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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第七十三話 薬を飲むほど病気になる人々

鐘が鳴るたび、少女の熱が上がる。

診療所の医師が差し出した記録を見て、ルーシェは背筋が冷たくなった。

「昨日は三十八度台でした。

今朝はさらに高くなっています」

「薬を使うたび、一時的には下がるんです」

少女の母親は、眠れない夜を過ごした顔をしていた。

「どうしてでしょう。

良くなったと思うと、また苦しそうになるんです」

リオンは少女の状態を確認し、医師と相談した。

「薬を追加することが、必ずしも助けになるとは限りません。

今は体への負担を抑える処置を優先しましょう」

母親は不安そうに尋ねた。

「薬を使わなくて、大丈夫なんですか?」

「必要な治療は続けます。

ただ、原因が分からないまま同じ薬を重ねるのは危険です」

医師も説明に加わり、少女の状態を細かく見守ることになった。

ルーシェは診療所を出ると、拳を握りしめた。

「師匠。

薬を飲むほど悪くなるなんて、そんなことがあっていいんでしょうか」

「良くないよ。

だから原因を見つけよう」

二人は鐘楼へ向かった。

鐘守の老人は、細い階段を上りながら話した。

「この鐘は、百年以上前から鳴っておる。

町の人間は皆、この音で時間を知るんじゃ」

「鐘の仕組みを変えたことは?」

「わしが知る限り、ないな。

ただ、先月、王都の管理官が魔石を調べに来た」

ルーシェは足を止めた。

「先月?」

「そうじゃ。

古い部品を交換したと言っておった」

鐘の下には、大きな魔石が埋め込まれていた。

表面には、複雑な紋様が刻まれている。

「これ、どこかで見たことがあります」

ルーシェは紙を当て、慎重に紋様を写し取った。

「師匠、王宮地下の研究室で見た図形に似ていませんか?」

かつて二人が調べた、治療の負担を別の場所へ移す危険な研究。

あのとき見た魔力の流れを示す印に、確かに似ていた。

「仕組みの一部が共通しているのかもしれない。

でも、同じものとは限らないね」

リオンは魔石に触れず、検査石だけを近づけた。

鐘が鳴る前、検査石はほとんど反応しない。

鐘が鳴った瞬間、淡い赤に変わった。

「反応しました!」

「うん。

鐘の音だけじゃなく、魔力も広がっている」

ルーシェは鐘楼の窓から町を見下ろした。

市場。

診療所。

住宅街。

人々の暮らす場所すべてが、鐘の音の届く範囲にある。

「鐘を止めれば、治るんでしょうか?」

「その可能性はある。

でも、装置の仕組みが分からないまま止めるのは危険だよ」

「どうしてですか?」

「魔力をため込む仕組みだったら、止めたときに別の問題が起きるかもしれない」

鐘守は青ざめた。

「わしは、毎日そんなものを鳴らしておったのか……」

ルーシェは老人の肩に手を置いた。

「まだ原因は確定していません。

だから、一緒に調べましょう」

工房へ戻ると、リオンは古い資料を広げた。

紋様の形。

魔力の流れる向き。

一定の間隔で反応する仕組み。

ルーシェは、ある図面を見て息を呑んだ。

「これ……治療の結果を戻している?」

「たぶん、そうだね」

薬の効果を打ち消すのではない。

薬が体にもたらした変化を、過去の状態へ引き戻している。

「それなら、薬を使うほど悪くなる人がいる理由も説明できます」

鐘守は二人を見送る前に、小さな箱を持ってきた。

翌朝、ルーシェは診療所で少女に会った。

小さな手には、母親が作った布の人形が握られている。

「お薬、また痛くなるの?」

その問いに、ルーシェは胸が詰まった。

「今は、体が楽になる方法を先生たちと考えているよ。

怖いことがあったら、すぐ教えてね」

少女は小さく頷いた。

ルーシェは病室を出てから、しばらく壁にもたれた。

薬師の言葉は、患者の明日を左右する。

簡単に安心させることも、無責任に希望を約束することもできなかった。

「先月、交換した部品の古い方じゃ。

捨てろと言われたが、何となく残しておいた」

箱の中には、黒ずんだ魔石の欠片があった。

「これ、検査してもいいですか?」

「もちろんじゃ。

役に立つなら持っていってくれ」

工房で調べると、古い欠片からは弱いながら安定した魔力が出ていた。

新しい部品の記録と比べると、反応の強さがまるで違う。

「師匠、古い部品は小さな反応しか出していません」

「新しい方は、その何倍も強いね」

「誰かが、わざと強くしたんでしょうか」

「まだ分からない。

装置が古くなって補強が必要だったのかもしれない」

ルーシェは歯がゆかった。

疑う理由はある。

でも、証拠が足りない。

そこへ診療所の看護師が訪れた。

少女の母親から預かった手紙を持っている。

『あの子は、今夜も頑張っています。

原因が分かるまで待ちます。

どうか諦めないでください』

ルーシェは何度も読み返した。

待つしかない人に、待ってほしいと言うことの重さを感じた。

「師匠。

早く答えを出したいです」

「私もだよ。

でも、急ぐことと、確かめずに決めることは違う」

ルーシェは手紙を丁寧に折り、帳簿にはさんだ。

ルーシェは少女の記録を指した。

「薬で熱を下げるたび、体が別の反応を起こす。

でも、治療の結果だけ戻される。

体への負担が積み重なっているのかもしれません」

リオンは頷いた。

「ただし仮説だ。

患者の記録と照らし合わせて確かめよう」

そのとき、診療所から使いが飛び込んできた。

「先生! 少女の熱が、また上がりました!」

ルーシェは立ち上がった。

「鐘を止めてください!」

リオンは彼女を見た。

「気持ちは分かる。

でも、止めたら何が起こるか分からない」

「じゃあ、どうするんですか!」

「装置の管理者に会おう。

交換した部品の記録も必要だ」

ルーシェは唇を噛んだ。

正しいと思うことを、すぐに実行できない。

それがこんなにも苦しいとは思わなかった。

夜、王都の管理官へ連絡を送った。

返事は短かった。

『鐘楼の地下施設は国家機密につき、立ち入りを認めない』

ルーシェは手紙を握りしめた。

「……国家機密?」

リオンは鐘楼の方角を見た。

「どうやら、ただの鐘じゃなさそうだね」

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