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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第六十八話 病気を防いだら、王国の寿命が延び始めた

「師匠! 平均寿命が延びています!」

ルーシェは王宮から届いた報告書を調合台に広げた。

「それは良かったね」

リオンは薬草茶を飲みながら答えた。

「良かったね、じゃありません! 王国全体の数字が変わっているんです!」

感染症による死亡が減り、乳幼児の死亡も減少している。

井戸の改修や衛生教育が進んだ地域では、とくに改善が目立っていた。

リオンは表の下を指した。

「でも、これは私たちの薬だけの成果じゃないよ」

「はい。

井戸を直した大工さんも、学校の先生も、病院の皆さんも」

「それと、平均寿命が延びたという数字だけでは、一人ひとりがどう暮らしているかは分からない」

ルーシェが後半のページをめくると、笑顔が消えた。

『高齢者向け住宅の不足』

『介護を担う家族の負担増』

『農村部の働き手不足』

「……喜んでばかりもいられませんね」

その日の午後、二人は王宮へ呼ばれた。

会議室には財務官、建築担当官、農業担当官、医師たちが集まっていた。

「王都では高齢者向けの住まいが不足している」

「施設を増やすべきです」

「予算がない!」

「では働ける高齢者には働いてもらおう」

「働けない者はどうする!」

言い争いが続いた。

ルーシェは、百歳のオルドを思い出した。

孫娘の結婚式で走ろうとして転び、最後にはゆっくり踊った老人。

彼は誰かに世話をされるだけの人ではなかった。

「すみません。

皆さん、本人たちに話を聞きましたか?」

財務官が眉をひそめた。

「調査票は集めている」

「調査票では、何をしたいかまでは分からないと思います」

建築担当官が答えた。

「全員を会議へ呼ぶわけにもいくまい」

「全員でなくても、違う立場の人に来てもらえませんか」

リオンが静かに言った。

「困っている人の話を聞かずに、必要なものを決めるのは難しいですから」


数日後、王宮に高齢者の代表が招かれた。

その中にオルドもいた。

「王宮とは立派なところじゃ。

床が滑りそうで怖いわい」

「今日は走らないでくださいね」

ルーシェが言うと、オルドは笑った。

「まだ言うか!」

会議が始まると、オルドは杖をついて立ち上がった。

「長生きして困ることはあるかと聞かれたが、あるとも。

若い者が、わしに何もさせてくれんのじゃ」

農業担当官が尋ねた。

「畑仕事を続けたいと?」

「全部じゃない。

重い荷物はもう無理じゃ。

でも、種のまき方なら教えられる。

土を見れば、今年の作物の出来も少しは分かる」

年配の女性が続いた。

「私は裁縫を教えたいんです。

でも、教える場所がありません」

別の男性は言った。

「わしは歩くのが大変で、買い物に行けん。

働く話より、まず家から出られるようにしてほしい」

会議室の空気が変わった。

必要なものは、人によって違う。

ところが、財務官は首を振った。

「希望は分かった。

だが、全部に予算をつけるわけにはいかん」

その言葉に、一人の女性が立ち上がった。

エマだった。

オルドの孫娘で、先日結婚したばかりの若い女性だ。

「私も話していいですか」

「君は高齢者の代表ではないだろう」

「介護する家族の代表として来ました」

エマは手を握りしめた。

「おじいちゃんが転んだとき、私は怖かったんです。

もう何もさせたくないと思いました。

でも、畑へ行けないおじいちゃんは、日に日に元気がなくなってしまって」

オルドが目を伏せた。

「家族が全部を支えるのも、本人から全部を取り上げるのも、どちらも苦しいんです」

エマの声は震えていた。

「私は働きたい。

でも、おじいちゃんを一人にしていいのか不安で、仕事を断ったこともあります」

財務官は黙り込んだ。

そのとき、建築担当官が資料を広げた。

「町に使われていない集会所がある。

新しい施設を建てるより、改修した方が安いかもしれない」

農業担当官も頷いた。

「畑の仕事を教える場にできる。

農家の若者も助かるだろう」

「訪問支援を組み合わせれば、歩けない人も置き去りにしなくて済みます」

ルーシェが言った。

しかし財務官は、まだ難しい顔をしていた。

「試験をするなら、何を成果とする?」

「参加者の人数だけでは足りません」

リオンが答えた。

「本人が望む暮らしに近づいたか。

家族の負担がどう変わったか。

体調を悪くした人はいないか。

そこまで記録したいです」

オルドが笑った。

「わしも役に立てるかのう」

「もちろんです」

ルーシェが答えた。

だが、試験が始まってすぐ、問題が起きた。

ベルナの集会所に人が集まりすぎたのだ。

オルドの畑仕事教室は人気だった。

子どもたちだけでなく、若い農夫までやってくる。

ところが、入り口には高い段差があり、杖をついた参加者が転びそうになった。

「危ない!」

エマが駆け寄った。

幸い、怪我はなかった。

だが、ルーシェは青ざめた。

「長生きして元気に暮らすための場所で、怪我をさせるところでした」

建築担当官はすぐに段差を調べた。

「建物を借りれば済むと思っていた。

私の見落としだ」

大工たちが手すりと緩やかな通路を設けることになった。

オルドはその作業を眺めて言った。

「年寄りに来いと言うなら、来られるようにしてもらわんとな」

「そのとおりですね」

ルーシェは記録帳に書き込んだ。

『参加できる場所を作るだけでなく、そこへ安全に来られるようにすること』

一か月後。

ベルナの集会所には、毎週さまざまな人が集まるようになっていた。

オルドは畑仕事を教え、裁縫の得意な女性は子どもたちに針の使い方を教えた。

歩くのが難しい人には、町の商人たちが買い物の配達を始めた。

エマは集会所の運営を手伝いながら、少しずつ自分の仕事も増やしていった。

「おじいちゃん、今日は疲れてない?」

「少しな。

だから午後は休む」

「珍しく素直だね」

「百年も生きれば、休むことも覚えるわい」

二人は笑った。

ルーシェは、その姿を見て胸が温かくなった。

「師匠。

寿命が延びるって、ただ年を重ねることじゃないんですね」

「そうだね。

生きる時間が増えたなら、その時間をどう使えるかも大事なんだ」


夕方、王宮から急使がやってきた。

「リオン殿、至急お戻りください!」

「何かありましたか?」

「隣国の使節団が、王国の医療政策に抗議しています」

ルーシェは目を丸くした。

「病気が減ったことに、ですか?」

使者は険しい顔で頷いた。

「『王国だけが長生きできるのは不公平だ』と」

オルドは畑の向こうを見つめた。

「わしらが長生きできるようになったなら、隣の国の年寄りにも、孫と過ごす時間を分けてやれんものかのう」

リオンは静かに頷いた。

「……まずは、何に困っているのか聞きに行こう」

寿命を延ばす仕事は、王国の中だけでは終わらなかった。

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