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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第七十話 王国の薬を、世界に配ることになった

王都へ戻ったリオンとルーシェを待っていたのは、世界各国から届いた地図だった。

薬師が足りない地域。

医師がいない村。

冬になると道が閉ざされる山間部。

薬の材料を輸入できない国。

地図に赤い印をつけていくと、机の上が赤く染まっていった。

「……多すぎませんか?」

ルーシェは地図を見つめた。

「世界は広いからね」

「そんな一言で済ませないでください!」

王宮の会議室には、医療担当官と商会の代表が集まっていた。

「王国で作った薬を輸出すればよいのでは?」

一人の商人が提案した。

「生産量を増やし、各国へ売るのです。

王国の収入にもなります」

別の商人も頷いた。

「需要は十分にあります。

世界中の患者が、王国のポーションを求めているのですから」

ルーシェは地図の北側を指した。

「でも、ロダンのような町には冬になると運べません」

「春にまとめて送ればよい」

「保存期間が短い薬はどうするんですか?」

商人は言葉を詰まらせた。

リオンが静かに口を開いた。

「薬を売ることは必要です。

でも、それだけでは足りません」

「では、どうするのです?」

「現地で作れる薬を増やしましょう」

会議室がざわついた。

「製造技術を他国へ渡すというのか?」

「それでは王国の商人が損をする!」

「秘密の調合法まで公開するつもりか!」

リオンは頷いた。

「安全な薬を作るために必要な知識は、できるだけ共有したいと思っています」

商人の一人が立ち上がった。

「あなたは商売というものを分かっていない!」

「そうかもしれません」

リオンは笑った。

「だから、商売の仕組みは皆さんに相談したいんです」

「相談?」

「薬の製造だけでなく、検査器具、材料の供給、教育、記録の管理。

仕事はたくさんあります」

ルーシェが続けた。

「現地の薬師が増えれば、王国の器具や技術も必要になります。

ただし、患者さんが安全に薬を使えることを優先したいんです」

商人たちは顔を見合わせた。

しばらくして、年配の商会長が口を開いた。

「……製造方法を隠すより、信頼できる工房を増やした方が、長い目で見れば商売になるかもしれんな」

こうして、王国は各国との共同研究計画を進めることになった。

薬師を育てる講習所。

薬の品質を調べる検査所。

失敗や副作用の情報を共有する記録網。

現地の材料を研究する共同工房。

計画書は、あっという間に何十枚にもなった。

「師匠、これ全部、私たちがやるんですか?」

ルーシェは青ざめた。

「まさか」

リオンは笑った。

「全部やろうとしたら、私たちが倒れちゃうよ」

「良かった……」

「最初の仕組みを作って、あとは各国の人たちに任せよう」

ルーシェは大きく頷いた。

「それなら、できそうです」


数週間後。

王国の薬師たちを乗せた馬車が、各地へ出発した。

リオンとルーシェも、その一隊に加わることになった。

出発の日、工房の前には大勢の人が集まった。

中央病院の院長。

ベルナの薬屋マルク。

王宮の役人。

かつて二人に助けられた患者たち。

「ずいぶん大げさですね」

ルーシェは少し照れくさそうに言った。

「旅行に行くだけなのにね」

「仕事です!」

リオンは笑った。

マルクが手を振った。

「帰ってきたら、また失敗談を聞かせてくれ!」

「成功談じゃないんですか!?」

ルーシェの抗議に、皆が笑った。

馬車が動き出す。

王都の門が遠ざかり、広い街道が続いていた。

「師匠」

「何?」

「私たち、世界中に薬を届けられるでしょうか」

リオンはしばらく考えた。

「私たちだけでは無理だと思う」

「ですよね……」

「でも、誰かに教えたことが、その人の手で別の誰かに伝わっていくなら、きっと遠くまで届くよ」

ルーシェは窓の外を見た。

街道の向こうには、まだ見たことのない国々が広がっている。

「じゃあ、まずは一つ目の国からですね」

「そうだね」

二人は笑い合った。

夕暮れ、ルーシェは馬車の中で新しい帳簿を開いた。

「旅先で失敗したことも、全部書いておきます」

「いいね。

私たちが帰ってきたとき、次に出発する人の役に立つ」

「でも、できれば失敗は少ない方がいいです」

「もちろん。

でも、何も起きない旅なんて、たぶんないよ」

ルーシェは笑って帳簿の最初のページに日付を書いた。

『第一日。

出発。

今のところ異常なし』


その日の夜。

国境近くの宿で、突然騒ぎが起きた。

「誰か! 薬師はいないか!」

男たちが担架を運び込んできた。

担架の上には、腕に大きな傷を負った旅人が横たわっていた。

傷口には、すでに高級回復薬が使われた跡があった。

「薬を使ったんです! でも、傷が閉じない!」

ルーシェはすぐに状態を確認した。

「師匠、出血が続いています!」

「医師を呼んで。

まず止血と傷の処置を優先しよう」

リオンは薬瓶を受け取った。

中身を検査すると、成分に異常はなかった。

「偽物ではありません」

ルーシェが言った。

「なのに、効かない……?」

リオンは旅人の腕を見つめた。

一瞬だけ傷が閉じかけた。

だが次の瞬間、何事もなかったかのように開いた。

「……おかしい」

リオンの声が低くなった。

「治癒が起きていないんじゃない。

起きた治癒が、消えている」

宿の外で、遠くの鐘が鳴った。

その音に合わせるように、傷口から再び血がにじんだ。

ルーシェは息を呑んだ。

「師匠。

今の、見ましたか?」

「ああ」

リオンは静かに答えた。

「どうやら、この国には、薬を効かなくする何かがあるらしい」

世界へ薬を届ける旅は、始まったばかりだった。

そして二人は、これまで経験したことのない謎に足を踏み入れようとしていた。

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