↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/100

第八十話 ポーションを兵器にするな

「痛みも疲れも感じない兵士を作る?」

ルーシェは研究計画書を読み、思わず声を上げた。

「そんな薬を使ったら、体が壊れるまで戦い続けてしまいます!」

帝国の使者は肩をすくめた。

「戦場では、それが強さだ」

リオンは計画書を閉じた。

「強さではありません。

危険に気づけなくなるだけです」

「戦争を知らぬ薬師の言葉だな」

使者は冷たく笑った。

「兵士は命令に従い、戦うものだ。

痛みを消せば、恐れず前へ進める」

ルーシェは拳を握った。

「兵士だって人間です!」

会場が静まった。

「怪我をしたら痛いし、疲れたら休まないといけません。

それを薬で無理やり消して、戦わせるなんて……」

使者は彼女を睨んだ。

「感情論だ」

「違います」

リオンが答えた。

「痛みには、体が危険を知らせる役目があります。

治療のために和らげることと、危険を無視させることは別です」

使者は机を叩いた。

「帝国に協力しないというのか!」

「その計画には協力できません」

リオンは静かに言った。

使者は顔を赤くし、部下たちを連れて去った。

残された薬師たちは、不安げに顔を見合わせた。

「帝国を敵に回して、大丈夫なのか?」

「研究会を閉鎖させられるかもしれない」

「材料の輸送を止められたら……」

ルーシェは黙っていた。

技術を公開すれば、誰かが悪い使い方をするかもしれない。

でも、隠せば、必要な患者に届かなくなる。

どちらが正しいのだろう。

その夜、ルーシェはリオンに尋ねた。

「師匠。私たち、技術を公開して良かったんでしょうか」

リオンはしばらく考えた。

「難しい問題だね」

「帝国みたいな国が、勝手に危険な薬を作ったら……」

「その可能性はある」

リオンは窓の外を見た。

「でも、知識を全部隠したら、ノエルのような人も学べなくなる。

ロダンのような町にも薬が届かない」

「じゃあ、どうすれば?」

「公開するだけで終わりにしないことだと思う」

リオンは帳簿を開いた。

「安全基準を作る。

事故を記録する。

危険な注文を受けた薬師が、相談できる場所を作る。

患者さんの同意なしに薬を使わせない」

ルーシェは顔を上げた。

「薬を作る人たちで、守る仕組みを作るんですね」

「そう。

私たちだけで全部は防げないけど、何もしないよりずっといい」

翌日、研究会は緊急会議を開いた。

各国の薬師たちは、長い時間をかけて議論した。

軍の医療に協力することまで禁じるべきか。

危険な薬の研究を、どこまで公開するべきか。

患者を守るために、何を記録するべきか。

意見は簡単にはまとまらなかった。

だが最後には、共通の原則が生まれた。

医療のための技術は共有する。

強制投与や、危険を無視させるための薬には協力しない。

副作用と事故の記録を隠さない。

危険な注文を受けた薬師は、国を越えて相談できる。

共同声明を作る途中、帝国の軍医から一人の代表が立ち上がった。

「私は戦場で、痛みを和らげる薬がなければ助からなかった兵士を知っています。

軍で使う薬を全部否定されるのは困ります」

ルーシェは頷いた。

「私たちも、軍の治療を否定したいわけではありません」

「では、何が違う?」

リオンが答えた。

「怪我を治すために痛みを和らげるのと、怪我に気づかないまま戦わせるために痛みを消すのは、目的が違います。

使う人が説明を受け、拒否できるかどうかも大切です」

軍医はしばらく考えた。

「……戦場では、本人の意思を確認する時間がないこともある」

「緊急時の治療は別に考える必要があります。

でも、危険な命令を正当化するために薬を使うこととは分けるべきです」

議論は夜まで続いた。

簡単な答えは出なかった。

だからこそ、声明には『医療目的』『本人の意思』『安全性の検査』『事故の報告』という言葉が何度も書き直された。

ルーシェは最後の原稿を見つめた。

「師匠、薬を作るより難しいですね」

「そうだね。でも、これも薬師の仕事なんだと思う」

窓の外では、遠くの鐘が鳴っていた。

かつて治療を消していた鐘は、今ではただ時間を知らせる音に戻っている。

ルーシェはその音を聞きながら、今回の旅で学んだことを思い返した。

強い薬を作るだけでは足りない。

誰が、何のために、どう使うのか。

そこまで考えて初めて、人を助ける技術になる。

ルーシェは完成した声明を読み上げた。

「薬は、人を救うために作るものです」

会場に拍手が広がった。

その夜、帝国から一通の手紙が届いた。

差出人は、軍の医師だった。

『私は帝国軍の軍医です。

戦場で傷ついた兵士を、敵味方なく治療したい。

どうか、安全な治療技術を教えていただけませんか』

ルーシェは手紙を読み終え、リオンを見た。

「師匠。どうしましょう」

「君はどうしたい?」

ルーシェは迷わなかった。

「教えたいです。

患者さんを救うためなら」

リオンは微笑んだ。

「私も同じだよ」

数週間後、研究会の成果は各国へ広がり始めた。

薬師たちは、国境を越えて知識を共有し、危険な使い方を防ぐための連絡網を作った。

ルーシェは工房の窓から、遠くへ続く街道を眺めた。

「師匠。世界中に薬を届けるって、思ったより大変ですね」

「そうだね」

「でも、少しずつ進んでいる気がします」

「うん。少しずつでいいんだよ」

そのとき、ベルナから一通の手紙が届いた。

差出人は、百歳を超える老人オルドだった。

『若返りたいわけではない。

ただ、もう少しだけ孫と生きたい。

そんな薬は作れんかのう』

ルーシェは手紙を見つめた。

「師匠……今度は、寿命を延ばす薬ですか?」

リオンはしばらく考え、静かに笑った。

「難しそうだね。でも、調べる価値はあるかもしれない」

世界一の薬師と、その弟子。

二人の次の研究は、やがて世界中の王侯貴族を巻き込む大騒動へとつながっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。