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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第九話:家という病

調合室を出る。

廊下は、静かだった。

「……妙ですね」

ルーシェが小さく呟く。

「騒ぎになっていない……」

「抑えられてるんだろうね」

リオンは歩きながら言う。

「この規模の屋敷なら、“内側の問題”は外に出さない」

足音が響く。

二人分だけ。

「……案内できます」

ルーシェが前に出る。

「父の部屋は、中央棟の最奥です」

「助かる」

短い返答。

だが、その声は少しだけ柔らかかった。

長い廊下。

重厚な扉。

豪奢な装飾。

だが――

「……息苦しい」

ルーシェが呟く。

「閉じてるからね」

リオンは一言で切った。

「外の空気が入らない場所は、腐る」

やがて、辿り着く。

他とは明らかに違う扉。

分厚く、重く、装飾が少ない。

「……ここです」

ルーシェの手が、わずかに震える。

「開けるよ」

リオンは確認もせず、取っ手を回した。

扉は――

抵抗なく、開いた。

「……待っていた」

低い声。

広い部屋。

机。

書類。

そして――男。

ルーシェの父。

「遅かったな」

その視線は、真っ直ぐに二人を捉えていた。

「……父上」

ルーシェの声が固くなる。

男は、娘を見ていない。

見ているのは――リオン。

「お前が外の錬金薬師か」

「そうだけど」

リオンは肩をすくめる。

「そっちは依頼主を毒殺するのが趣味らしいね」

「必要な処置だ」

即答。

調合室の男と、同じ言葉。

ルーシェの顔が歪む。

「……やっぱり……」

「理解が早くて助かる」

父は、初めて娘を見る。

その目に、感情はない。

「お前はこの家に不要だ」

「……なぜですか」

震えを押し殺した声。

「理由を、教えてください」

沈黙。

だが、父は隠さない。

「この家は、貴族だ」

「血統、権力、影響力」

「それを維持し、拡大するために存在する」

淡々とした説明。

「お前には“それ”がない」

「……努力はしました」

「結果がない」

即座に切り捨てる。

「才能もない」

「従順でもない」

「利用価値が低い」

一つずつ、言葉が刺さる。

「だから、処分する」

ルーシェは、言葉を失う。

だが――

「なるほど」

リオンが口を開いた。

「合理的だ」

ルーシェが顔を上げる。

父も、わずかに眉を動かす。

「だが、間違ってる」

リオンの声は静かだった。

「何がだ」

「全部」

即答。

空気が凍る。

「あなたのやってることは“最適化”じゃない」

「“短絡”だ」

父の目が細くなる。

「説明しろ」

「簡単だよ」

リオンは一歩進む。

「人材を“完成品”としてしか見てない」

沈黙。

「使えないなら切る」

「価値がないなら捨てる」

肩をすくめる。

「それ、誰でもできる」

「……」

「問題は、“使えるようにする”ことだ」

父の視線が鋭くなる。

「教育、環境、選択肢」

「それを整えれば、人は変わる」

「理想論だ」

「違うね」

リオンは首を振る。

「現実だ」

そして、ルーシェを見る。

「この子はもう変わってる」

ルーシェの目が揺れる。

「毒を盛られても生きてる」

「自分で選んで、ここまで来た」

静かな言葉。

だが、重い。

「それを“価値がない”って言うなら――」

リオンは父を見据える。

「見る目がないのは、そっちだ」

沈黙。

数秒。

「……面白い」

父が、初めて笑った。

「外の人間は、そういう見方をするのか」

机に手を置く。

「だが、それでは“家”は守れない」

「守れてないだろ」

即答。

空気が裂ける。

「内部で毒を回し、排除を繰り返す組織は――」

一歩。

「いずれ自壊する」

父の笑みが消える。

「それが“病”だ」

静かな断定。

「……病、だと?」

「そう」

リオンは頷く。

「この家は、もう壊れ始めてる」

沈黙。

重い空気。

ルーシェが、ゆっくりと前に出る。

「……父上」

その声は、もう震えていない。

「私は、この家を出ます」

父の目が、わずかに動く。

「そして――」

深く息を吸う。

「あなたのやり方を、外で証明します」

静かな宣言。

「“切り捨てないやり方”でも、人は価値を持てると」

沈黙。

長い沈黙。

やがて、父は口を開いた。

「……勝手にしろ」

それだけだった。

止めない。

引き留めない。

興味もない。

完全な切り捨て。

だが――

ルーシェは、もう揺れなかった。

「行こう」

リオンが背を向ける。

「はい」

ルーシェが後に続く、

扉に手をかけたリオンが、足を止めた。

ルーシェが振り返る。

父も、わずかに視線を向ける。

リオンは振り返らないまま、淡々と言う。

「今回は見逃す」

静かな声。

「仮にもあんたは、この子の父親だ」

わずかな間。

「だから“今回だけ”は、何もしない つまりは何もしない」

ルーシェの目が揺れる。

父は黙っている。

「でも――」

リオンの声が、ほんの少し低くなる。

「もし次があるなら」

一拍。

「刺客でも、毒でも、何でもいい」

ゆっくりと振り返る。

その目には、いつもの軽さはなかった。

「この子に手を出した時点で――敵だ」

沈黙。

完全な、無音。

「その時は」

一歩だけ視線を落とし、そして戻す。

「安全とか関係なく、許さない」

断言。

「家ごと崩壊させてやる 私にはそれが出来る」

父の目が、わずかに細くなる。

だが、何も言わない。

リオンはそれ以上何も言わず、背を向けた。

二人は歩き出す。

扉へ。

その背中に、父は何も言わない。

ただ――

「……外の錬金薬師」

リオンが足を止める。

振り返らない。

「そのやり方で、どこまで行けるか」

わずかな間。

「見せてもらおう」

リオンは、少しだけ笑った。

「いいよ」

そして――

「失敗例としてじゃなくてね」

扉が閉まる。

重い音。

その向こうで――

一つの“家”が、静かに終わった。

そして。

新しい選択が、始まる。

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