机の上には各国の研究記録が積まれ、壁には薬草の分布図が貼られている。

「北の国では、似た症状を抑えた例があります」

「帝国の研究所では、古い触媒の分解方法を調べました」

「魔力を使わない補助薬の候補もあります」

薬師たちは次々に報告した。

ルーシェは驚いた。

「こんなにたくさん……」

ノエルが笑った。

「先生が世界中に記録を公開したからです。

今度は、みんなが記録を持ってきたんです」

最初に到着したのは、薬の効かない国で出会った研究者たちだった。

「百年前の装置を調べたとき、リオン先生は私たちの失敗を責めませんでした」

代表の女性が言った。

「だから、今度は私たちが手伝いたいんです」

次に来たのは、ロダンの老薬師ガレスだった。

彼は山道を越えてきたらしく、靴が泥だらけだった。

「役に立つか分からんが、地元の薬草を持ってきた」

「ガレスさん!」

ルーシェは駆け寄った。

「遠いのに、ありがとうございます」

「何を言う。

あんたらが来てくれなかったら、うちの町には今も薬師が一人だけだった」

ガレスは笑った。

「今は三人もおる。

少しは留守にできるようになったわい」

ベルナからは、マルクが来た。

「店はどうしたんですか?」

「弟子に任せてきた。

昔なら考えられんことだ」

彼は鞄から帳簿を取り出した。

「健康相談の記録を調べたら、長期的な魔力変化の例が少しあった。

直接同じ病気ではないが、参考になるかもしれん」

ルーシェは帳簿を受け取った。

世界中に広がった仕組みが、今、一つの病室へ戻ってきている。

胸が熱くなった。

しかし、研究が進むほど問題も増えた。

ある国の触媒分解薬は、効果が強すぎた。

別の国の補助薬は、魔力循環を安定させる一方で、筋肉の働きを弱める可能性があった。

「どれも、単独では使えませんね」

ルーシェはため息をついた。

「だったら、組み合わせを考えよう」

ノエルが言った。

「強い作用を一つ使うんじゃなくて、弱い作用をいくつか重ねるんです」

ルーシェは顔を上げた。

「……それなら、負担を分散できるかもしれない」

研究者たちは新しい試験計画を作った。

役割分担が決まる。

触媒の分析。

魔力循環の測定。

体の負担を調べる検査。

長期的な安全性の確認。

誰も、手柄を独占しようとはしなかった。

ある夜、ルーシェは研究室の窓から病院を見下ろした。

灯りのついた部屋がいくつもある。

その一つに、リオンがいる。

「師匠、見ていますか」

小さく呟いた。

「師匠が教えた人たちが、こんなに集まっています」

昼休み、各国の薬師たちは病院の食堂に集まった。

言葉も習慣も違う人々が、同じ卓で温かいスープを飲んでいる。

「帝国の薬草は苦すぎる」

ガレスが顔をしかめると、帝国の研究者が笑った。

「北の山国の薬は、匂いが強すぎますよ」

「効けばよかろう」

「患者さんが飲めなければ、意味がありません」

ルーシェが言うと、二人は同時に黙った。

そして、顔を見合わせて笑い出した。

かつては国境を越えて技術を教えることさえ難しかった。

今は、違う国の薬師が同じ失敗を笑い合っている。

ルーシェは胸の奥が温かくなるのを感じた。

食堂の片隅では、若い薬師が古い記録を読み込んでいた。

「それ、何の資料?」

ルーシェが尋ねる。

「リオン先生が公開した失敗例です。

僕の国でも、似た副作用が出たことがあって」

「役に立ちそう?」

「はい。

原因を断定せずに書いてあるから、比較しやすいんです」

ルーシェは頷いた。

失敗を正直に残すこと。

師匠がずっと守ってきた習慣が、遠い国で誰かを助けていた。

その午後、王宮の役人が研究室を訪れた。

「治療が成功したら、国王から表彰したいという話があります」

ルーシェは首を振った。

「今は表彰の話をしないでください。

まだ患者さんの治療が始まっていません」

役人は恐縮した。

「失礼した」

「成功したら、みんなで喜びます。

でも、今は安全を確認することが先です」

院長がそのやり取りを聞き、満足そうに頷いた。

その夜、工房の弟子たちからも手紙が届いた。

ニナは乾燥薬草の管理表を、テオは改良した検査器具の図面を添えていた。

二人とも、遠くから自分にできる仕事を探していた。

翌日、院長が治療計画の会議を開いた。

「候補薬の安全性について、現在得られる範囲の検証は進んだ。

だが、未知の危険は残る」

ルーシェは頷いた。

「患者本人にも、分かっていることと分からないことを説明します」

院長は彼女を見た。

「君が説明するか」

「はい」

病室で、ルーシェはリオンの前に座った。

治療の目的。

期待できる効果。

確認できていない危険。

治療を受けない場合の見通し。

すべてを一つずつ説明した。

リオンは最後まで黙って聞いた。

「どうしますか」

ルーシェが尋ねると、リオンは少し笑った。

「昔の私なら、すぐに飲んでいたかもしれない」

「今は?」

「今は、みんなが調べてくれた記録を信じたい。

それでも分からないことがあるのも、分かっている」

リオンはゆっくり頷いた。

「治療を受けたい」

ルーシェの目に涙が浮かんだ。

「分かりました」

彼女は立ち上がった。

「では、準備します」

廊下へ出ると、ノエルとガレスとマルクが待っていた。

誰も軽々しく「大丈夫」とは言わなかった。

ただ、皆が静かに頷いた。


翌朝。

世界中の薬師が見守る中、ルーシェは小さな琥珀色の瓶を手に取った。

今度は、弟子が師匠を救う番だった。

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