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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第十話:解放と警告

工房の地下室。

薄暗い石の部屋に、かすかな光が差し込んでいた。

「……起きてるな」

その後ろで、ルーシェが様子を見ていた。

「この人……」

「最初に来た刺客だよ」

リオンが扉を開けながら言う。

鎖に繋がれた男――捕らえられた刺客が、ゆっくりと顔を上げた。

「……殺さないんですね」

かすれた声。

「必要がないからね」

リオンは淡々と答える。

だが空気は軽くない。

リオンは机の上に小瓶を置いた。

コトン、と小さな音。

「毒、抜いてある」

「……は?」

男の眉が動く。

「お前、体内に仕込まれてた“制御毒”あるだろ」

沈黙。

それが答えだった。

「任務失敗で発動するやつ。あれ、面倒だから外しておいた」

さらりと言う。

だが内容は異常だった。

男の顔色が変わる。

「……そんなことが、できるのか」

「できるよ」

リオンはあっさり肯定した。

「安全に、ゆっくりね」

ルーシェが少しだけ驚いた顔をする。

男は、しばらく言葉を失っていた。

「……なんでだ」

やがて絞り出す。

「殺す方が楽だろ」

「楽だけど意味がない」

リオンは鎖に手をかける。

カチャ、と音が響く。

「私は“安全に解決する”方が好きなんだ」

最後の拘束を外す。

鎖が床に落ちた。

自由。

だが――男は動かない。

動けない。

「……いいのか」

「いいよ」

リオンは扉の方へ顎をしゃくる。

「帰りな」

沈黙。

男の中で、何かが崩れていた。

「……罠じゃないのか」

「そんな面倒なことしない」

即答。

そして――

「その代わり、伝言がある」

空気が変わる。

男の背筋が伸びる。

「……雇い主にか」

「そう」

リオンは壁にもたれながら言った。

「話はついた」

短い一言。

だが重い。

「今回は見逃す」

「これ以上、あの子に手を出すな」

静かな声。

ルーシェがわずかに目を見開く。

男は黙って聞いている。

リオンの目が、わずかに細くなる。

「次があったら」

一拍。

「お前を本当に“不能”にする 雇い主も同じ目に合わせる」

地下室の空気が凍る。

「その上で腕が動かないとか、足が動かないとか――」

指で軽く数える。

「いくらでもやりようはある」

事実だけを並べる口調。

脅しではない。

説明だった。

「命は取らない」

リオンは続ける。

「その代わり、“何もできない状態”で生きてもらう」

沈黙。

刺客の喉がわずかに鳴る。

「……本気か」

「さっき見ただろ」

リオンは軽く瓶を指す。

「毒を抜けるなら、残すこともできる」

逃げ場のない論理。

男は理解した。

「……伝える」

低い声。

だが、はっきりとした意志。

リオンは小さく頷いた。

「それでいい」

男は立ち上がる。

ふらつきながらも、一歩、また一歩。

扉の前で止まる。

振り返る。

「……お前、何者だ」

リオンは少し考えてから答えた。

「ただの錬金薬師」

一瞬の沈黙。

「……化け物だろ」

小さく吐き捨てて、男は去った。

扉が閉まる。

地下室に静寂が戻る。

しばらくして――

「……逃がして、よかったんですか?」

ルーシェが静かに尋ねる。

「いいよ」

リオンはあっさり言う。

「殺すより効く」

「……?」

「恐怖は、広がるからね」

軽く肩をすくめる。

「一人帰せば、十人に伝わる」

ルーシェは少しだけ息を呑んだ。

「それに――」

リオンは階段へ向かう。

「もう“無駄な刺客”は来ないはずだよ」

「どうしてですか?」

振り返らずに答える。

「来ても意味がないって、わかったから」

静かな確信。

二人は地上へ戻る。

朝の光が差し込む工房。

「さて」

リオンが手を叩く。

「仕事に戻ろうか」

「仕事……ですか?」

「うん」

机の上には、すでに材料が並んでいる。

「助手の初仕事だ」

ルーシェの表情が、少しだけ明るくなる。

「何をすれば?」

リオンは一枚の紙を差し出した。

「まずはこれを覚えて」

そこには大きく書かれている。

――安全型ポーション基礎手順。

「ここからが本番だよ」

外では、風が静かに流れていた。

嵐の前の静けさではない。

嵐が、避けられたあとの静けさだった。

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