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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第九十話 世界一の薬師が、寿命の値段を決めた

「長寿薬の価格は、金貨百枚が妥当でしょう」

王宮の会議室で、財務官がそう言った。

「まだ完成していない薬の値段を決めるんですか?」

ルーシェは思わず聞き返した。

「完成したときに備えるのだ。

研究費もかかっている。

安く売れば採算が合わん」

別の役人が言った。

「だが、高すぎれば富裕層しか買えない」

「ならば国が補助すればよい」

「その財源はどこから出す!」

議論はすぐに紛糾した。

リオンはしばらく黙っていたが、やがて手を挙げた。

「その前に、一つ確認してもいいですか」

「何でしょう」

「この薬を、今、誰かに売ってもいいと考えていますか」

会議室が静まった。

「……まだ研究段階です」

医療担当官が答えた。

「では、今決めるべきなのは販売価格ではありません」

ルーシェは研究報告を机に置いた。

「安全性を確認する方法と、結果を公開する仕組みです。

長期的な影響が分からないのに値段だけ決めたら、売ることが目的になってしまいます」

財務官は眉をひそめた。

「研究費はどうする」

「製造費や検査費、研究に必要な費用は計算できます。

でも、人の寿命そのものに値札をつけることはできません」

リオンは静かに続けた。

「費用を負担する仕組みと、誰が使えるかという判断は分けて考えましょう」

議論は午後まで続いた。

各国が共同で長期記録を管理すること。

研究参加は本人の意思を尊重し、危険が見つかれば中止すること。

結果を隠さず、製造方法と品質基準を検証できるようにすること。

完成した場合の費用負担は、公的な支援も含めて改めて検討すること。

一つずつ合意が積み重なっていった。

会議の最後、議長が尋ねた。

「結局、長寿薬の値段はいくらになるのですか」

リオンは微笑んだ。

「今は決めません。

それが、私たちの答えです」

議長は苦笑した。

「世界一の薬師が寿命の値段を決めると聞いていたが、値段をつけないとはな」

「命の値段を決める権利は、私にはありませんから」

会議が終わったあと、ルーシェはリオンに尋ねた。

馬車の車輪が小石を踏み、かすかな音を立てた。

ルーシェは師匠の寝顔を見つめた。

いつもなら、少しでも珍しい薬草を見つけると馬車を止めたがる人だった。

今日は道端の花にも気づかないほど眠っている。

胸の奥に、小さな不安が生まれた。

それは、どんな検査石にもまだ映らない予感だった。

「師匠。

いつか本当に長寿薬が完成したら、世界は変わるでしょうか」

「変わると思う。

だから、薬だけ作って終わりにはできないね」

「長生きした人が、幸せに暮らせる世界も必要なんですね」

「うん。

そこは薬師だけでは作れない」

二人はベルナへ向かった。

オルドの畑では、秋の種まきが始まっていた。

老人は椅子に座り、孫のエマと一緒に種を選んでいる。

「先生、薬はできたかのう」

「まだです」

リオンが答えると、オルドは笑った。

会議のあと、財務官がリオンを呼び止めた。

「あなた方は金の話を嫌っているように見える」

「嫌いではありませんよ。

工房を続けるには必要ですから」

「では、なぜ値段を決めない」

「薬を作る費用なら、きちんと計算します。

でも、まだ安全性も効果も確かめられていない薬に、先に値段をつけたくないんです」

財務官はしばらく考え、頷いた。

「なるほど。

売る約束をした瞬間、研究の判断が曲がるかもしれないということか」

「そういう危険もあります」

会議のあと、財務官がリオンを呼び止めた。

「あなた方は金の話を嫌っているように見える」

「嫌いではありませんよ。

工房を続けるには必要ですから」

「では、なぜ値段を決めない」

「薬を作る費用なら、きちんと計算します。

でも、まだ安全性も効果も確かめられていない薬に、先に値段をつけたくないんです」

財務官はしばらく考え、頷いた。

「なるほど。

売る約束をした瞬間、研究の判断が曲がるかもしれないということか」

「そういう危険もあります」

「なら、研究費の監査は私が引き受けよう。

金の使い方で疑われるのは、あなた方も困るだろう」

リオンは深く頭を下げた。

「助かります」

ルーシェはそのやり取りを見て、少しだけ安心した。

薬師と役人が同じ答えを出せなくても、協力できることはあるのだ。

「なら、研究費の監査は私が引き受けよう。

金の使い方で疑われるのは、あなた方も困るだろう」

リオンは深く頭を下げた。

「助かります」

ルーシェはそのやり取りを見て、少しだけ安心した。

薬師と役人が同じ答えを出せなくても、協力できることはあるのだ。

「それでいい。

わしのために、誰かを危険にさらすなよ」

「約束します」

ルーシェは老人の手を握った。

「ひ孫さんが生まれたら、教えてくださいね」

「もちろんじゃ。

お前さんたちにも抱かせてやる」


夕方、二人は王都へ戻る馬車に乗った。

リオンは珍しく、窓にもたれて眠っていた。

「師匠、疲れました?」

返事はない。

ルーシェは毛布を掛けようとして、師匠の右手に目を留めた。

指先に、細い黒い筋が浮かんでいる。

「……何、これ」

最初は薬草の染みかと思った。

だが、布で軽く拭いても消えない。

ルーシェは手首をそっと持ち上げた。

黒い筋は、皮膚の下から伸びているように見えた。

「師匠?」

リオンが薄く目を開けた。

「どうしたの」

「この手、いつからですか」

リオンは自分の指を見て、わずかに表情を変えた。

「……少し前からかな」

「どうして言ってくれなかったんですか」

「大したことはないと思っていたんだ」

ルーシェは首を振った。

「患者さんにも、そう言うんですか?」

リオンは答えなかった。

「明日、検査します。

絶対です」

「分かった」

いつもなら冗談を返す師匠が、素直に頷いた。

そのことが、ルーシェには何より怖かった。

窓の外では、夕日が沈もうとしていた。

世界中の人の寿命を延ばそうとしていた薬師の体に、誰も知らない異変が起きていた。

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