第五十三話 王国全土の薬を同じ規格にしたら、大騒ぎになった
王宮の会議室には、各地の薬師組合の代表が集まっていた。
「瓶の大きさまで統一するのか?」
「地方ごとに配合が違う!」
「伝統を捨てろと言うのか!」
議論は始まって十分で混乱した。
ルーシェは小声で尋ねた。
「師匠、どうします?」
「全部同じにする必要はないよ」
リオンは黒板に三つの項目を書いた。
『中身が分かること』『効き目を検査できること』『問題が起きたら追跡できること』
「この三つだけ守ってくれれば、作り方は地域ごとでいい」
会議室が静まった。
年配の薬師が手を挙げた。
「つまり、我々の技術を残していいのか」
「もちろん。違う方法がある方が研究も進む」
反対していた薬師たちも、少しずつ頷き始めた。
会議が終わると、ルーシェは深く息を吐いた。
「今日は戦闘より疲れました……」
「政治の毒は解毒しにくいからね」
「師匠、うまいこと言ったつもりですね?」
会議の終わり際、北方の薬師が立ち上がった。
「三つの条件は分かった。だが、うちの村には高価な検査器具がない」
「では王都の器具を買えと?」
別の代表が不満げに続けた。
ルーシェは用意した試験紙を取り出した。
「こちらは安価な簡易検査です。すべては測れませんが、危険な濃度の見落としを減らせます」
実演すると、北方の薬師が目を丸くした。
「これなら、うちの工房でも使える」
しかし南方の代表は首を振る。「うちの薬草では色が変わらない」
ルーシェは慌てて記録を確かめた。確かに、地域の薬材によって反応が異なる。
リオンは黒板に大きく書き足した。
『例外を隠さないこと』
「俺たちは王都のやり方を全国へ押しつけたいわけじゃない。危険を見つける方法を、各地で一緒に作りたいんだ」
会議は予定を大幅に超えた。全員が納得したわけではない。
それでも試験運用を三地域で始め、問題が出たら修正することで合意した。
廊下に出たルーシェは壁にもたれた。
「師匠、戦う方が簡単です……」
「相手を倒せば終わる戦いと違って、ここでは明日も一緒に仕事するからな」
帰り際、北方の薬師がルーシェに試験紙を一枚返した。
「うちの薬草でも使えるようにして、また持ってくるよ」
ルーシェはその紙を、大切に帳簿へ挟んだ。




