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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第六十九話 長生きできる国を作ったら、隣国が怒り出した

王宮の会議室に入った瞬間、ルーシェは険悪な空気を感じた。

長い机の向こうに座っていたのは、隣国の使節団だった。

使節長の男性は、王国の医療統計を机に置くと、強い口調で言った。

「我が国では、同じ病気で今も多くの人が亡くなっています。

それなのに、王国では死亡率が下がり、寿命が延びている。

これはどういうことですか」

王宮の役人が答えた。

「我が国が長年、医療と衛生の改善に取り組んできた結果です」

「それは承知しています!」

使節長は声を荒らげた。

「問題は、なぜその技術が我が国に届かないのかということです!」

ルーシェは思わず口を開いた。

「薬の作り方は公開していますよ?」

使節長は彼女を見た。

「公開された紙だけで薬が作れるなら、苦労はありません」

その言葉に、ルーシェは黙った。

「我が国には、正確な検査石が足りない。

薬草の品質を調べる設備もない。

農村には薬師すらいない場所がある。

作り方だけ渡されても、同じ薬を安全に作れないのです」

リオンはゆっくり頷いた。

「なるほど。

こちらが足りないものを、きちんと理解していませんでした」

使節長は意外そうな顔をした。

「反論しないのですか?」

「困っているという話を聞いたのに、反論しても仕方ありませんから」

会議室の空気が少し和らいだ。

「一番困っている地域を、教えてください」

リオンが尋ねると、使節長は地図を広げた。

国境からさらに北へ進んだ山間部。

ロダンという小さな町が、赤い印で囲まれていた。

「冬になると山道が雪で閉ざされます。

薬を運ぶことが難しく、病人が出ても王都まで連れていけません」

「現地に薬師は?」

「年配の薬師が一人だけです。

後継者はいません」

ルーシェは地図を見つめた。

「師匠。

行きましょう」

「そうだね」

使節長は目を見開いた。

「あなた方が、直接?」

「薬を運ぶだけでは、次の冬も同じことになります」

ルーシェは答えた。

「現地で薬を作れるようにするんです」


数日後、二人はロダンへ向かった。

山道は狭く、馬車は何度も立ち往生した。

「師匠、こんな道を毎日薬を運ぶなんて無理です」

「だから現地で作るんだよ」

町に着くと、古い薬屋が一軒だけあった。

店主は白髪の老人で、名前をガレスといった。

「王国の有名な薬師が来るとはな」

ガレスは二人を見て、苦笑した。

「うちには立派な設備なんてないぞ」

「立派な設備が必要ない方法を、一緒に考えたいんです」

リオンが答えた。

ガレスは店の奥へ案内した。

そこには古い調合台と、何十年も使い込まれた器具が並んでいた。

「この辺りで採れる薬草は、王国とは違う。

輸入した材料は高すぎて、村人には買えん」

ルーシェは棚の薬草を一つずつ確認した。

「この草、王国ではあまり使いませんね」

「山の北側に生える。

熱を下げるために昔から使っておる」

「成分を調べてもいいですか?」

「もちろんだ」

二人は数日かけて、地元の薬草を調査した。

王国で使っている材料と同じ成分を含むものもあれば、似ていても作用が違うものもあった。

「師匠、この薬草なら代わりになるかもしれません」

ルーシェは検査結果を差し出した。

「ただし、成分の量が季節によって変わります」

「それなら、収穫時期ごとの検査が必要だね」

ガレスは二人の作業を見て、感心したように言った。

「王国の薬師は、もっと魔法みたいなことをすると思っていた」

「魔法みたいなこともしますよ」

ルーシェは笑った。

「でも、安全な薬を作るには、地味な確認の方が大事なんです」


数日後、町の若者たちを集めた講習が始まった。

薬草の見分け方。

乾燥と保存の方法。

正確な量の測り方。

薬瓶への表示。

異常があれば医師へ相談すること。

最初は三人しか集まらなかった。

しかし、講習で作った簡易検査薬が役に立つと分かると、参加者は少しずつ増えた。

ある日、若い母親が工房を訪れた。

「子どもが熱を出したんです。

薬をください」

ルーシェはすぐに薬を渡さなかった。

「いつから熱がありますか? ほかに症状は?」

話を聞くと、子どもは水分をほとんど取れていなかった。

リオンは医師に連絡し、必要な診察を受けられるよう手配した。

母親は不安そうだったが、翌日には子どもの状態が落ち着いた。

「薬を売ってくれるだけじゃないんですね」

母親が言うと、ガレスは頷いた。

「薬師の仕事は、薬瓶の中だけじゃないらしい」

冬が近づく頃、ロダンには小さな共同調合所ができた。

地元の薬草を使い、品質を検査しながら必要な薬を作る。

難しい治療が必要な場合は、遠方の医師と連絡を取る手順も整えた。

出発の日、ガレスが二人を見送った。

「薬を大量に置いていくのかと思っておった」

「必要な分は置いていきますよ」

ルーシェは笑った。

「でも、一番大事なのは、ここで作り続けられることです」

ガレスは深く頭を下げた。

「薬をもらうより、大きな贈り物をもらった気がする」

帰りの馬車で、ルーシェは山々を眺めた。

「師匠。

世界には、まだ薬が届かない場所がたくさんあるんですね」

「そうだね」

「全部の場所へ行くのは無理ですよね」

「二人ではね」

リオンは笑った。

「でも、薬を作れる人が増えたらどうだろう」

ルーシェは顔を上げた。

「世界中に、薬師を増やすんですか?」

「いい考えだと思わない?」

その夜、宿に一通の緊急書簡が届いた。

差出人は、隣国の王宮だった。

『国内の複数地域で、治療薬が効かなくなる異常が発生している』

ルーシェは書簡を読み直した。

「師匠……薬が足りないんじゃありません」

リオンの表情が変わった。

「効かない、ということだね」

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