第五十四話 薬を売らない薬師が、一番儲かるようになった
工房の帳簿を見たルーシェが叫んだ。
「師匠! 売上が増えてます!」
「薬をあまり売ってないのに?」
「検査料と講習料です!」
安全な薬の作り方を教え、完成品を検査する仕事が増えていた。
工房は以前より安定した収入を得ている。
「薬を独占しない方が儲かるなんて……」
「いい仕組みだね」
ルーシェは計算を続けた。
「しかも薬を作る人が増えて、患者さんも助かる」
リオンは頷いた。
「私一人が全部作るより、ずっといい」
そこへ最初の発毛治療を受けた商人が訪れた。
「先生、娘の結婚式が無事終わりました!」
帽子を取ると、きれいに整えた髪があった。
「写真代わりの肖像画です。見てください!」
絵には笑顔の家族が描かれていた。
ルーシェは胸が温かくなった。
「良かったですね……!」
商人が帰った後、リオンは言った。
「薬が売れた数より、こういう結果を増やしたいね」
帳簿をよく見ると、検査料の収入は確かに増えていた。
だが同時に、材料費と講習会の人件費も増えている。
「師匠、儲かってるのか、儲かってないのか分かりません!」
「じゃあ分けて書こう。売上と利益は別だ」
ルーシェは夜遅くまで帳簿を整理した。翌朝、ようやく実態が見えた。
「薬を売るより、検査の依頼が増えています。でも無料講習は赤字です」
「続けたいか?」
「はい。でも、このままでは続きません」
二人は組合と相談し、余裕のある工房が講習費を分担し、貧しい村には費用を減免する仕組みを作った。検査の結果を良くするために金を払うことはできないよう、料金と判定を切り離した。
ある商人が大金を積んだ。
「うちの商品に合格印を付けてくれ。細かい検査は後でいい」
ルーシェはきっぱり断った。
「合格印は売り物ではありません」
商人は顔をしかめたが、後日、正式な検査を申し込んできた。
「前より面倒になったな」
「その分、買う人は安心できます」
夕方、リオンは帳簿の最後の欄を指した。
「一番増えたのは金じゃない。俺たちを通さずに安全な薬を作れる人の数だ」
ルーシェは笑った。
「それ、帳簿にどう書けばいいんです?」
「新しい帳簿を作るしかないな」




