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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第六話:侵入という処方

夜。

王都北区の空気は、昼とはまるで違っていた。

灯りは少なく、音は抑えられ、

人の気配はあるのに――誰も姿を見せない。

「……これが、私の家です」

ルーシェが小さく呟く。

目の前には、ルーシェ家本邸。

高い塀と、重い門。

だがその内側には、すでに“戦場”が出来上がっている。

「“家”じゃないね」

リオンは淡々と言った。

「閉鎖空間型の権力競争場。しかも毒入り」

「……言い方が怖いです」

「事実だよ」

リオンは壁際にしゃがみ込み、小瓶を並べた。

赤、青、緑、黒。

そして――透明。

「最終確認する」

静かな声。

「赤は身体強化。反応速度が上がるが、無理すると筋肉が裂ける」

「青は痛覚遮断。ダメージは受けるから過信するな」

「緑は持続回復。戦闘中に飲めば“死なない時間”が伸びる」

「黒は認識阻害。相手の判断を鈍らせる」

ルーシェは真剣に頷く。

「……透明は?」

「それが今回の主役だ」

リオンは一本を軽く持ち上げた。

「“存在希釈薬”」

「……え?」

「見えなくなるわけじゃない」

「“意識されにくくなる”」

ルーシェの目が見開かれる。

「人は“認識しているもの”しか見ない」

「それを外す」

「そんなこと……」

「できる」

リオンは短く言い切った。

「ただし、完全じゃない。強い警戒状態の相手には通じにくい」

「だから――組み合わせる」

静かな沈黙。

「黒で判断力を落とし、透明で意識から外す」

ルーシェは息を呑んだ。

「……侵入するんですか」

「する」

即答だった。

「逃げるだけじゃ終わらない」

「原因を止めない限り、何度でも狙われる」

ルーシェは、しばらく黙っていた。

そして――

「……やります」

その声は震えていなかった。

リオンは少しだけ目を細めた。

「いいね。覚悟はできてる」

彼女は一本の瓶を差し出す。

「まずはこれを飲め」

透明な液体。

ルーシェは一瞬迷い――飲み干した。

数秒。

「……何も、変わらないです」

「それでいい」

リオンは立ち上がる。

「変化がないのが、この薬の特徴だ」

門の脇。

警備の兵が二人、会話をしている。

「――最近物騒だな」

「例の件だろ。上がピリついてる」

その横を――

ルーシェが、歩いた。

兵は、気づかない。

視線が一瞬かすめるが、

すぐに逸れる。

「……っ」

ルーシェは息を止めながら通り過ぎる。

数歩。

十歩。

そして――角を曲がった瞬間。

「はぁ……っ」

小さく息を吐いた。

「今のが“効いてる状態”」

背後から、いつの間にかリオンが来ていた。

「心拍が上がると効果が落ちる。落ち着け」

「……無理です」

「慣れろ」

即答。

だが、その声は冷たくなかった。

屋敷の中庭。

人影が増える。

巡回。

使用人。

護衛。

そのすべてを避けながら、二人は進む。

「目標は?」

ルーシェが小声で聞く。

「毒の出所」

リオンは迷いなく答える。

「調合室か、保管庫」

「あるいは――命令系統の中枢」

ルーシェの足が止まる。

「……父、かもしれません」

その一言で、空気が変わる。

リオンは一瞬だけ沈黙し――

「可能性は高いね」

とだけ言った。

否定はしない。

慰めもしない。

ただ、現実だけを置く。

ルーシェは唇を噛み――

「行きましょう」

と前を向いた。

そのとき。

カツン。

廊下の奥から、足音。

一人の男が現れる。

重装ではない。

だが“強い”。

「……止まれ」

低い声。

視線が――こちらを捉えた。

「見えてる!?」

ルーシェの声が震える。

「いや――」

リオンの目が細くなる。

「“勘づいてる”タイプだ」

男が一歩踏み込む。

「誰だ」

その瞬間。

リオンは瓶を投げた。

黒。

破裂。

空気が歪む。

「認識阻害、強化版」

男の動きが一瞬止まる。

その隙に――

「走れ」

リオンの一言。

二人は廊下を駆け抜けた。

背後で、男の声が響く。

「待て――!」

だが、その声は途中で途切れる。

「……見失った?」

ルーシェが振り返る。

「いや」

リオンは短く言う。

「“追えなくなった”だけだ」

そして、静かに笑った。

「効いてるね」

廊下の奥。

重い扉。

「……ここです」

ルーシェが震える手で指す。

「調合室」

リオンは扉を見つめる。

「当たりだ」

その取っ手に、手をかけた。

「さあ――」

静かな声。

「“原因”を取りに行こうか」

扉が、ゆっくりと開いた。

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