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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第七十九話 薬を独占する帝国

金貨で買えるものと、金貨では買ってはいけないもの。

その境目を、薬師たちは問われていた。

患者の命を守るという約束は、立派な言葉にするだけなら簡単だ。

だが、そのために目の前の利益を断れるかどうかは、まったく別の話だった。

金貨の入った箱が、次々と机に置かれた。

蓋が開くと、眩しいほどの金色が広がった。

「研究資金は、すべて帝国が負担する」

帝国の使者は自信たっぷりに言った。

「その代わり、今回の研究成果の製造権と販売権を、我が帝国へ譲っていただきたい」

会場がざわついた。

「こんな大金、見たことがありません……」

ルーシェは思わず呟いた。

「欲しい?」

リオンが小声で尋ねた。

「研究器具がたくさん買えます。

でも……」

ルーシェは使者を見た。

「薬を必要とする人が、買えなくなるなら困ります」

使者は笑った。

「理想論だ。

技術には値段がある」

リオンは頷いた。

「もちろんです。

研究する人も、検査する人も、正当な報酬を受けるべきです」

「ならば、話は早い」

「でも、患者の命を人質にして利益を得る仕組みには、協力できません」

使者の笑顔が消えた。

「帝国の提案を断るのか?」

「はい」

会場が静まり返った。

使者はゆっくり椅子から立ち上がった。

「後悔するぞ」

彼はそう言い残し、部下たちを連れて去っていった。


翌日から、町の薬草市場に異変が起きた。

「薬草が買えません!」

ノエルが工房へ駆け込んだ。

「どういうこと?」

「帝国の商人が、主要な薬草を大量に買い占めているんです!」

ルーシェは市場へ走った。

店の棚は空っぽだった。

「昨日まであった薬草は?」

「全部売れちまったよ」

店主は困った顔をした。

「帝国の商人が、普段の倍の値段で買っていったんだ」

研究会の薬師たちは慌てた。

「材料がなければ、薬は作れない!」

「研究も止まってしまう!」

ルーシェは机の上に、各国の薬草一覧を広げた。

「同じ成分を含む材料を、別の地域から探しましょう」

年配の薬師が首を振った。

「簡単に言うな。

薬草は種類によって成分が違う」

「だから、検査するんです」

ルーシェは答えた。

「代わりになるかどうか、ちゃんと確かめましょう」

各国の薬師たちは、自国で採れる植物の記録を持ち寄った。

買い占めが始まって三日目、薬師組合に一人の母親が駆け込んできた。

「子どもの薬が、どこの店にもないんです!」

ルーシェはすぐに医師と連絡を取り、在庫のある診療所を探した。

幸い必要な薬は見つかったが、母親の顔には疲れが残っていた。

代替材料の研究では、最初からうまくいったわけではなかった。

ある植物は成分が似ていても苦味が強く、別のものは保存中に変質した。

「師匠、代わりになる材料を見つけるだけで、こんなに難しいんですね」

「同じ名前の薬でも、作り方が変われば別の危険が出ることがあるからね」

ルーシェは試験表に赤い線を引いた。

合格した材料だけでなく、使えなかった材料の理由も記録した。

その夜、ノエルが小さな包みを持ってきた。

山の村で採れた薬草だった。

「これ、僕の知り合いが送ってくれました。

高い材料がなくても作れる薬を、昔から研究していたそうです」

ルーシェは包みを受け取った。

買い占めで閉ざされた道の向こうに、別の道が開いていた。

研究会の薬師たちは、使える材料を見つけるたび、結果を共有した。

どの国の成果かを争うより、次に困る患者のために早く知らせる。

その約束が、少しずつ実際の行動になっていた。

「薬の値段が昨日の倍になっていました。

次に必要になったら、どうすれば……」

ルーシェは母親に、薬師組合の相談窓口を案内した。

その夜、研究会では厳しい意見が飛んだ。

「帝国と交渉し直すべきだ」

「患者を守るためなら、独占契約を受け入れるしかないのでは?」

ルーシェは迷った。

自分たちが断ったせいで、困っている人がいる。

リオンが口を開いた。

「契約を結べば、今日の材料は手に入るかもしれません。

でも、明日から誰が薬を作っていいか、帝国が決めることになります」

「では患者を見捨てるのか!」

「いいえ。

今すぐ必要な薬は、残っている在庫を融通し合いましょう。

同時に、材料を一つに頼らない方法を探すんです」

その提案に、各国の薬師が立ち上がった。

「うちの診療所に在庫がある」

「山の町なら、代わりの薬草を採れる」

「輸送用の馬車を出そう」

ルーシェはようやく息を吐いた。

断るだけでは守れない。

断ったあとに、何をするかが大切なのだ。


数日後、最初の母親から手紙が届いた。

『必要な薬が届きました。

ありがとうございました』

ルーシェはその手紙を、研究会の掲示板に貼った。

山岳地帯の薬草。

海沿いに生える植物。

乾燥地で育つ低木。

成分を比較すると、同じ作用を持つものがいくつも見つかった。

「師匠、これなら材料を一種類に頼らずに済みます!」

「そうだね。ただし、品質検査は省略しないこと」

ノエルは乾燥方法を改良し、別の薬師は抽出の温度を見直した。


数日後、代替材料を使った薬の試作品が完成した。

すべてが同じ効力というわけではない。

だからこそ、用途と限界を明確にした。

薬師組合は新しい材料一覧を各地へ配った。

帝国の商人たちは、買い占めた薬草の山を前に青ざめた。

「こんなはずでは……」

だが、帝国の使者は諦めなかった。

再び工房を訪れた彼は、一枚の研究計画書を差し出した。

「ならば、もっと価値のある使い道を示そう」

計画書には、軍の紋章が刻まれていた。

『兵士の痛覚と疲労を消す戦闘用ポーション』

ルーシェは顔をしかめた。

「……これは、治療薬じゃありません」

使者は笑った。

「戦争を変える薬だ」

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